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第22話 チート転生者、勝利を確信する

 王都最大の大きさを誇る聖堂。そこに王侯貴族の馬車が集合していた。

 目的はもうじき15歳となるイラーリオ子爵ご令嬢、マルゲリータの成人を迎えるにあたって行われるみそぎの儀式に参加するためだ。

 ……ただし、ドートリッシュ家の馬車だけはなかった。そもそも儀式をする、と伝えていなかったのである。「無視した」とも取れる態度だ。


 もちろんこれには意味がある。

『魅了スキルでイージーモードな玉の輿にのっちゃいます!』のシナリオの中ではみそぎの儀式を行う時になってもマルゲリータはエレアノールにいびられていて、仲が悪かったドートリッシュ家を招かなかったのだ。

 それを踏まえての事だ。


「ラピス様、その首飾りを一時的に預からせていただけないでしょうか?」

「これですか? でもこれはエレからもらった大切なもので、できれば外したくないのですが……」

「その形は異教徒を連想させる物でして、神聖なみそぎの場にはふさわしくないと思います。儀式が終われば返却いたしますのでどうか預からせていただけないでしょうか?」

「……うーむ。そこまで言うのなら仕方ないですね。くれぐれも傷つけたりなくしたりしないでくださいよ」


 ラピス王子は受付をしている僧侶に食い下がられて折れ、土着信仰を思わせる形をしたアミュレットを渋々渡す。

 宗教関係者というのは王が絶対である王制において、王族に意見を言えて彼らの方針を曲げることすらできる唯一の存在である。

 マルゲリータは宗教関係者もある程度支配下に置いていたのだが、それが功をなした。




「マルゲリータ様、来賓(らいひん)の方々が集まりました」

「わかった。すぐ行くわ」


 そう言って控え室でみそぎのための純白の衣装に着替えたマルゲリータが動き出す……ある秘密兵器をもって。


(さーて、こいつには存分に活躍してくれないとな)


 そう思って腰につけた水晶のアクセサリーを撫でる。

 この日のために魔導学院長、テラに作らせた儀式の邪魔にならない程度のアクセサリーには強力な魔力増幅作用があった。もちろん彼女の魅力の魔力を増幅するための物だ。




 朝から始まった儀式自体は(とどこお)りなく進行して昼前まで続いた。司教による祈りの言葉に、頭に聖水のしずくを落としての清めなど、来賓の質や儀式の規模こそ違えどごく普通の儀式であった。

 ……増幅された魅了の魔力で会場が包まれていたこと以外は。


 増幅されたマルゲリータの魔力による洗脳は急速に進んでいく。儀式に出席した王侯貴族の男たちは皆瞳から生気が消えていき、とろんとした瞳になっていく。

 一部の淑女の中にはそれに怪しいと気づける者もいたが、今は大事な儀式の最中だからと口をつぐむ。

 儀式が終わり、最後にマルゲリータが締めの言葉によるスピーチが始まるころには男たちは全員マルゲリータに魅了された状態になった。


(ククク……オレの勝ちだな、エレアノール)


 マルゲリータは国の男たちを籠絡(ろうらく)したのを見て勝利を確信した。




 儀式が終わったその日の夕方。マルゲリータはひそかに「彼女」……狂気の錬金術師(マッド・アルケミスト)イザベラの潜伏先に向かい、コンタクトを取った。


「イザベラ、研究はどうなってる?」

「ヒヒヒ……これはこれはお嬢様。ついさっきまでみそぎの儀式をしていたと聞きましたが?

 いやぁ実験体と資金が手に入って研究はすこぶるはかどっております。ひょっとしたらもうじき完成形が見えて来るかもしれませんわな」


 青い眼だけが異様に光る、腰は曲がってはいないがしわがれた老婆はニヤニヤと笑う。彼女はマルゲリータと接触する前は息を殺して身をひそめ続ける逃亡生活を送っていた。

 それが今では偽名を使っているとはいえ仮の住まいも確保できたし、実験を続ける余力と財力、それに実験台が手に入るようになった。


「研究が完成したらオレにも施せよ」

「ヒャヒャヒャ。お安い御用です。やはり同じ女だけあって『不老』には興味があるようですなぁお嬢様は」

「まぁな。いつまでも若くいたいからな。しわくちゃのババァになるなんて御免だからな。あ、イザベラ。お前の言うことを悪く言ったわけじゃないからな」

「ヒヒヒ、もちろんわかっておりますとも。ご安心を」




 イザベラは錬金術の達人、いや間違いなく「天才」と言ってもいい才女だった。彼女の研究成果は軍事品の強化はもちろんの事、特に貧しい者の暮らしを豊かにしてきた。

 そのままでいれば彼女は「救貧の賢者」などと称され、錬金術の歴史の1ページにその名が刻まれるはずだった。だが、そうはならなかった。


 人は誰しも老いる。それはイザベラとて例外ではない。

 年を取ることが「成長」から「老化」へと意味が変わり、徐々に顔にシワが増え始め、筋力も膂力(りょりょく)も衰え、肌もハリがなくなり、あるいはたるんでいく。

 その「変化」いや「老化」は彼女には耐えられるものではなかった。


 そしてある日、ついにイザベラは錬金術による人体改造で「不老」を実現する事を目指してしまう。

 もちろん人体改造は「神域」に触れる行為であり錬金術師の間ではもちろん、人類にとっても最大級の禁忌(きんき)である。

 それがばれると彼女は魔導学院から追放され、国際指名手配という最大級の重罪人として追われる身となっていた。


 そんな彼女を、マルゲリータは拾った。無論、運命を変えようとするエレアノールやコーネリアス対策である。

 舞踏会の日にエレアノールを襲撃させた元人間の怪物も、コーネリアスを襲撃させた赤くてコシのないペタンとした髪の元勇者に施した改造も、イザベラの研究の過程で生まれた「副産物」だ。


「研究の成果、楽しみに待ってるよ」

「ヒャヒャヒャ。ありがたいお言葉で。では私は研究の続きがありまして」

「ん。わかった。後は任せる」


 研究の「完成品」はもちろん「副産物」も十分役に立つ。彼女を雇って正解だったとマルゲリータは思い、アジトから去っていった。




【次回予告】

自分にはおろか娘のエレアノールにさえ何も言わずにみそぎの儀を行う。

「無視した」としか言いようのない行為に辺境伯はいらだっていた。


第23話 「辺境伯、イラーリオ子爵夫人の相談を受ける」

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