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第12話 傭兵、入院する

「ハッ!」


 目が覚めると俺はベッドの上だった。白いシーツと寝具に加え、かすかに薬品特有のツンとした香りがする。どうやらここは病院らしい。


 左腕の感覚は元に戻っていて、動かすと5本の左指を握ったり開いたり出来た。

 だが特に肩の部分は包帯がびっしりと巻かれて傷口をうかがい知ることは出来ない。まぁ相当な重傷であることは間違いなさそうだが。


「おお! 気が付いたか!」


 偶然見舞いに来ていたグスタフのオッサンとドートリッシュ辺境伯が嬉しそうな顔をして近づいてくる。


「大丈夫かコーネリアス! 左腕の感覚はあるかね?」

「ええ。あります。もしかして癒しの霊薬を?」

「ああそうだ。ドートリッシュ様が仕入れたものを飲ませたんだ」


 癒しの霊薬。厳選された薬草と高名な僧侶の祈りを込めて作ったらしいそれは、飲めばたちどころに砕けた骨も潰れた内臓も治ると言われている。

 ただ味は最悪で飲むと泥水よりも酷い味が口の中に広がる。あの薬には何度か世話になったがあの味は慣れる物ではない。

 気を失ってる最中に飲ませたのは正解だろう。


「コーネリアス、今回はよくぞエレを、私の娘を助けることが出来たな。本当に良くやってくれた。ありがとう。本当に、本当にありがとう!」


 辺境伯は深々と頭を下げて俺に感謝する。


「……」

「どうした?」

「それなんですが」


 俺は周りに人がいないのを確認してしゃべりだす。


「くれぐれも内密にして欲しいんですが、あの事件、マルゲリータが関与しています。あの時彼女だけが天窓を何度も見ていました。襲撃が来るのを知っていたようです。動かぬ証拠こそありませんがね」

「!! 何だと!?」

「シッ! 声がでかいですぜ」


 あまりにも衝撃的な言葉を聞いて声を荒げようとする辺境伯を黙らせる。


「ところで、エレアノール様を襲撃したあの化け物は何なんですか?」

「ああ、あれか。あれは人間だった」

「えぇ? どう見ても人間の形をしてませんでしたよ?」

「もちろんただの人間ではない。一言で言えば『改造された』人間だった」

「改造?」


「改造」などという不可解な言葉を聞いて疑問に思う俺にドートリッシュ辺境伯は一呼吸してから語りだした。


狂気の錬金術師(マッド・アルケミスト)として魔導学院から追放されたイザベラという女が関与している可能性が極めて高い。改造の仕方は彼女の理論そのものだった」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。ということはそんな女がマルゲリータと何かしらの関与があったってことですか?」

「現在のところは調査中で何とも言えん」

「マルゲリータは得体のしれない何かがあります。注視したほうがいいですぜ」

「ウム……分かった。注意しとくよ。今はゆっくり休んで治療に専念してくれ。それと、エレ。コーネリアスは無事なようだぞ」


 そう言って2人はエレアノールに俺が無事であるという吉報を告げる。


「コーネリアス……」


 お嬢様と来たら突然ぽろぽろと大粒の涙をこぼし始めた。


「!? な、なんだ!?」

「よがっだ……本当に、本当に良がっだ!! もしこのままずっと目覚めながっだらどうなるがと思っであだひ……あだひ……!」

「お嬢様が無事なら、それでいいです。俺なんかのことなんて気にしないでください」

「俺なんかじゃなくて! 俺なんかじゃなくて! ううう……」

「俺は悪い奴からお嬢様を守りますから、心配しないでくださいよ」


 エレアノールは泣き声も出せないのかただコクコクと首を縦に振ってうなづくばかりだ。


「エレアノール様、彼はけが人です。今は安静にさせておきましょう」

「うん、わかった。じゃあね。コーネリアス」

「また時間を作って見舞いに来るよ。元気でな、コーネリアス。さあ行こうか、エレ」


 3人は病室を後にした。




 狂気の錬金術師(マッド・アルケミスト)イザベラ。

 おおよそ魔法を使う者なら1度は聞いたことがあるだろう魔導学院長、テラに匹敵するとさえ言われる賢者に等しい知識と実力を持つ錬金術師だ。

 だが近年になって頭がおかしくなったのか禁忌(きんき)とされる人体改造に手を出し、国際指名手配にされて現在は行方をくらませているという。


 あいつが関わっている? こりゃ厄介な山場になりそうだな……

 できれば関わりたくないが、この仕事をする上では天上の神だろうが地獄の悪魔だろうが彼女に指一本触れさせやしない。何があっても守りきって見せる。




【次回予告】


治療も進み無事に退院できるまでに回復したコーネリアス。

そんな彼に贈り物をした人がいて……?


第13話 「傭兵、伯爵からプレゼントをもらう」

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