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村では小柄でやせっぽちの僕だけどこのマスクのおかげで女性が振り向くたくましい体になれました  作者: 元二
Fight.6 最後の戦い!グレートキングデビルよ永遠に(全8話)
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その8 グレートキングデビルよ永遠に

◇◇◇◇◇◇◇◇


 エタン達の住むペリヤ村のあるローラン王国。このローラン王国のある大陸から海を渡った隣の大陸は、現在魔族によって支配されている。

 人間達は魔族によって自由を奪われ、今では奴隷のような生活を強いられているのだった。



 そんな大陸の魔族の国。その王城で今、魔王が配下の魔人から報告を受けていた。


「隣の大陸の支配に送り込んだケケケイニィーが逃げ帰って参りました」


 男の報告に周囲の魔人達がざわめいた。


「ケケケイニィーが? アイツは学者肌の男だが、その実力は確かだったはずだが」

「魔法五行属性を超えた魔法も使えたはず。確か空間跳躍魔法だったか」

「まあオリジナル魔法が使える事が、我ら魔将軍に入るための最低条件だからな」


 ドン!


 魔王が王座に座ったまま足を踏み鳴らすと、魔人は一斉に口を閉じた。

 その顔には恐怖がこびりついている。

 それも仕方が無いだろう。魔王の機嫌を損ねれば魔将軍の彼らとて命の保証はないのだ。


 魔王の傍らにはべる鎧の男が、報告に来た男に話を続けるように促した。


「それで、ケケケイニィーはどうした?」

「現在聞き取り調査の最中でございます。早急に魔王様のお耳にいれたき情報がございますれば、取り急ぎ参った次第で」


 男は報告書と思わしき紙の束を差し出す。

 鎧の男がそれを手にしようと一歩踏み出すが――


 スッと魔王が立ち上がり、マントをひるがえすと男の前まで歩いた。


 腰まで届く髪の長い女だ。魔王のイメージにそぐわない華奢な体つきである。

 ただし出る所は出て十分な色気を漂わせている。

 だが、もしこの場に日本人がいたらきっとこう言うだろう。


「なぜ魔王が女子プロレスラーの恰好をしているのだろうか?」と。


 頭に被った邪悪なデザインのマスクに、マントの下はセパレートのヘソ出しリングコスチューム。足にはリングシューズを履いている。

 紫色の肌と頭の角が彼女が魔人であることを証明している。

 そうでなければ、どこかの団体の女子プロレスラーだと言われれば誰もが信じてしまうことだろう。


 周囲が驚きに包まれる中、魔王は自らの手で男の報告書を掴むと、その場に立ったままざっと目を通した。


 クククク・・・


 魔王の笑い声に周囲の強面の魔人が一斉に青ざめた。

 この理不尽な魔王が笑う時には必ず暴力の嵐が吹き荒れるからである。


 やがて魔王は報告書を放り投げると周囲に一瞥もくれずに立ち去った。


 部屋から魔王の姿が消えると、魔人達の間にホッと安堵の空気が流れた。


「何事も無く済んで幸いだった」

「魔王様も以前はもっと穏やかな方だったのだが・・・」


 数年前のある日、突然、魔王は今のマスクを被るようになった。

 その日からである。魔王は人が変わったように暴力的になり、今まで交流の無かった人間の土地に侵略を始めた。

 心ある魔人達は内心魔王の無慈悲な行いを嘆いているが、魔王の圧倒的な力を恐れるがあまり、何も言えずにいた。


 さしもの魔人達も、今も魔王の精神を支配するあのマスクが、この異世界アルダの外からやってきた”混沌”そのものであることに気が付くはずはなかった。




 王城の廊下を大股で歩く魔王。

 その口元は喜びで大きく吊り上がっていた。


(面白い! この体を得てから力を持て余していたが、ついに全力をぶつける相手に巡り合えたようだ!)


 魔王は城の中庭で立ち止まると、耐え兼ねたかのように大声で叫んだ。


「待っていろグレートキングデビルとやらよ! この我自らが貴様を叩きのめしに行ってやるわ!」


 魔王の声はそれだけで魔力が乗り、中庭の木々をことごとくなぎ倒した。

 恐るべき魔王の魔力である。


 魔王が去った後の中庭は、まるでここにだけ竜巻が通った後のような惨状だったという。




 そしてこの日を境に王城から魔王の姿が消えた。

 魔王はどこに行ったのだろうか?

 側近たちは突然の魔王不在に慌てふためいたものの、どこかホッとする心を押さえる事は出来なかった。

 それほどまでに魔王の理不尽な暴力は、常日頃から彼らに恐れられていたのである。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 ペリヤ村の朝は早い。


 男は家畜の世話に野菜の収穫、女は水汲みに朝食の支度と、朝日が昇る前から村人達の活動は始まる。


「おはようございます」

「あらおはよう三号さん。今朝はどうしたの?」

「村長に頼まれて、魔人の襲撃の時に壊れた家の片付けに行くところです」

「本当に三号さんは働き者ね。ウチの息子も見習って欲しいもんだわ」


 共同井戸に水汲みをしている村のおばちゃん達に捕まっているのは、身長二mを超える覆面の大男。

 グレートキングデビル三号である。


「彼はもうすっかり村に溶け込んでいるね」

「マックスどいてくれない? 入り口に立たれると邪魔なんだけど」


 そんな三号を眺めているのは無精ひげの優男、マックスである。

 ようやく妻に許された彼は、今では晴れて自宅で寝泊まりしていた。


「それはそうと我が息子よ。お前、あの日の事はまだ思い出さないのかい?」

「だから何度も言ったじゃないか。本当に何も覚えていないんだって」


 半月ほど前にペリヤ村は魔将軍ケケケイニィーの襲撃を受けた。

 あの日、全てが終わった後、エタンは村のすぐ外に裸で倒れていた所を発見された。

 いつもなら、エタンは見つかった時点ですぐに気が付くのだが、今回は二日も眠ったままだった。

 おそらく一日に二度も変身した事で、まだ幼い彼の体に相当な負担がかかってしまったのだろう。


 マックスは不思議そうな顔で自分の息子を見た。

 彼の目にはあの日以来、何だかエタンが少し変わったような気がしてならなかったのだ。

 物腰が柔らかになったというか、少し落ち着きが出た感じといえばいいのか。


「なあ息子よ、お前本当は何かあったんじゃないか? お前の・・・」

「あ。おはようリゼット」


 隣の家のドアが開き、エタンの幼馴染のリゼットが顔を出した。

 後ろに続くのはマスク姿の二人の女性。


「あ、可愛い子がいるし」

「ちょっと待て、シャンシャンドゥ! 私の話を聞け!」


 額にⅡと書かれた女性――グレートキングデビル二号はエタンを見つけると嬉しそうに抱き着いた。


「あ、あの、二号さん。妹さんが呼んでるみたいだけど?」

「いいのいいの、ほっとくし。アイツ駄々こねてるだけだし」

「人を駄々っ子みたいに言うな! 私は何で私までこんなマスクを被らなければならないのか聞いているんだ!」


 不満そうなもう一人のマスクの女性はグレートキングデビル四号ことウェイウェイドゥ。

 こちらは二号のマスクと異なり、三号と同じ顔全体を覆うタイプである。

 額にはローマ数字でⅣと書かれている。

 あの日ダメージを受けて寝込んでいたウェイウェイドゥは、最近になってようやく起き上がる事が出来るまでに回復したのだ。


「私はお前達と違って、魔人として力をまだ持っているんだぞ!」

「それ一号の前で言ってみるし」

「ぐっ・・・」


 二号の言葉にぐうの音も出ないウェイウェイドゥ。

 グレートキングデビルとの戦いは、彼女の心にトラウマとしてしっかりと刻み込まれていた。


「どのみちケケケイニィーが行方不明の今、アタシら魔族遠征軍は壊滅だし。お前はアタシらデビル軍団に入らなきゃ何処にも行く当てがないし」

「な・・・ぐっ・・・だ、だとしてもどうして私が四号なんだ! 弟のエルエルカンウーが三号なのに姉の私が四号なのが納得できない!」


 魔人はまだ何人もこの大陸に残っているが、絶対の強者である魔将軍ケケケイニィーを失った遠征軍は今ごろ空中分解しているだろう。


 実力主義の魔人の組織では、どうしても強いリーダーが力で部下を従わせる形になり易い。

 個性の強い魔人という不揃いな紙の束を、強者という文鎮が押さえつける事で組織の形を保っている。それが魔王軍の実情なのだ。


 この方法は上手くいっている時には問題がないが、今回のようにリーダーが不在になった時には、途端に組織が空中分解する危険性があった。

 また、本来であれば、ケケケイニィーの後釜に座る立場にある主だった魔人が、全員グレートキングデビルに敗れて行方不明なのも良くなかった。

 おそらく今頃遠征軍は、各々が自らが新たなリーダーとなるべく、仲間同士で血で血を洗う抗争を繰り広げていることだろう。

 もっとも今残っている程度の小者の魔人では、グレートキングデビルの足元にも及ばないだろうが。


 エタンを挟んでギャンギャンとやり合う二号と四号。

 エタンは困った顔をすると、少し離れた場所で佇むリゼットに話しかけた。


「ゴメンね。二人が迷惑をかけて」

「い、いいのよ別に。二号にはこの前村を助けてもらったし」


 リゼットはエタンの言葉にあたふたと答えた。

 あの日以来、どこかリゼットはエタンとの距離を測りかねている様子だ。

 エタンもなるべく幼馴染の心に負担をかけないように今は少し距離を取っている。

 急ぐ必要はない。ゆっくり二人にとって最適な距離を見付ければいい。


「じゃあね」

「あ、うん。行くわよ二人共」

「ほら四号も行くし」

「私はまだ四号の立場を認めた訳じゃないぞ! そうだ、零号というのはどうだろうか。まだ魔人の力を持っている私にふさわしい番号だとは思わないか?」


 三人の少女達は姦しく騒ぎながら去って行った。

 エタンはリゼットの背中を寂しそうに見つめている。

 マックスはそんな息子の姿に、今までにない変化を感じていた。


「なあ息子よ。僕に言えないなら無理に言う必要はないが・・・やっぱりあの日、何かあったんじゃないのかい?」

「さあ、あったのかな? でも何も覚えてないから」


 エタンはそう言うと静かに笑った。

 彼はマックスに――みんなに嘘をついていた。

 今までグレートキングデビルになった時とは異なり、エタンはあの日の事を全て覚えていた。


 あの日エタンは自分の意志で変身し、そして自分の意志で戦った。

 ・・・まあ、幾分その言動はグレートキングデビルの記憶に振り回されていたようだったが。


 しかし、今まではグレートキングデビルとして完全に別の記憶としていたものが、あの日を境にエタンの中で統合されたのは事実である。

 その事でエタンは少しだけ精神的に成長した。

 グレートキングデビルの力が未来の自分の力だと知った事で、彼の中の弱い自分に対する劣等感(コンプレックス)が払拭されたのだ。

 エタンは少しだけ自分の事が好きになった。そしてそれによって、自分を信じる事も出来るようになった。

 そんなエタンの心の余裕が、落ち着きとして彼の態度にも現れるようになっていたのである。


「それよりも村長さんの所に行くんじゃなかったの?」

「あ・・・ああそうだったな」


 マックスはこの後、領主の所から来る調査隊について村長と相談することになっている。

 実は調査隊は魔人ケケケイニィーの使役する魔獣によって全滅しているのだが、彼らはまだそのことを知らなかった。

 デビル軍団の事を調査官にどう説明するか。彼らは結論の出せない問題に頭を悩ませ続けていたのであった。




 マックスを見送った後、エタンは家を出て一人村を歩いた。

 村は未だにケケケイニィーの魔獣に襲われた時の爪痕が残っている。

 しかし、多少の怪我人こそ出たものの、奇跡的に重傷者や死者は出ていなかった。

 エタンはグレートキングデビルとして、生まれ育った村を守れた事に大きな喜びを感じていた。


 三号がその怪力で崩れた家の大きな瓦礫を運んでいる。

 二号と四号が罵り合いながらも、ようやく修繕の終わったため池を水の魔法で満たしている。

 村人達の表情は誰しも明るい。

 エタンはその中に彼の好きな女の子、リゼットの姿を見つけた。


 リゼットの楽しそうな笑顔はエタンの心を少しだけ寂しくさせた。

 最近、彼の前では見せてくれない笑顔である。

 でも、いつかはまた彼にこの笑顔を見せてくれる日がきっと来る。

 エタンはその日を楽しみにする事にした。


 エタンは誰にも見られないようにコッソリと村を出ると、森の中を歩いていた。

 まるで何かに導かれるように、道なき道を進む彼の歩みには迷いが無い。

 やがてエタンは森の中の開けた場所に到着した。


「待ちかねたぞ。お前がグレートキングデビルだな。そのような姿でそこらの魔人の目は誤魔化せても、この我の目を欺く事は出来んぞ」


 そこで彼を待っていたのは、マスクを被った派手な服装の女の魔人。

 グレートキングデビルのエタンが言うのも何だが、この世界ではかなり露出過多の女性だ。


「あなたが僕を呼んだの?」

「そうだ。我は魔王! 魔王シラシライオ! お前を殺す者だ!」


 G・K・D! G・K・D! G・K・D!


 どこからか謎の声援が響いてくる。


「リングカモン!」


 誰もいない森の中、グレートキングデビルの最大にして最後の戦いが、今、始まった。

次回「エピローグ ある引退した覆面レスラーの現在」

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