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村では小柄でやせっぽちの僕だけどこのマスクのおかげで女性が振り向くたくましい体になれました  作者: 元二
Fight.6 最後の戦い!グレートキングデビルよ永遠に(全8話)
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その7 勝利者インタビュー

 ロープが切り落とされ、四角い台となった穴だらけのリングの上。

 全身から血を流す男が銀髪の長身の男を片手で持ち上げている。

 日本マット界を沸かせた名レスラー・グレートキングデビルと魔人ケケケイニィーである。

 グレートキングデビルの右腕は天に向かって突き上げられている。

 リングの周囲にはグレートキングデビル二号と三号、そしてリゼットをはじめとする村人達。

 全員しわぶき一つ立てず固唾をのんでリングの上を見守っている。


 メキッ!


 拳に力が入ると、グレートキングデビルの右腕は一回り大きく膨らんだように見えた。


 ゴウッ!


 剛腕が空気を引き裂く音がした。

 ケケケイニィーの胸元でパッっと汗と血の混じったしぶきが上がる。

 グレートキングデビルの鋭い振りに、剛腕が体を打つ鈍い音は遅れて聞こえた。


 ドシイッツ! 


 ワアアアアアアッ!


『グレートキングデビルの剛腕ラリアット! ケケケイニィー一回転! 頭からマットに倒れたーっ!』

『これぁ立てねえぜ! 完全に決まったぜ!』


 ワ~ン ツゥ~


 どこからともなくダウンカウントが流れ出した。

 会場も一体になってカウントを数え始める。リゼットは祈るように手を合わせて俯いている。


 ナイ~ン ・・・テェン!!


 カン! カン! カン! カン! カン!


 ワアアアアアアッ! G・K・D! G・K・D!


『カウントテン! グレートキングデビル、この死闘を制しました!』

『スゲー戦いだったよ。オオ。いい試合だった』


 解説のスイープ土壁さんも満足そうだ。

 ここにグレートキングデビル対魔将軍ケケケイニィー、24分52秒テンカウントによるグレートキングデビルのK.O勝利が決まったのである。




 会場?を揺るがすG・K・Dコールが次第に小さくなって消えてゆく。

 穴だらけのリングが大地に吸い込まれるように姿を消す。

 残っているのはうつ伏せに倒れた魔将軍ケケケイニィーとグレートキングデビルの二人だけである。


 そんなグレートキングデビルに三号が近付いた。

 片足はまだ悪いらしく、エタンの父、マックスの肩を借りている。


「ありがとう一号。正直もう駄目だと覚悟していた」

「うむ。お前達も良く持ちこたえてくれた。二人をデビル軍団にスカウトした甲斐があったな」


 思わぬ言葉に三号は思わず言葉を詰まらせた。話しかけはしたものの、よもやグレートキングデビルから褒められるとは思っていなかったようだ。

 二号は満更でもなさそうな様子で胸を張った。


「そうそう、アタシら大活躍だったし! じゃない! よくもさっきはアタシまで騙してくれたし!」


 上機嫌な二号だったが、すぐにグレートキングデビルの仕掛けたウソ負傷に引っかかった事を思い出したようだ。

 声を荒げていきり立った。

 突然の二号の剣幕に、グレートキングデビルは心底不思議そうな顔になった。

 どうやら自分のやった事を完全に忘れているようだ。

 その態度がさらに二号の怒りに火を注いだ。


「ムキ――ッ!」

「ま、まあ落ち着こうよ二号。こうしてみんな無事だったんだしさ」


 一号のすげない態度に怒り心頭な二号。そんな二号を慌てて鎮める三号であった。




「じゃあ約束通りお前のマスクはもらっていくぞ」


 グレートキングデビルは相変わらず勝手な事を言いながら、気絶しているケケケイニィーの体をひっくり返した。

 ケケケイニィーの被った仮面はグレートキングデビルの返り血を浴びて赤黒く汚れている。

 グレートキングデビルは、ケケケイニーから取り上げた仮面を無造作にレスラーパンツの中に突っ込んだ。

 どういう原理が働いたのか大きな仮面がスルリとパンツの中に吸い込まれた。


 おおおおっ。


 その光景に何故か周囲の村人達からどよめきが上がった。


「この角ももらっていくぞ」


 グレートキングデビルはそう言うとケケケイニィーの頭の角を握り・・・スポンと取り外した。

 立て続けに五本もの角を取り外されたケケケイニィーの頭は、随分とスッキリしてしまった。


 角は魔族の魔力増幅器官である。

 魔獣を操る仮面を失い、魔力を底上げする角も失ったケケケイニィーは、今後は二度と今までのように傍若無人に振る舞う事は出来ないだろう。


 弱い者は強い者の餌食になる。


 魔族の弱肉強食は同族だろうと容赦はないのだ。



 グレートキングデビルは満足そうに角をパンツに突っ込む。

 曲がった角が次々とパンツの中に消えていく。

 この時二号が厳しい表情になった。

 彼女は手を上げるとその手を倒れたケケケイニィーの方に向け――三号にその手を掴まれた。


「よせ、姉ちゃん!」

「止めるなし! アンタだって分かってるはずだし!」


 そう。魔力増幅器官である角を失ったケケケイニィーだったが、元々高い魔力を持つ彼は今の状態でも並みの魔人を優に上回る魔力を持っているのだ。


「今ここで止めを刺して後顧の憂いを断つし!」

「駄目だ! 戦って勝利した一号が奪わなかった命を、横から俺達が奪うのは魔人の道義に反する」


 二号は三号の厳しい視線を受けて渋々手を下した。


「そんなのアタシだって分かっているし・・・。でも、こんなチャンスはきっと二度とないし・・・」


 三号は二号の肩に手を置いた。

 一人では立てない程弱り切った三号だったが、その手からは不思議な力強さを感じさせた。

 それは彼の決意によるものだった。


「次はきっと俺が倒してみせるよ。今はまだダメだけど足が治ったら体を鍛え直して必ずやってみせる。だからその時まで姉ちゃんの気持ちを俺に預けてくれないか」

「エルエルカンウー・・・」


 三号はグレートキングデビルの戦いを見て、今までの全ての価値観がひっくり返るほどの強い衝撃を受けた。

 仮に滝の水が下から上に上ったとしても、彼にこれほどの驚きを与える事は出来なかっただろう。

 魔人である自分が決して届かないと思っていた魔人ケケケイニィーを、魔法も使えない人間の男が体一つで倒したのだ。

 三号はいかに自分達魔人が井の中の蛙であったかを思い知らされたのである。


「グレートキングデビル一号がやってのけた事だ。俺だって三号を名乗っている意地がある。いつか絶対にケケケイニィー様・・・いや、ケケケイニィーを超えてみせる!」


 三号の無謀としか思えない挑戦に、しかし、二号は不思議な頼もしさを感じるのであった。




「あの・・・グレートキングデビルさん」


 乱暴にケケケイニィーの長髪を掴んだグレートキングデビルだったが、リゼットの声に足を止めた。


「ひょっとして・・・あなたは・・・エタンなんじゃないの?」


 リゼットの言葉に周囲の動きが凍り付いた。


「えっ?! リゼットちゃん、グレートキングデビルさんが僕の息子ってどういう事?!」

「ええっ?! 可愛い子が一号って、メスガキお前何言ってるし!」


 驚き、慌てふためくマックスと二号。

 特に二号にとって可愛いエタンは大のお気に入りだ。グレートキングデビルと同一人物とは聞き捨てならない。


 グレートキングデビルはゆっくりとリゼットに向き直った。

 リゼットはグレートキングデビルの視線を真っ正面から受け止めた。


「私あの時、あなたの顔を見たの。後ろからチラリとしか見えなかったけど、あれは絶対にエタンだった。ねえ、そのメイクを落としてもう一度あなたの素顔をみせてくれない?」


 さしものグレートキングデビルも、リゼットの決意を込めた眼差しには逆らえなかったようだ。

 彼は己のマスクに手をかけると、紐をほどき始めた。


 シュルシュル


 乾いた音を立ててマスクの紐がほどかれて行く。

 やがてグレートキングデビルはゆっくりとマスクに手をかけた。

 ゴクリ。緊張に誰かの喉が鳴った。

 リゼットは固唾を飲んで見守っている。


 そしてグレートキングデビルのマスクの下から現れたのは・・・


 今度は白いグレートキングデビルのマスクだった。


「「「は?」」」


 いつの間にか、グレートキングデビルはいつものマスクの下に、今日最初に被っていた白いマスク――通称”リベンジ・マスク”を被り直していたのだった。

 目を丸くして呆気にとられるリゼット達。

 そんな彼女にグレートキングデビルは優しく打ち明けた。


「今日の試合は厳しかったね。負けるかもしれないとは全く思わなかったけど、とにかく相手がタフだった。ファンがいい試合だと思ってくれたならいいんじゃないの? 俺だってプロのレスラーだからね。勝つ事は当然だけど、ファンに喜んでもらう試合をしているつもりだから。次の対戦相手? 今はその事は考えたくないね。今日はゆっくり休んでまた明日考える事にするよ。まあ誰が挑戦して来ても勝つだけだし。それがベルトに選ばれたチャンピオンの使命だから。以上だ。」


 という内容を「オォ?」とか「アアッ?」とか適度にオラつきながら語り切った。

 これのどこがリゼットに優しく打ち明けたことになるのだろうか? 本当にいつも適当なことを言わないでほしい。


「いや、そんな訳の分からないコメントじゃなくてですね!」

「ではさらばだ!」


 グレートキングデビルはケケケイニィーの髪を掴むと驚きの速さで歩き去って行った。

 引きずられているケケケイニィーの頭皮が心配される。


「そうじゃない! そうじゃないのよーっ! ていうかあなた一体何がしたかったの?! もう! 何でこうも話が通じないのよーっ!」


 リゼットはあっという間に小さくなっていくグレートキングデビルの背中に向かって叫んだ。

 そんな荒ぶる彼女の肩を、二号が訳知り顔で叩いた。


「分かる。分かるし。アイツ本当にデタラメだし。ぶっちゃけ魔人でもあそこまで理不尽なヤツは見た事ないし」


 二号の言葉に三号は思わず苦笑した。どうやら彼も姉と同じ意見だったようだ。


「えっ、えっ、で、結局グレートキングデビルが僕の息子って話はどうなったの? どうなの?」


 そしてマックスは一人、話に付いていけずにいたのだった。



 こうしてペリヤ村を襲った災厄はここにひとまず幕を下ろしたのである。  

次回「グレートキングデビルよ永遠に」

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