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その4 暴走

 ペリヤ村近くの森の中。

 グレートキングデビル二号の双子の姉妹、鎧姿の魔人ウェイウェイドゥは、突如現れた謎の覆面レスラー・グレートキングデビルを前に、急な展開に付いていくことが出来ずにうろたえていた。


「リングカモン!」


 グレートキングデビルの掛け声に合わせて、グレートキングデビルのチートスキル「環境魔法」が発動。地面からせり上がるようにしてプロレスのリングが姿を現した。


「えっ? えっ? 魔法・・・じゃない? 何コレ、どういう事?」


 ますます混乱するウェイウェイドゥ。そんな彼女を尻目に、グレートキングデビルは「とうっ!」と木の枝から飛び降りると、素早くリングの上に駆け上がった。


「さあ、かかって来い!」


 右手を突き出してコイコイとアピールするグレートキングデビル。


「ほら、一号もああ言っているし、早くあの台の上に上がるし」

「ゴメン、姉ちゃん。でも、早めに参ったすればそれほど酷い事はされないと思うから」

「ちょ、待って! 今から何するわけ? 酷い事って何? 怖いんだけど。誰か説明して!」


 二号と三号に背中を押されてリングに押し上げられる魔人ウェイウェイドゥ。


『さあ、本日はここペリヤ村近くの森特設リングから、グレートキングデビル対魔人ウェイウェイドゥ。時間無制限一本勝負をお送りいたします』

「きゃっ! 何?! 変な声が聞こえてきたんだけど?!」


 どこからかいつもの謎実況中継が聞こえてくる。その声にもビビるウェイウェイドゥ。

 もはや登場した時の余裕の姿はどこにも見当たらなかった。


『解説は獣王タイガー・サンダーさんでお送りします』

『よろしくお願いします』

「何? タイガー・サンダーって何? だから何よ?!」


 ウェイウェイドゥはキョロキョロと辺りを見回し、姿なき声の出所を探す。

 その姿を見てリゼットは「そういえばいつも聞こえてくるこの声って一体何なのかしら?」と今更のような疑問に小首をかしげていた。


「ねえ、タイガー・サンダーって何なのかしら?」

「そんなのアタシが知る訳ないし」

「俺と姉ちゃんが戦った時には確か違う名前だったと思うぞ」


 エルエルカンウーが戦った時の解説は天さんヒロシ選手だったはずである。

 どうやらの天さんさんの名前は三号に忘れ去られているようだ。

 ほとんど喋っていないので仕方が無いのかもしれない。


 カーン


 外野の会話はさておき、ゴングが打ち鳴らされた。試合開始である。

 開始と共に、グレートキングデビルは猛然とダッシュ。 


「クッ・・・ なめるな!」


 絵にかいたようなヘタレっぷりを見せていたウェイウェイドゥだったが、そこは流石に魔人。瞬時に気持ちを切り替えると両手を前に突き出した。

 ウェイウェイドゥの手のひらに魔力が集中する。


 ドッ!


 ウェイウェイドゥの手のひらから勢いよく水の塊が発射された。

 グレートキングデビルにぶつかった水の塊はその場で爆弾のように炸裂した。


 ドオン!


 勝ち誇るウェイウェイドゥ。


「木端微塵に消し飛べ裸男! って、ええっ?!」


 だが、グレートキングデビルは何事も無かったかのように、リング中央に普通に立っていた。

 消し飛ぶどころかどころか、ほとんどダメージを負っていない様子だ。

 愕然とするウェイウェイドゥ。


 オオオオオッ!


 試合開始早々の大技の炸裂にどよめく謎の観客? 


「ば・・・馬鹿な! いくら水魔法が殺傷力が低いとはいえ、あの勢いで炸裂したんだぞ! 岩に叩きつけられたほどの衝撃を受けたはずだ!」

『ウェイウェイドゥ困惑していますね。確かに、高い場所から落ちると水でもコンクリート並みの固さになると言われています。つまり先程のウェイウェイドゥの魔法はそういった原理の攻撃なのでしょうか?』

『だとすればグレートキングデビル選手には通用しないでしょう。彼の受身(バンプ)は一流ですよ。何せ彼は”蛇の穴”で特訓を受けていますからね』


 イギリスには”蛇の穴”というレスリング道場が存在する。

 ”蛇の穴”のリングはなんとコンクリート製で、上手く受け身を取れない練習生は全身骨折するそうだ。

 そんな無茶な道場があるわけないって?

 昭和のプロレスキッズの聖典(バイブル)、梶〇一騎先生原作の名作漫画にそう描いてあったんだから間違いないのである。


「この鎧で魔力が増した私の攻撃魔法を生身で耐えるだと?! ふ、ふざけるな! そんな事があってたまるかあああ!」


 ウェイウェイドゥはうろたえながらも次々と水魔法を発射する。

 リングの中央に立て続けに水柱が上がる。

 しかしグレートキングデビルは全てを正面から受け切った。


「キャアアア! G・K・D! G・K・D!」

「いや、あれ受身とかそういう次元じゃないし。どう見てもアイツって、ただ立ってるだけにしか見えないし」

「・・・や、やっぱり化け物だ」


 リングの下では、リゼット達三人が飛び散る飛沫を浴びてずぶ濡れになりながら観戦していた。

 呆れ顔の二号に対して、三号は底知れぬグレートキングデビルの恐ろしさに背筋を凍らせていた。


「ハア、ハア・・・ 何故だ?! 何故死なないんだお前は!」

「どうした。それで終わりか?」


 息を切らせてロープにもたれかかるウェイウェイドゥ。

 いくら魔力が鎧の効果で強化されるとはいえ、当然無尽蔵に沸いてくるという事はないのだろう。

 グレートキングデビルは組んでいた腕を解くとゆっくりと歩き出した。


「ぶ・・・武器を・・・あっ! しまった!」


 ウェイウェイドゥは慌てて腰の剣に手をやったが、グレートキングデビルの得も言われぬ圧力に焦って取り落としてしまった。


「水と汗で鎧が滑って・・・「姉ちゃん前だ!」あっ!」

『グレートキングデビル、ウェイウェイドゥの腕を掴むと大きくロープに振ったーっ!』


 対角線上に振られたウェイウェイドゥは、ロープに正面からぶつかり、その衝撃で息を詰まらせた。

 グレートキングデビルはウェイウェイドゥの背後に回り込むと、腰に手を回し、背筋を反らした。

 ウェイウェイドゥの体が宙に大きく弧を描き、勢い良く投げ出される。


『グレートキングデビルの投げっぱなしジャーマンだ!』

『良いですね、グレートキングデビル選手。投げ技ならいかに相手が鎧で身を固めていても関係ありませんよ』


 あまりの勢いにウェイウェイドゥは受け身も取れずに頭からマットに叩きつけられる。

 そのままぐったりと横たわる。

 どうやら意識を失ったようである。

 こうして勝負はあっさりと付いた。

 ――かと思われた。


「むっ?」


 グレートキングデビルはフォールに向かおうとした足を止めた。

 意識を失ったはずのウェイウェイドゥが、まるで操り人形のようなギクシャクとした動きで立ち上がったのである。




「ウェイウェイドゥ? どうしたし?」

「ね・・・姉ちゃん?」


 リングの上の異様な気配に固唾を呑む二号と三号。

 ウェイウェイドゥはロボットダンスのようなカクカクとした不自然な動きで、何をするでもなく立ち尽くしている。

 やがて――


『どうしたことだ?! リングの上が薄っすらと霧で包まれて行くぞ?!』

『いや、違いますよ。コレは水蒸気ですよ! リングの上の水が蒸発しているんじゃないですか?!』


 良く見るとウェイウェイドゥの鎧が熱で赤く染まっている。

 どうやら鎧から発生している凄い熱で、水魔法でまき散らかされたリングの上の水が蒸発しているようだ。


「くっ・・・」

『グレートキングデビル、あまりの熱に思わず距離を取ります!』

『さしものグレートキングデビル選手の受身(バンプ)も熱には通用しませんからね。ここは相手の様子見でしょう』


 その時、リングの下の三人はわずかに漂う異臭を嗅ぎ取った。

 これは一体・・・? 怪訝な表情を浮かべる二号と三号。

 その時ポツリとリゼットが呟いた。


「ひょっとして・・・ 髪の毛の焼ける匂い?」


 その言葉に二号と三号はハッと目を見開いた。

 二人の目はリング上のウェイウェイドゥにくぎ付けになった。

 リングの上の鎧は相変わらずカクカクと不自然な動きをしているが・・・


「見て! 姉ちゃんの髪!」

「なっ! 馬鹿! あの子何やってんのよ!」


 ウェイウェイドゥの兜からこぼれた長い銀色の髪の先が、鎧の熱に炙られてチリチリと焦げ出している。

 いや、良く見ると鎧のあちこちからも薄く煙が立ち昇っていた。

 そう。鎧から発生した熱によって、ウェイウェイドゥは今まさに蒸し焼きになろうとしている最中だったのだ。

次回「うなる剛腕」

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