その6 勝利者インタビュー
それは一枚の宗教画のような厳かな光景だった。
一段高い緑の台の上。
神々しい肉体を持つ覆面男が己の右こぶしを天に突き上げている。
彼の前には男に腕を掴まれて必死に逃げようとしている女性。
グレートキングデビルと魔人シャンシャンドゥである。
会場?は大きな悲鳴に包まれた。
キャアアアアアアッッツ!
人類が勝ちえない魔人が打ち負かされようとしている。
だというのに会場のこの反応はどうだろうか?
まるでグレートキングデビルの方が悪役のようである。
メキッ!
グレートキングデビルの太い腕がさらに膨らんだように見えた。
魔人シャンシャンドゥの可憐な顔が恐怖と絶望に歪んだ。
かつてそれは数多の強 敵をマットに沈めたフィニッシュブロー。
その剛腕がシャンシャンドゥに。
降り下ろされた。
パン!
観客?は平手が頬を打つ音を耳にした。
頬に受けた痛みに、シャンシャンドゥの膝が崩れ、うつ伏せにマットに倒れこむ。
グレートキングデビルの今回だけのフィニッシュブロー、”そこそこ強いビンタ”である。
シャンシャンドゥはうつ伏せに倒れたまま、めそめそと泣き出した。
グレートキングデビルが吠えた。
「ガアッデエェェム!」
カン! カン! カン! カン! カン!
ウオオオオオオオオオオオッ!!!
客席から怒号と共にペットボトルやゴミが投げつけられる。
リング中央にはまんざらでもない様子で立ち尽くすグレートキングデビル。
久しぶりの悪役ムーブにすっかりご満悦である。
『最っっ低ぇぇー! 最っっ低ぇぇー!』
『今試合終了のゴングが打ち鳴らされました! グレートキングデビル、魔人シャンシャンドゥをレフリーストップで下しました!』
ここにグレートキングデビル対最強魔獣と魔人シャンシャンドゥ、4分40秒、レフリーストップによるグレートキングデビルのTKO勝ちが決まったのであった。
会場?を揺るがす怒号が次第に小さくなってゆく。
リングが大地に吸い込まれるように消えてゆく。
残ったのはうつ伏せに倒れた魔人シャンシャンドゥと仁王立ちのグレートキングデビル。そして少し離れた場所に立つリゼットの三人だけである。
何とも言えない結末にリゼットは微妙な表情だ。
グレートキングデビルはビンタの衝撃で吹き飛んだシャンシャンドゥの眼鏡を拾い上げた。
「約束通りこのマスクはもらっていくぞ」
もうどこからつっこんでいいのか分からないグレートキングデビルの宣言である。
グレートキングデビルはうつ伏せで泣いているシャンシャンドゥに近付いた。
シャンシャンドゥはビクリと反応して起き上がった。
「ほら、角をよこせ」
ちょいちょいと手招きするグレートキングデビル。
シャンシャンドゥが涙ながらに訴える。
「なんでよ! 人間のアンタがアタシ達の角を手に入れたって意味なんてないじゃない!」
「なんか角生やして偉そうじゃん」
「そんな理由?!」
グレートキングデビルの無体な言葉に、横で聞いていたリゼットの方が驚いた。
「アタシの角は偉そうじゃない! とってもキュートだし!」
さっきまでべそをかいていたシャンシャンドゥだが、ここは譲れないようだ。
力強く訂正した。
グレートキングデビルはそれには答えずとりあえず手にした眼鏡を――
「キャアアアアアアッ! アタシの魔道具をどこに仕舞っているし!」
手にした眼鏡をいつものようにレスラーパンツの中に仕舞った。
これには流石にリゼットもシャンシャンドゥに同情したようだ。
ジト目でグレートキングデビルを見つめている。
女性二人の非難の目にさらされて、グレートキングデビルは何だか色々と面倒になったようだ。
「オイ、魔人!」
「な・・・何かしら」
突然怒鳴られて怯えるシャンシャンドゥ。
「男とか女とか関係ねえぞ。立ちはだかるヤツは躊躇なくぶっ飛ばすからな。それでもいいならいつだってこのベルトに挑戦して来い。このベルトにはそれだけの価値があるぞ。俺は誰の挑戦でも受ける。以上だ。」
という内容を「オォ?」とか「アアッ?」とか適度にオラつきながら語り切る。
全く話に付いて行けない女性二人。
無言で立つグレートキングデビルにシャンシャンドゥが怯えながらも尋ねた。
「それで・・・アタシはもう帰って良いのかしら?」
「戦う気のないヤツに用はない」
シャンシャンドゥはホッと安堵の表情を浮かべた。
「ええっ?! 本当にいいんですか?! 相手は魔人ですよ!」
「ちょ・・・メスガキ! アンタ何言ってるし! コイツの気が変わったらどうしてくれるし!」
驚くリゼットと慌てるシャンシャンドゥ。
そんな彼女にグレートキングデビルは、いいから行けとばかりに犬でも追い払うように手を振った。
シャンシャンドゥはグレートキングデビルの気が変わる前に慌てて逃げ出す。
しかし、森の小道を奥まで走り、十分に距離が取れたと思ったところで振り返った。
「このままで済むと思うなし! 今度はもっと強い魔獣で復讐してやるし! って、あっ・・・」
そう負け惜しみを叫んだところで、グレートキングデビルに魔獣を制御するための魔道具を取り上げられていたことを思い出したようだ。
シャンシャンドゥはチラチラと恨めしそうにグレートキングデビルのレスラーパンツを見ていたが、やがて諦めると森の奥へと走り去って行った。
「あの・・・また助けて頂いてありがとうございます。でも本当に魔人を逃がしてしまっても良かったんですか?」
リゼットの言葉に少し考えていたグレートキングデビルだが、やがて格好良い言葉が思い付いたのか満足そうに一つ頷いた。
「俺は女とは闘わない」
ビンタしたじゃん。
リゼットは心の中でつっこんだ。
「エタン! エタンったら!」
リゼットの声にエタンの意識はゆっくりと覚醒した。
「・・・リゼット」
「はい、服」
今回は幸いなことに森の入り口、村に近い場所だった。
リゼットは、いつの間にかグレートキングデビルの姿が消えたのを確認すると、走って村までエタンの服を取りに行っていたのだ。
「え・・・あ・・・うん。あ、ありがとう」
顔を赤くしつつも複雑な表情で自分の服を受け取るエタン。
言うまでもなく今日もすっぽんぽんの丸出し少年である。
「あの、さっきの魔人は?」
「また覆面の男の人が助けてくれたわ。そんなことより早く着替えて帰りましょう」
全裸も三度目ともなればこんなものである。
リゼットの塩対応に、エタンの心に木枯らしが吹き抜けて行った。
悲しい気持ちを堪えながら、もそもそと服を着るエタン。
「・・・ねえエタン」
「! 何?! リゼット?!」
ためらいながら声をかけてきたリゼットにパッと顔を上げるエタン。
「私って骨太でお尻が大きい田舎娘体型じゃないよね?」
「・・・・」
どうやらリゼットは最初に魔人シャンシャンドゥに言われたことを気にしていたようである。
デリケートな質問に、エタンはどう答えたら良いか咄嗟に返事に困った。
そんなエタンの態度に、リゼットの機嫌が目に見えて悪くなっていく。
「もう着替えたわよね。帰るわよ」
「あっ! ま、待ってよリゼット!」
プイッと顔を反らすと大股で歩き去るリゼット。
慌ててその後を追うエタン。
(そんなことないよ! リゼットは凄く可愛いよ!)
そう心の中では叫んでみたものの、面と向かって口に出す勇気のないエタンであった。
次回「Fight.4 飛べ親子鷹!血縁タッグマッチ」




