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その3 ガーリーファッションの魔人

「ま・・・魔人!」


 森の小道を通って村に戻ろうとしたリゼットとエタンの前に現れたのは、ポップな色柄の服を可愛く着こんだ甘めガーリーファッションの女性。


 人類の敵、魔人である。


 魔人の少女は絶句するリゼットをジロジロと上から下まで無遠慮に眺めると、その細い顎に指を当てて可愛らしく小首を傾げた。


「う~ん。微妙? そばかすが気になるし、スタイルもイマイチかな? 背は高いけど胸は小さいし、その割に骨太でお尻が大きい田舎娘体型? 服も貧乏臭いし」

「ええっ!」


 自分の好きな少女に対してのあまりの酷評に、エタンはつい魔人を前にしていることも忘れて声を上げてしまった。

 女性が同性に対して向ける目は厳しい。

 エタンが一つこの世の摂理を学んだ瞬間である。


 エタンの声に魔人が今度は彼の方を見る。

 エタンは迂闊に叫んで魔人を刺激してしまったことを後悔した。


 魔人はやはり無遠慮にエタンを上から下まで眺めた。

 魔人とはいえ可愛く着飾った美人に見つめられて、エタンは居心地の悪さにモジモジしてしまう。

 そんなエタンをリゼットはジト目で睨んだ。


「うん。アンタはやっぱり可愛いし。服が貧乏くさいのは仕方がないけど、それ以外は合格だし。清潔感もあるし控えめな感じも小動物系の見た目に合っているかな?」


 どうやらエタンは魔人のお眼鏡にかなったようだ。

 リゼットはこんな状況にありながら、自分に対する評価との差に思わずムッとした。

 エタンはというと、小動物系だの可愛いだのと言われて微妙な表情をしている。

 魔人との遭遇という非常事態にそぐわない微妙な空気がこの場に流れた。


「こんな可愛い子が絶叫して死ぬところが見られるなんて、今日のアタシってなんてラッキー! あの可愛い顔が絶望に染まる瞬間を想像するだけでゾクゾクするしぃ」


 だがその緩んだ空気は、魔人のおぞましい言葉で凍り付くのだった。




「そ・・・そんな」


 魔人の恐ろしい言葉に、エタンは青ざめてガクガクと震えた。

 そのエタンの姿に嗜虐心を刺激されたのか、魔人の少女はだらしなく頬をゆるませる。


「いいねぇ、その表情! なんだかすぐに殺すのがもったいなくなっちゃうし!」


 うひひひと笑う魔人。

 リゼットは怯えるエタンに振り返ると、背中に背負った背負子を降ろした。


「エタン! 逃げなさい!」


 リゼットはそう叫ぶや否や、魔人に向かって背負子の中身を思い切りぶちまける。

 魔人と言えども少女である。頭から森の小枝を被り、悲鳴を上げて飛び退いた。


「このメスガキ! よくもアタシの服を汚してくれたし!」

「エタン?!」


 自慢のコーデを汚されて怒り狂う魔人。しかしリゼットは隣を振り向き、驚きの声を上げた。

 ほんの一瞬目を離したスキに、彼女の隣にいた少年はその姿を消していたのである。


◇◇◇◇◇◇◇


 周囲は真っ暗だ。

 その中にポツンと緑色の台が浮かび上がっている。


 プロレスのリングだ。


 マットの色はエメラルドグリーン。「プロレスリング・エメラルドグリーン」のリングだと思われる。


 エタンがこの場所に来たのは今回で三度目である。


 いつものように遠くから群衆の掛け声が聞こえて来る。


 エタンはリングに上がり、マスクを手に取ると躊躇なく被る。


 G・K・D! G・K・D!


 完全に頭部を覆う形のマスク。吊り上がった目と三日月のような笑みを浮かべる口にはそれぞれ黒いメッシュが入っていて装着者の顔は外からは完全に見えない。

 額には般若の面のシルエットと朱塗りのG・K・D。

 それはかつて日本マット界で元悪役(ヒール)でありながら悪役(ヒール)と戦った男のマスク。


 途端にエタンの体からモリモリと盛り上がる筋肉!

 ナイスバルク! 僧帽筋が並じゃないよ! 背筋がたってる! 肩メロン!


 骨が音を立てて身長が伸びる!

 その身長は優に2mに届いた!


 オオオオッッッ! G・K・D! G・K・D!


 三度ここに立つのは小柄でやせっぽちの小動物系の少年ではない。

 鍛え上げられた肉体を駆使してリングの上で戦う男の中の男。日本プロレス界を代表するヘビー級レスラーだ。


 覆面レスラー・グレートキングデビルが、三度、この異世界アルダに降臨したのだった。


◇◇◇◇◇◇◇


「テメエあのガキをどこに隠したし!」


 リゼットに対してがなり立てる魔人少女。

 そんなことを言われてもリゼットにだって分からない。

 本当に少し目を離しただけなのだ。単純に逃げ出したのではない事だけは分かる。

 まるでエタンは最初からこの場にいなかったかのような消え方だったのだ。


「し・・・知らないわ! 知っていても言わない!」


 魔人の額に青筋が立つ。

 往々にして魔人というのは堪え性が無い。

 特に力のある魔人においてその性質は顕著である。

 生まれ持って強力な魔力を持つ彼らは、人生において常に傍若無人に振る舞っており、また、力こそすべての魔人達の風潮がそれを強烈に後押ししていた。


「もういいや、アンタ死んで。惨たらしく死んで」


 魔人はそう言い放つと、腰のポシェットからピンク色の大きなメガネを取り出して顔にかけた。

 今までとは打って変わって低い声だ。

 いつもの声はキャラを作っていたのだろう。


 魔人はメガネに手を当てると・・・不意に聞こえてきた音楽に驚いて顔を上げた。

 同時にリゼットも気が付き、その表情がパッと明るくなった。


「何? この曲?」

「この曲は!」

次回「最強魔獣」

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