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その2 一度あることは二度ある

「ちょっとエタン。森の奥に入りすぎよ」


 村にほど近い森の中。少女が連れの少年を呼び止めた。

 茶色い髪をおさげにした、パッチリとした目の利発そうな少女である。

 彼女の目は不安そうに揺れている。

 ペリヤ村の少女リゼットであった。


「でもこの辺りの薪はもう拾っちゃっているから」


 困った顔でリゼットに答えるのは、小柄でやせっぽちな少年。

 その顔立ちと印象は、どちらかと言えば可愛い系少年と言った所だろう。

 この物語の主人公、エタンである。


 エタンとリゼットの二人は、村の近くの森に少しだけ踏み入った場所にいた。

 薪拾いのために来たのである。


 二人が森の奥に木の実を採りに出かけて、魔獣に襲われたのはつい先日の事となる。

 幸い魔獣は使役する魔人ごと、謎の覆面レスラー・グレートキングデビルの活躍で撃退されたのだが、危うくリゼットは魔獣に殺される所だった。


 先だってはペリヤ村も別の魔人に襲われている。

 度重なる魔人の襲来に、小さな村では今、全員で村を捨てて逃げ出すかどうか議論を重ねている最中であった。

 なぜすぐに避難出来ないかと言えば、領地にあるモノは全て領主の所有物となるからである。

 当然ペリヤ村自体も村人の物ではなく、領主の所有物に彼らが住ませてもらっている、ということになっている。

 言ってしまえば彼らは、「領主というオーナーが所有する、ペリヤ村という会社に所属している社員」なのだ。

 彼らは会社に雇われている以上、勝手に持ち場を離れるわけにはいかない。

 そして契約上、勝手に会社を離れて勝手に他の会社に入ることも、当然出来ないのだ。


「領主様にはお知らせしているんだよね?」

「もちろん知らせているわ。でも国の魔法騎士団が総出で戦っても勝てない魔人が相手よ。領主様が私達に何かしてくれると思う?」


 不安そうなエタンの言葉に対して、リゼットの声にも力が無い。

 二人はかたわらの倒木に並んで座った。

 森を歩いて軽く汗ばんだのか、すぐ隣からエタンの良く知るリゼットの匂いがする。

 母親の匂いの次によくかいだ匂いだ。

 エタンは自分の心が落ち着くのを感じた。


「もし村を捨てることになったら、リゼットはどうするの?」

「どうって・・・家族に付いて行くしかないわ」


 この国では領民が村を捨てることを許さない。

 それでも村を捨てれば流民になるしかない。

 そうなれば一生まともな生活は期待出来ない。それでも流民になる道を選ぶのは、そうしなければ生きていけないと判断した時である。

 つまりは、「死ぬよりはまし」という所まで追い込まれた結果の事となる。


 流民になれば、当然今の村人全員で生活することは出来なくなる。

 各々が自分達の食い扶持を手に入れるだけで精一杯になるだろう。

 そんな状態で何十人も固まって行動するのは不可能だ。

 そもそもそんな集団を受け入れてくれる村や町などありはしないだろう。

 分かっていたことだが、直接リゼットの口から語られた現実にエタンはショックを受けた。


 もうこうやってリゼットと一緒にいられなくなる。


 そう考えただけで、エタンの心は張り裂けそうに痛んだ。

 僕に魔人を倒せる力があれば・・・。

 そんな夢物語のような事をエタンは考えた。

 数日前なら思い付くことすらなかった考えだ。


 魔人は人類の天敵である。


 その魔力は国の魔法騎士団全員を合わせたより高く、すでに隣の大陸は魔人の王、魔王によって人々は皆殺しにされたと言う。

 魔王の先兵はこの大陸にも上陸しており、隣の国が魔人によって滅ぼされたのはつい最近の事だ。

 エタンにどんな力があったとしても、人間が魔人を倒すなど太陽が西から昇ったってあり得ない。


 そう思っていた。数日前までは。


 ペリヤ村に住む村人達は、魔人が恐れられているほど絶対的な力を持つ生物ではないことを今では知っている。

 それは魔人を倒す存在を知っているからだ。

 その名はグレートキングデビル。

 突如村に現れ、二度に渡って魔人を撃退した、鋼の肉体を持つ破壊の権化である。


 信じ難いことだが、エタンはそのグレートキングデビルになり魔人と戦った記憶を、ぼんやりとだが持っているのだ。

 事実、地球から転移して来たマスクの力でエタンはグレートキングデビルとなり戦ったのだが、流石にそれを理解する事は素朴な村の少年には難しかった。

 エタンはあれは自分の願望が見せた夢だと思っている。

 実際の自分は魔人の使役する魔獣どころか、リゼットの幼い弟に勝つくらいが精一杯なのだ。

 もっとも本当にケンカになった時、エタンが勝てるかどうかは疑問だが。

 エタンはそれくらい争い事を苦手とする気弱な少年だった。




 少し考え込んでいたようだ。

 黙り込んでしまったエタンを、横からリゼットがじっと見ている。

 服の上から体を透かして見るような、いつもの視線だ。

 エタンは居心地が悪そうにもじもじした。


 リゼットは、エタンが自分の視線を意識していることに気が付いたのだろう。

 しかし彼女はさほど気にしていない様子でエタンに声を掛けた。


「何か考え込んでいたみたいだけど、私達にできることなんて薪拾いくらいよ。早く済ませて帰りましょう」


 彼女は立ち上がるとスカートに着いた土を払った。


「ちょっと、僕の顔の前ではたかないでよ」

「あらゴメンなさい。それより急ぎましょう、少し遅くなったわ」


 リゼットは少しばかり大雑把なところがある。

 エタンは彼女のことが好きだが、以前からこういう部分だけは改めて欲しいと思っていた。

 もちろん、面と向かって直接彼女に言う事は出来ないのだが。


 二人は手分けして薪を拾い集めると、急ぎ足で村へと向かった。

 しかし、彼らの判断は遅かったのだ。


「なんか可愛い子がいるし」


 女性のはずんだ声に、リゼットとエタンは思わず足を止めた。

 森の中の小道を通って現れたのは、質素な村人である二人が見た事もない可愛い服を着た女性。

 その髪は銀色、瞳の色は金、肌の色は紫色、頭には二本の巻いた角。


 人類の敵、魔人である。


「アナタ可愛いし、はらわたを溶かされて魔獣の餌食になるなんて少しもったいないかも」


 だが、可愛い顔と可愛い声で告げられた言葉は、決して可愛いとは言えない内容であった。

次回「ガーリーファッションの魔人」

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