Episode 3
一日の授業も終わった放課後……
部活をする人も居れば、友達と話してまだ帰らない人も居て
さまざまな一日の終わり向かえている中、
私はと言うと鞄に教科書を居れると
静かに立ち上がり教室を出ようとしている背中を誰も止めようとはしない。
これも至って私には当たり前で「普通」と言われることで
一人で居ることも慣れ、誰かと一緒に同じようなことを繰り返して話すほど
無駄に思う。
正直、誰かと共有の話題で話せたらこんなひねくれた性格にはならなかっただろうし
一人にも慣れなかっただろうし。
心が冷え切って寒くて、暖め方も忘れてしまったこの心に
どうやって火を灯せばいいかも分からず
感情も冷え切ってしまっている。
その温め方は教科書にも、ましてや本や誰から教えてもらえるわけじゃない。
自然と身につけていくものなのに、私は身につけてこないで
ここまで生きてきた。
かと言って誰かと話しかけようにも、どうやって話していいかも分からず
そんな事を考えながら長く続く廊下を歩いていると
窓から差し込む陽ざしが茜色に変りつつ夕日になっていこうとしていた。
直接見ようとすれば、その眩しさに目を細め
見てはいけないパンドラの箱の如く、容易くは見ることを許してはもらえない。
でも人はその太陽に憧れてか空を見上げ眩しいと分かっていても
視界に入れようを見てしまう不思議があり
どんなに嫌な日があろうとも、必ず太陽は昇り
人々を空の上から照らし続けている。
どこかの学者が云った・・・
「太陽が出来て約46億年、いつ滅びてもおかしく無い状態にある」
朝日にもなり日中にもなり夕日にもなりコロコロと表情を変えて
当たり前のようにある太陽が消えてしまうことなど
想像しても全くと言ってほど予想も出来ないし
どうなるかも全く分からない。
でも、いつもの様に登る太陽を見ない日は無い・・・。
いつの間にか足を止めていたようで夕日も一段とその灯りを沈むまでの
その時まで燃やし輝かせているのを見ると
私の悩みなどちっぽけな事なのかもしれない。
沈みゆく夕日を顔の前で手を広げ、指の隙間から覗かせる夕日を
目を細めながら見ていると
いつの間にか静まり返った教室と廊下には人の気配すら無かった。
私は時折、こうして時間を贅沢に使い時が過ぎるのを待ち
本当に望んでいる夜空に月が登ることを・・・。
夜の帳が降り、藍色に染まった夜空に小さく光る1等星の星が
小さく瞬くと次の日は風が吹くと言う天文学の現象を確認するのも楽しみで
星が瞬かない日は少し残念な気持ちにもなるが
1番の楽しみはその夜の月。
毎日、満ち欠けをしている月が光り浮き出てるのを
飽きもせず、ずっと見ていることができる
その月を望んでいるから心の中で”早く夕日を沈んで・・・”と願ってしまう。
私にとっての太陽は夜空に月を昇らせる、ただの道具にしがいない。
「おーい、下校時刻は過ぎてるぞ。早く帰りなさい」
廊下の遠くから教員らしき中年の男が声を掛けてきたことに
我に返り教員の方に素早くペコっと軽く一礼をすると向き直り
急いで下駄箱のところへと行ったが
自分の靴があるボックスには心の無い言葉が書かれた紙がいっぱいに貼り付けられ
毎回の事ながら無表情でその張り紙を取り捨てて
中の靴を履こうとし手を伸ばすが靴が無くなっていた。
今に始まったことじゃないが・・・靴が無いのは困った・・・
義母になんて説明していいか分からない為、また嫌な顔を浮かべる義母の顔が
脳裏によぎったが
空になった靴箱に履いていたシューズを入れると靴下のまま
学校を後にした。
”いつもの事よ・・”そう自分自身に言い聞かせるように早歩きで
感情が溢れ出てしまわないように言葉を飲み込み
徒歩で20分ぐらいで人気の少ない海へと行く道が開け
耳の奥で波音が微かに聞こえていたのが
少しづつ大きくなると共に潮風の匂いが海へと誘う。
見えて来た防波堤に瞳が少し大きくなり、歩く足も速くなり
早歩きが地面を蹴り走りだしていた。
地面はじんわりと昼間に浴びていた太陽の熱を持ちつつ
耐えれないほどじゃないがアスファルトが熱いが
それより海へと行きたかった。
浜辺へと降りる階段を急ぎ足で掛け降りると
サラサラとした砂浜に足元を奪われそうになりながらも
水際まで走ると鞄を投げ捨ててザバーンと静かに波打つ水際に入ると
足は熱を持っていたようで海の水が冷たく気持ちよく
押しては引いて繰り返す波が脛まで来る深さまで行くと
スカートを少し手で持ち上げ気持よさに目を静かに閉じ
深呼吸いっぱいに潮風を含んだ。
静かに波打つ海は、誰も来ない私の秘密の場所
小さな入江になってるだけで何も無く
両サイドを大きな岩で囲まれてるが
人が来ないのもあり砂浜はいつも綺麗で
そこに流れ込む海水を透き通ってて水面が夕日の光で
キラキラと光りを反射している。
もう1度深呼吸をすると、何処からか聞こえる声に耳を傾けると
海の音でかき消されてた部分が少しづつ聞こえ
それは何かのリズムだと分かり、音のする方を見ると遠目に人影が見えた。
その人影から聞こえる音は、機械音ではなく
人の声だった・・・。
視界にぼやけて映る人影に集中するように視線を向け、
じーっと見ていると人影はこちらに気づきもしないで
響き渡る声に聴き呆けてしまった・・・。
その声は澄み切った音を奏で海風に乗り海に広がっていくようだった。
Next to be continued....