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せかいでいちばん  作者: 朝霧 成平
2/5

Episode 1

時間だけが過ぎて行った・・・。

私はまだ何もあの音に辿りつけずにいた。



ただ、私の環境も変わった。

私は冬の寒い朝、赤ちゃんの時にこの児童養護施設「ひだまり園」の門の前に

段ボールの中に入れられたまま捨てられたいた。

母親が誰なのかも誰が私を捨てたのかも分からないけど

ここの園長先生は私を拾ってくれて

柚の香る季節に私と出会ったことで私の名前は「柚葉」と言う綺麗な響きの

名前をつけてくれた。

この名前は、私自身もとても気に入っていて呼ばれる度に

柚の香りがしてきそうな感触になる。


周りと馴染めずに居た時からずっと一人で居ることには慣れていたけど

転機は起きたのは7歳になった夏風が頬に当たると

暑さが少しましになる、とある夏の日。

中年の男性と女性が部屋で絵本を読んでた私に話しかけてきて

静かに私の手を引き、立ち上がらすとそのまま園長先生の居るところまで

連れていった。

園長先生と何を話しをしてるかなんて分からず、ただ見上げるばかりの

大人の顔たち。


他の先生が私の荷物をもって来て、中年の女性に渡していたことに

胸の奥が締め付けられる寂しさを覚えたことは今でも覚えている・・・。

私は何故か恐怖感を覚え、握られてた手を振りほどいて

走ってみんなと過ごした部屋へと駆け込み

枕の下に隠してある箱を取り出し胸にギュっと握り締めながら

怖くなった肩を小さく震わせながら座り込んでいた。


そこへ中年の男性がやってきて、しゃがみ込みながら

優しく微笑みながら腕を伸ばしそっと頭を撫でつつ


「ごめんね・・・驚かしてしまったね。

僕はね今日から君のお父さんになるんだ

だからね、仲よくしよう」




それから10年・・・___



里親が見つかり、施設を出て新しい家族がいる家に暮らすようになり

もう10年が経っていた。

時間の流れは早かった・・・。

私を受け入れた夫婦にはずっと子供が出来ず、不妊治療をしていたが

なかなか成果が出ず養子という形を取って

私を受け入れ新しい両親が出来たのだが、その翌年・・・

新しい両親の間に長女が生まれ、数年後には長男も生まれ

今年、次女が生まれた。

義母は大喜びで我が子を可愛がり、私のことは空気のような存在で

見ていた・・・。

向けられた視線はとても冷たくて居心地の悪さがもうずっと

続いているがこの家を出るにはまだ若い私には出来ない。

新しい両親のおかげで私は学校にも行けてるし、好きなピアノを弾かせてもらわせて

これ以上の贅沢は望めない。


いつまでも慣れないぎこちなさを感じつつも

作り笑顔に心にも無い言葉を述べる日々。

辛くても泣きたくても、それを押し殺して誰にも気づかれずにと黙って堪えてる。



これでも恵まれていると思う、私が望んだたった1つのことを続けさせてくれている。

黒と白の鍵盤が綺麗に並ぶピアノ。

始めは独学で弾いていたが、あまりにも下手すぎて見かねたのか

ピアノの教師を雇うことになり私は日々、ピアノのレッスンをすることになった。

でもあんなに綺麗な音が出せるだから楽しいものだと思っていたけど

現実は厳しい指導に楽しささえも分からず

ふと、その時頭に浮かんだのはあの時の少年の事・・・

なぜあの子はあんなに綺麗な音色を出せたのだろう・・・。



悲しくて指が止まろうとすると手の甲を叩かれると現実に戻され

弾くことが怖くなってしまう・・。

でも止めることは出来ず、ただただ必死に弾くことしかできない。


臆病で泣いてしまう日も、あの耳に残る音色があったから

どんなに高い壁だとしても乗り越えれたと思う。

あの時の聞いた彼の音色が聞こえてる限りは

恋しくて泣いた日も遠くで願った日も

目を閉じれば思い出して忘れないよ・・・今もずっと。


だから私は、1歩でもいいから前に進んで

あの少年の音色を探し続けるの・・・。


そして言いたい「ありがとう」・・・て。



ピアノのレッスンが終わると与えられた日のあまり当たらない自室に

急いで戻り

机に向かい、引き出しから出した便せんを机に拡げ

ペンを持ち

こうやって毎日、あの少年への届かない手紙を書いては引き出しにしまうけれど

いつかはこの手紙が彼に届くことがるようにと

願って彼から知った思いを忘れないようにと・・・

手紙の数は沢山あるけど、でも1つ1つが宝物なの。



もし手を伸ばす先にあの少年が必要としてくれたのなら・・・

私はどれだけ幸せなのだろう。


今はこの気持ちだけで、幸せと思う・・・

だからこの小さな幸せが続きますように。


あの少年の音色の傍に居られるのは、私が鍵盤を弾き続ける間だけ・・・



季節がいくつも重ねても、ずっとこの音色を忘れはしない。



Next to be continued

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