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せかいでいちばん  作者: 朝霧 成平
1/5

Episode Ø


たった1度だけ聴いたその音に乗せられた世界が広がったかのように

目を大きく見開いて「わー・・・!」と心が踊らした。


幼い私は、児童養護施設の人に連れて行かれた

音楽ホールのコンサートに初めて行った。

全ての音を吸収し、いつもと何だか違う空気感と

色んな人達が始まるのを楽しみにしている声が

耳をくすぐるかのように、くすぐったく

今から何が始まるのかワクワクした気分で

椅子に座っても足をブラブラと揺らしていた。


舞台の上には読み方が知らない楽器と椅子が置いてあり

まだそこに弾く者たちは現れていないのが気になり

目で右の袖舞台や左の袖舞台をチラチラと見てると

落ち着きのない私に気づいたのか、園長先生が

頭をポンポンと撫でられると、その手の方を見上げた。


「落ち着きなさい、もうすぐ始まりますからね」

と優しく微笑みながら言った。

コクリと頷くけれど、初めてのコンサートホールに

どう抑えてもワクワクした気持ちは抑えれ無い。

今まで施設に来てから周りとは馴染めず

これといって特技も無ければ趣味も無かったから

いつも1人で居た。

誰とも話さず、日が当たる場所に座って

走り回る子たちをそっと細く眺めてた。

馴染めていない私を心配してか、園長先生の気遣いで

今日、この日を迎えた。

外出することなんて無いから、それだけでも嬉しいことなのに

他の子も居ない園長先生と2人で来れたということの方が

大きく嬉しさが増していた。


ふと見上げると園長先生の笑顔に釣れられるように

ニパっと満面の笑みを表すと共に会場が少しざわつき始め

舞台袖からは楽器を各々で持って定位置へと静かに座ると

1歩遅れて出てきた指揮者のおじさんが指揮台に立つと

楽器を持った演奏者たちは1つの音に合わせるように

チューニングを始めた。

どの楽器も共鳴するように静かに奏でられてたのを指揮者が

全体を見渡し、クルリと客席の方へと向き直すと

一礼をした。

その姿は紳士的という言葉が似合う仕草で

周りに遅れて小さな手で拍手を送った。


指揮者は向き直り、指揮棒を片手に持つと

演奏者が一斉に構えて、指揮者の振る指揮棒に一点集中したように

視線を向けていた。



ふわりと指揮棒が振られると、静かだったホール内に

色んな音が混ざり響き渡った・・。

ヴァイオリンから聞こえる高音に合わせるように

ポロン・・

ピアノの音が聞こえたと思ったら勢いのある音程を踏みながら

奏でる音に視線を向けると

私より少し年上の男の子が大人の中に混じって

その体より大きなピアノを弾いていた。

その小さな体からは出るとは思えない程の強くてでも優しい音を

指から放っていた。

その姿に釘付けになり、視線を外すことが出来なかった・・・


1つ1つの音が深くとても広く、そして・・・心奪われるものだった。


「ほら、帰るわよ」

そう肩を小さく揺さぶられて我に返るまで

ピアノに集中していて演奏が終わったことにまで気づかずいた。

急いで椅子から立ち上がり、園長先生の後を追いつつ

ホールを出る前に1回だけピアノがある舞台を振り返った・・。


耳に残る旋律に私は恋をした・・・


小さく儚く淡い恋を。


今でも目を閉じ耳を澄ませば、あのピアノの音が蘇る

何の曲かなんて分からないけどでも音だけは覚えている・・・。


忘れない・・・

この音を。




Next to be continued....

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