始まりは何時も唐突に
悪役令嬢の話を書きたいと思って勢いのまま書き始めたお話
終着点は何処かわかりません
「アウローラ・ミッドフォード貴様との婚約を破棄する」
「あ、ハイ」
モグモグと口の中のモノを咀嚼し、上品に出来る限り上品に答える。
柔らかな肉を歯を立てると濃厚な肉汁と隠し味であろう赤ワインの芳醇な香りが口の中いっぱいに広がる。
うん、美味しい。ここのシェフまた腕を上げたわね。
・・・・・・いや、そうじゃなく。
何でこのタイミングで婚約破棄を宣言しに来るかな。このバカ王子。
学院の食堂のど真ん中、しかも今はお昼時真っ只中だ。ご飯を食べに来たその他大勢は全くもって大迷惑である。せっかくの美味しいお肉が台無しだ。
TPOを知らないのかと声を大にして言いたい。
うん。知らないな、だって此処異世界だもの。
でも時と場合と状況と言うのは何時も何処でも共通の一般常識のハズだ。
・・・・・・それが例え異世界でも!!
私が異世界転生したと気が付いたのは10年前の話だ。
大事な話があるからと宰相である父に手を引かれ登城したのは5歳の頃。
立派な玉座に座る王様に挨拶し、こんやくだかコンニャクだとか何それ美味しいの?と聞き流しながらキラキラ光る調度品に囲まれた謁見室を物珍しく眺めていたら、開く扉の音と後頭部に走る衝撃。
フェイドアウトしていく意識の中で大勢の人の右往左往する音と悲鳴。
・・・・・・足元にコロコロと転がっていく白いボール。
あぁ、頭にぶつかったのはこれかと思うと同時に視界に入る煌めく金髪のバカ面下げた男の子の顔。
室内でボール遊びなんかしてるんじゃない!後で一発ぶん殴る!!と心に誓い私の意識は完全にブラックアウトしたのだった。
ふわりと漂う甘い花の香りとふかふかと体を包み込む感触にここが天国かと思った瞬間、
「アウローラ!!」
父の慌てた声が耳に届く。
そっと目を開ければ心底ホッとした表情で微笑む父。
うっすらと目尻に光る涙には気付かない振りをして・・・・・・
あぁ、お父さま可愛い!普段は格好いい!素敵って思ってるけど時折へたれな部分が見え隠れしてそこがイイ!!
攻略キャラじゃないのにスチルがそれなりに多くて制作側の愛がひしひしと感じられて全く持って公式さまありがとうございます!って思ったことが何度あったことか。
・・・・・・ちょっと待て攻略キャラとかスチルとか制作側とか公式さまとか、って何?
何やら私の記憶がおかしい、もうひとつのここではない何処かの人生の記憶がある。
思い出せ、私は、アウローラはやればできる子!頑張れ!!
自分自身に知った激励しうんうんと唸りながらも考える、あと少しちょっとした切っ掛けで思い出せそうな気がするんだけど。
「おい」
何、五月蝿いな。
「おい!」
先刻から私の思考を邪魔する声に視線を向けて見れば煌め金髪、白い肌に蒼い空色の瞳の男の子。
「あぁっっ!」
甦る後頭部に走る衝撃。
「室内でボール遊びなんかしてんじゃないわよ!」
怒号とともに手が出たのは悪くない。
勢い余って足も出たけど悪くないったら悪くない。
私の一撃。いや、二撃で吹っ飛び倒れた男の子を睥睨しようやく私はここが前世でプレイしていた乙女ゲームの世界であることに気が付いたのだった。