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虚構転生//  作者: ゼップ
炎と海のトリエ
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94/243

94_銀色の樹を越えて


トリエ。

5《シュンフ》、7《ジーベン》。

そして竜のアラン。


彼らで過ごしたその一室は、あまりにも呆気なく破壊されていた。

5《シュンフ》がずっと見ていた窓は割れ、割れた結晶が床に散らばっている。

せっかく掃除していた家具類はひしゃげ、あの料理らしきものが行われていたテーブルも砕けてしまっていた。


穴の開いた窓から猛烈な風が流れ込む中、トリエは5《シュンフ》に抱えられていた。

灰色のカソックに包み込まれるような気分だった。見上げると5《シュンフ》は素顔を晒していて、敵意を込めた眼差しでヴィクトルをにらみつけていた。


「ふむ、あの針金剣士はいないのか」


対するヴィクトルは、肩透かしを食らったような口調で言った。

針金剣士というのは7《ジーベン》のことだろう。

彼はまだ戻っていなかった。この時間はまた工房かどこかにいるはずだった。


「しつこい男もいたものだ」


竜のアランが呆れるように言った。

その言葉通り、ヴィクトルは時計塔の街でこちらを取り逃がして以来、こちらを追う方法を探していたのだろう。

どうやってやったかは知らないが、今日、ついにこの機関車までたどりついたということらしかった。


「…………」


5《シュンフ》はヴィクトルをにらみつけたのち、


「直してもらっていてよかった──『ヴァラディオン』」


5《シュンフ》はそう呟き、偽剣ソードレプリカを手元に抜いた。

『ヴァラディオン』は刀身に継ぎ目のある、銀色の偽剣ソードレプリカ

間庭役長剣を両手で握りしめながら、5《シュンフ》はヴィクトルと相対する。


「その剣も、珍妙なギミックがあるんだったな」


ヴィクトルの言葉を無視して、5《シュンフ》はトリエに囁いた。


「しっかり捕まっていて、とりあえず7《ジーベン》と合流するから」


次の瞬間、5《シュンフ》とヴィクトルは共に跳躍ステップをした。

ごっ、と半壊していた壁を突き抜け、二人は部屋を飛び出る。


ドームの内部、柱を中心に枝のような細い通路が重なり合っている。

ごちゃごちゃと散らかったごみを踏みしめ、枝から枝へと跳躍ステップ

墜ちる──反射的にそう思ったトリエは目を瞑った。

一瞬の浮遊感と、衝撃。

そしてさらなる跳躍ステップ

途中、工具を運んでいた小鬼たちが目を丸くしたのが見えた。


無理もない。

ドームに内部に張り巡らされた通路、枝から枝への跳躍ステップなど、自殺行為に等しい。

一歩でも踏み違えれば真っ逆さまに墜ちる。

下を見れば、こちらを見上げる人々が豆粒のような大きさであり、その高さにトリエは目を見開く

それでも5《シュンフ》もヴィクトルも一切の躊躇は窺えなかった。

それは一度交戦しているが故、互いの力量を把握しているためだろう。


時に滑るように墜ち、時に連続で跳躍ステップで駆け上る。

連続の跳躍ステップで、彼らは舞うように跳んでいた。


縦横無尽に駆け抜ける5《シュンフ》に、トリエは必死にしがみつく。

時計塔の街と同じ構図だった。しかしこんなに彼女は細い身体をしていたのか、とトリエはどういう訳か思ってしまった。

きっとこの身体は、最弱の名を持つ、自分よりも弱く、華奢に思えて──


「行くよ、捕まってて」


──けれども、そう告げる5《シュンフ》の顔は凛々しく、芯の通ったものに見えた。


鋼色の道から道へ二人は跳ぶ。

が、と轟音が響き渡った。

トリエは、きゃっ、と思わず声を漏らす。

土煙が上がる。

見れば、通路の一角が破砕されていた。

ぎいいい、と音を立ててひしゃげていく。


「アイツ、このドーム内で剣を撃ったのか」


5《シュンフ》の背中越しに、トリエは見た。

ばさばさとコートを揺らしながら、佇むヴィクトルの姿。

彼は楽しそうに哄笑し、こちらを追い詰めようとしている。

その姿に、トリエは本能的な恐怖を覚えた。

彼のことが理解できなかった。

自由軍にいたころから気狂いなどと言われていたが、本当に──そうとしか言いようがない。


「とにかく7《ジーベン》と合流しないと」

「……工房にっ!」

「んっ! 何!?」


そこで、はっ、とトリエは顔を上げた。

7《ジーベン》がわざわざこの前、自分を連れ出した。

そして、ここから飛び立てる足を自分に見せた。

もしもの時に覚えておけ、とも彼は言っていた。


「工房に、たぶん7《ジーベン》はいるし、待っているとも思う」

「────」


5《シュンフ》は一瞬逡巡するように目を瞬いたが、再びヴィクトルの“早撃ち”が通路に炸裂したのを見て、頷いた。


「上にいって! この前連れていかれたから、覚えてる!」


トリエは5《シュンフ》に必死に叫びを上げた。

ぐるぐる回る視界は気持ち悪かったが、ここで目を瞑ってはいけないのだ。


「7《ジーベン》という男は、この事態を予想していたのか。しかし何故だ、予想しているのはまだしも、何故対処法を教えておく?」


竜のアランが何かを言っていたが、無視をした。

5《シュンフ》の身体を抱きしめながら、彼女を工房へと誘導した。


──果たして、そこに7《ジーベン》はいた。


その時の彼は、仕事に出ている時の魔術師エンジニア服ではなかった。

灰色のカソックを纏い、剣の仮面を纏っている。

そして彼の足元には、工房の魔術師エンジニアたちが倒れ伏している。


そこにいたのは異端審問官としての、彼だった。


「行きなさい、5《シュンフ》。奥に翼と足があります」

「了解、助かるわ」


最低限の言葉だけを交わしたのち、二人はすれ違った。

その淡々とした所作は、あの部屋での二人とは何もかもが違った。

その事実にトリエは胸を締め付けられるような心地だった。


「奥に行けばいいんでしょ? あたしに教えて」


5《シュンフ》の言葉にトリエは頷く。

またしても、自分は逃げなくてはならないのだ。








「まったく、翼人に自分を運ばせるとは……どこにそんな執念があるのです」


工房前にて待ち構えていた7《ジーベン》は呆れるように言った。


「我が好敵手か。待っていてくれるとはありがたいものだ」


対するヴィクトルは7《ジーベン》の姿を見るなり、またしても楽しそうに声を上げて、笑った。

そして手首に巻いたソードリストを見せつける。

彼の剣は見えない。巨大な剣による不可視の剣撃こそ、彼の最大の武器だった。


「誰が好敵手ですか」

「あの時は結局勝敗はつかなかったからな。次こそは俺の“早撃ち”が貴様を越えよう」

「勝敗などくれてやりますから、どこかに行ってくれませんかね」


7《ジーベン》はそこで髪をかきわける。

その手には偽剣ソードレプリカ『可変式フーブゥ』がある。

短剣形態から、既に鎌の形まで刃は展開されていた。


その刃を見て、ヴィクトルが満足げに口笛を吹く。

そうして戦いの火ぶたが再び切って落とされる──


「ところで一つお聞きしたいのですが」


──直前、7《ジーベン》は尋ねていた。


「貴方、あの5《シュンフ》と通じていませんか?」


と。

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