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虚構転生//  作者: ゼップ
炎と海のトリエ
88/243

88_ゆっくりと厳粛に~睡眠~


そうしてトリエと5《シュンフ》、7《ジーベン》の生活が幕を開けた。


朝、薄いカーテン越しに陽の光が感じられる頃、トリエは目を覚ます。

するとたまに、どこかに行こうとする7《ジーベン》と目が合う。

彼は朝から夕方まで、扉の向こうに出ていき、帰りには食糧や金銭を持っている。

手ぶらで帰ってきたことは今のところ一度もなく、それは何気にすごいことなのではないかとトリエは思っていた。


外に行く7《ジーベン》にトリエは「行ってらっしゃい」と声をかける。

すると彼は柔和な笑みを浮かべ「では」と去っていく。

そのやり取りののち、トリエはもう一度目を瞑り、眠りに落ちる。


5《シュンフ》はというと、部屋の隅で縮こまるように寝ている。

わかってはいたが、この部屋は機関車の中にあっても安部屋のようで、二段ベッドの一つしかない。

当然一人は必ずあぶれてしまう訳で、5《シュンフ》は何時もそんな風に寝ている。


「……変わろうか?」


この生活が始まって数日後、トリエはそう聞いてみたことがある。

それまで7《ジーベン》がいない間は会話という会話がなかった。

5《シュンフ》は食事をする時以外も仮面を被り、縮こまって荒野を眺めている。

そんな彼女に話しかけにくいものを感じていたのだ。


「気にすることはないぞ、トリエ。彼らは言ってしまえば誘拐犯のようなものだろう? どうせ後から乱暴されるのだから、今のうちに形だけのやさしさを享受しておけ」


竜のアランが意地悪くそんなことを言うが無視する。

そういう問題ではない。5《シュンフ》のことを気遣ってというよりも、それ以上の居心地の悪さが理由だった。


「あの、その、私ばっかりベッドで寝てるのもアレだし」


歯切れ悪くトリエが言うも、5《シュンフ》は何も答えてくれなかった。

トリエは大きく息を吐いた。

やることもないのでベッドのシーツを整え、ごみなんかをまとめていく。

それも終わったら、昨日7《ジーベン》が持って帰ってきた水の瓶を開けた。


トリエはそのまま無言で過ごす。

せめて本が欲しいと思った。

外に行けばあるのだろうが、部屋の扉は閉ざされている。

無論、トリエが勝手にこの部屋を出ていくことなどはできなかった。

聞いてみたこともないが、異端審問官が許すはずもないだろう。

5《シュンフ》がこの部屋にずっと残っているのは、殺すべき聖女が逃げないようにするための監視のためだと、トリエは察していた。


がた、と言語機関車が揺れる音が響く。

窓の外は相変わらずだだっ広い荒野だったが、今日は雲の向こうにぼんやりと陽が見えた。

空が暗くなるころには二つの月が見えるだろうか……







「変わってあげたら?」


今日も今日とて、精製されたパンを頬張りつつ、トリエは7《ジーベン》に尋ねた。


「ふむ、何を?」

「ベッド。その、5《シュンフ》さんにさ」


すると7《ジーベン》はもぐもぐとパンを咀嚼したのち、コップを置いて、


「そうですね……」


7《ジーベン》は言葉尻を濁しつつ、5《シュンフ》へと視線を向けた。

そのまなざしに込められた意図を理解できず、トリエは首を傾げた。


「あたしは」


ふと、5《シュンフ》が声を発していた。

トリエは思わず肩を上げ、彼女の方をどういう訳かおそるおそる窺っていた。


「あたしはそもそもベッドで寝たことがないから。そういう種族だから……」

「種族?」


尋ねたが、答えてはくれなかった。

彼女は窓越しの荒野をじっと見たままで、トリエを一瞥することさえなかった。


「邪魔、だったから、翼が……」


ただ一言、か細い少女の声で、そんなつぶやきが聞こえたような気がした。


「と、いう訳です。

 まぁ色々な事情があるのですよ。人にはそれぞれ落ち着く場所がある、という訳です」


諭すように7《ジーベン》は言って、それでその話は終わりだった。



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