69_キョウ・2nd
……そうして、決着はついた。
かつてリューだった異形は、光に穿たれ、その奇怪なカタチをどろどろと溶かしていく。
飛び散った黒い羽根が、もはや更地になってしまったフロアに降り注いでいた
その存在を駆逐することに成功した。
6《ゼクス》も田中も、確信を持って降り立った。
互いに一瞬だけ視線を絡ませると、6《ゼクス》は得意げな表情を浮かべ、釣られて田中も笑ってしまっていた。
その最中、崩れゆく異形に近づく影があった。
キョウであった。
「……援軍、助かりました」
彼女は田中やカーバンクルたちに向けて、振り向かずに言った。
「キョウ……さん」
「はい、大丈夫です。
マルガリーテさんこそ、お疲れさまでした」
抱えていたマルガリーテをゆっくりと地に下ろすと、キョウは一人歩き出した。
そして崩れゆく異形を見上げた。
彼女がどんな顔を浮かべているのか、田中は見ることができなかった。
「……それで守ったつもりなんですか?」
漆黒の羽根が飛び交う中、ゆっくりと彼女は言葉を口にした。
「ほら、私と会った時のアレ、私の目の間で死んでほしいっていうお願いですよ」
言うまでもなく、異形がその言葉を理解するなどということはない。
そんなことは──キョウはだって言われるまでもなくわかっているのだ。
「知っています。叔父様が、あの言葉を気に入って私を育ててくれたこと。
叔父様が、本当は子どもの保護者なんて実は全然慣れてなかったこと。
最近、私の身体を支えて飛ぶのが大変になってきて、実はその衰えをかなり気にしていたこと」
だから、その言葉はきっと彼女自身に向けたものなのだ。
「だから、叔父様的にはこの結末で結構満足なのかもしれませんね。
私ももう育ちました。一人で生きていくこともできます。
だから弱る前に、私のお願いを清算して、“終わり”にしてしまう……なんて、思っていたのかなぁって……」
キョウはそこで膝をつき、顔を抑えた。
己の肩を抱き、彼女はただ一人震えていた。
「でもね、叔父様。私、最後がどうなるかなんて、もう割とどうでもよかったんです。
理想なんてものがない私は、どこに辿り着いてもよかったのに。
同じ道を一緒に行けたのなら、私にとってはその道の間の、なんでもない、毎日の方が──」
そこで彼女は言葉を切った。
飛び交っていた黒い羽根はもうほとんどが地に墜ちていた。
青空の街に積み重なった羽根は、まるで漆黒の絨毯のようにも見えた。
──そして最後の羽根が、地に墜ちた。




