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虚構転生//  作者: ゼップ
たまごの中には墓標が立っている
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57/243

57_初見殺し


4《フィア》とキョウの戦いは、一見してキョウが優勢だった。

『ネヘリス』と『メルレピオン』の速度はほぼ互角。

そのため、一方的な展開になることはなかったが、相対してから攻めているのはキョウの方だった。


4《フィア》はゆらりとした服で敵の視界を遮り、小柄な体躯を活かした身のこなしで、するすると剣を避けていく。

その動きは卓越したものがあったが、しかしあくまで逃げに徹しているだけだ。

キョウは直線的ながらも苛烈な攻めを続け、4《フィア》を追い立てていた。


優勢であったが、しかしキョウはどこか戦いに集中できないでいた。

どうしても観客席を意識してしまう。

田中とマルガリーテがそこに座っており、ヨハンと何やら話していた。


自分と直接相対することなく、遠く交わされる言葉。

一体何を言っているのかわからない。おそらく自分とは関係のないことだろう。

しかし、キョウはそれを意識してしまう。

マルガリーテの糾弾はまだ耳に残っていた。それに尾を引く形で、今の彼女の集中を散漫にさせてしまう。


──どうせ、死なないんですし。


さらに胸の奥から、そんな想いがあふれてくる。

そう、このフロアには安全弁セイフティとしての言語テクストが刻まれている。

人は死ぬことはない。その時点で、キョウの目的は達せられているといってもいい。


噛み合わない想いを胸に、それでもキョウは『ネヘリス』をふるう。

叩き込まれた技の数々が、彼女の攻めを維持させていた。


とはいえ、そんな意識で戦う以上、どうしても隙はできる。

そして敵はそれを狡猾に待ち構えていた。


度重なる跳躍ステップの応酬の最中、キョウの『ネヘリス』が4《フィア》の『メルレピオン』と交錯する。

剣を受け止めた4《フィア》は、そのまま再度の跳躍ステップで下がる──と見せかけて、その場にとどまっていた。


「え?」


思わずキョウが声を漏らす。パターン化した戦闘が、突然変化を見せた。

無論、それを好機とみて、剣を叩き込まんとする。


「いない?」


剣を跳ね除け、4《フィア》の胴体に『ネヘリス』を突き立てた彼女は、そこで気づいた。

このダボついた服の中身は、仮面で隠されていた部分の中身は、がらんどうであると。


そのことに気づいたときには、キョウの背中に燃えるような痛みが走っていた。

振り返ると、嗜虐的な笑みを浮かべて刀身を突き立てる4《フィア》がいた。

その手にはもう一振りの『メルレピオン」があった。







隠密魔術ステルスマントに、分離型の偽剣ソードレプリカ

「bgao:gbami」

「ああ、なるほど。カソックにも仕掛けあるんですね。……うーん、実験的だなぁ」


戦いを見ていたヨハンが声を上げていた。

観客席から戦いを見ていた彼らには、4《フィア》の戦術を把握することができていた。


4《フィア》は剣の腕ではキョウに勝てないと判断したのだろう。

それ故に一瞬でもキョウの気を逸らし、背後から襲うことを選んだ。


元々『メルレピオン』は分離し、二刀で扱うことが可能な偽剣ソードレプリカである。

とはいえ二刀での使用は取り回しが難しく、4《フィア》はその機構を罠として使うことを選んだのだ。

すなわち、一刀を囮としてその場に固定し、キョウを釘付けとしたところを、隠密魔術ステルスで身を隠した彼女が奇襲バックスタブする。


「一個でも種が割れたら使えない初見殺し。

 まぁ、異端審問官らしいといえばらしいですねえ。

 それを僕らに見せちゃうあたり、どうもまだ若いですけど。まぁ僕らなら瞬殺できるとでも考えたのかな?」


ヨハンは平坦な口調で言った。

同時にキョウが倒れ堕ちるのがわかった。

彼女の敗北で決着はつき、二つの扉が闘技場コロッセオに浮かび上がった。







「勝ったよ、ロイ君」


戦いを終えた4《フィア》が手を振って呼びかけてきた。

勝利。意味があるかはひとまず置いておいて、それは間違いなかった。

田中は無言で跳躍ステップし、闘技場コロッセオへと降り立った。


「さて、行きますわね」


同じくやってきたマルガリーテは微笑を浮かべて言った。

倒れるキョウを彼女が見ることはなかった。

務めて視界に入れないようにしている、とでもいうように。


「勝ち……の方が正しい道と思いたいですわ」

「ああ、たぶんそっちの方が正解ですよ」


マルガリーテの言葉に答えたのはヨハンだった。

悠然と観客席を降りてきた彼は、妖精たちと一言二言交わしたのち、


「いや正確には勝った方が良い扉にいくとは限らないんですが、敗けの扉は明確に外れなんだとか」

「ふむん、ヨハンさん、妖精の言葉信じられまして?」

「ええ、彼がきっとこの“たまご”について、最も詳しいと思いますよ。 

 あ、僕もそっちの扉行きますから」


彼はさらりとそんなことを言ってのけた。

田中は眉をひそめるが、


「直接戦った人以外は、自由に扉を選べるらしいんです。裏技ですね、妖精さんがいなかったら気づかなかったかも」

「俺たちがそれを受け入れると?」


尋ねると、ヨハンは眼鏡を上げ、


「受け入れないのですか?

 僕はこの妖精さんの助言によって、正しい道がだいたいわかるというのに」

「……確かに有用性はありますわね」


マルガリーテが口元を抑えながら言った

田中は「しかし」といって、倒れるキョウを見た。


「あ、キョウさん。そういう訳で、護衛はここまでで大丈夫です。

 報酬はもちろん後日フルでお渡しいたします。帰ることも、貴方ならできるでしょう?」

「う……」


顔を歪ませるキョウに対し、ヨハンはそれで終わりと見たか、また妖精と話し始めた。

そこに霊鳥のリューが飛んできた。


「好きにするがいいさ、キョウは自分の身は自分で守れる娘だ。そしてこの私が彼女の味方である。それだけは確かだ」

「どうも、では」


ヨハンは振り返らずに返す。

そして当然のように勝者の扉をくぐっていく。

その態度にマルガリーテが息を吐いたのが見えたが「仕方がありませんわね」といって、彼女もまたそれを追った。


「…………」

「どうしたの? 行かないの?」


彼らに続こうとした4《フィア》は、田中が固まっているのに気づいて足を止めていた。

田中は、背中を抑えつつも立ち上がるキョウを見ていた。


「ロイ君も、また行っちゃうんですね」


彼女の言葉には何時もの快活な響きはなかった。

気まずげな笑みを田中へと向けたのち、もう一つの扉へと向かっていく。

無言でリューはその肩に乗り、同時にキョウは彼の身をそっと撫でた。


「…………」


聖女の歌はなおも続いていた。

その歌声に一瞬だけ耳を傾けたのち、田中は4《フィア》に口を開いた。


「少しあちらの扉を確かめてくる」

「え?」

「あっちはあっちで、何かありそうな気がする。

 別行動だ。オドレイはマルガリーテたちから情報を吸い上げてみて欲しい」

「え? ええ!?」


驚く4《フィア》を尻目に、田中はキョウのあとを追い、敗者の扉を開いていた。



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