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虚構転生//  作者: ゼップ
たまごの中には墓標が立っている
41/243

41_十一席


「さてさて、集まったみたいね。

 どうだった6《ゼクス》の研修チュートリアルは?」

「終わったよ、つつがなくね」


そのフロアにやってきた田中を迎えたのはカーバンクルだった。

彼女は壁によりかかりながら不敵な笑みを浮かべている。


「いろいろと教わったさ、先輩方にね」

「そうか、まぁ6《ゼクス》なら良いだろう、あれで面倒見の良い奴だからね」


言いながら、彼女は顔を近づけ、少しだけ声のトーンを落としながら、


「本当はハイネ、2《ツヴァイ》の奴にお前を任せられたら最高だったんだが」

「……別になんだっていいさ、俺はただ、聖女を殺せればそれでいい」

「ん、まぁそうかい、今の君の場合は」


カーバンクルはそこで視線を外し、部屋に並べられた席を窺った。

円を描くようにその席は置かれており、その中心にはぽっかりと穴が開いていた。

席の数は十一。


「…………」


そしてその席の一つにはもう既に誰かが座っている。

異端審問官の灰色のカソックに、剣の紋章がついた仮面を被った彼は、田中がこの部屋を訪れた時からずっとそこに座っていた。


「しかし、誰もいないな。君を紹介するために集合をかけたのに」


だがカーバンクルはまるで彼などいないかのように振舞っていた。

そのことに疑問に思った田中は尋ねようとするが、


「アレのことは、無視していいよ。君にはたぶん、縁のない話だ」


それを先読みするかのような言葉で遮られてしまった。

アレ、というのがあの席に座る彼を挿すのは間違いないだろう。

その意図が掴めなかったが、釘を刺された以上、深入りするのはリスクがある。

そう判断して、田中は口を噤んだ。


「まぁそろそろ来るだろう。10《ツェーン》も流石にこんなところでヘソは曲げまい」


その言葉通り、しばらくして、徐々に人が集まり始めた。

まず来たのは10《ツェーン》と9《ノイン》で、彼女らは田中らに挨拶一つなく並んだ席に腰掛ける。

次にやってきのは6《ゼクス》で彼は顔を合わせると、またあの気持ちの悪いウインクをしていた。

4《フィア》は部屋に入るなり、何故か田中の方を見て、ひどく赤面していた。


それで部屋には最初にいた男に加えて1《アイン》、4《フィア》、6《ゼクス》、8《アハト》、9《ノイン》、10《ツェーン》の7人が座った。

並びから何となく席順を察した田中もまた席へと座る。ちら、と隣に座る9《ノイン》が視線を向けてきた。

見れば、1《アイン》であるカーバンクルは無言の男の隣に座っていた。


その並び順から田中は、あの男が11《エルフ》に当たる者だと推し測ることができた。

みなが日本語を喋るなかで、何故かは知らないが、この組織のコードネームはドイツ語の数字から取られている。

そして異端審問官“十一席”という組織名の由来は、恐らくはこの部屋にあるのだろう。


「さて、だいたい揃ったでしょう」


おもむろに立ち上がった10《ツェーン》が中央のくぼみへと近づいていく。

薄紅色の長髪を揺らしながら、彼女は手を掲げる。途端、ぼう、ともやがくぼみに渦巻き、球体となってその場に維持された。


「全員集合、とは行きませんでしたが、とりあえず始めさせていただこう。

 まず今回は──」

「おおう、遅刻した遅刻」


と、そのタイミングで部屋に跳躍ステップしてやってきた者がいた。

仮面を被ったままの彼は、首をコキコキと気だるげに鳴らしている。


「3《ドライ》」


10《ツェーン》は不機嫌そうにその男を睨みつけた。

だが当の男、3《ドライ》は「すまんすまん」とさして悪びれた様子もなく言って、4《フィア》の隣の席に座った。

4《フィア》はそんな彼におどおどとした視線を向けていた。


「……さて、今度こそ全員でしょう。

 2《ツヴァイ》、5《シュンフ》、7《ジーベン》は任務で塔にはいないのですから」


果たして、8人の人間がこの場に集ったことになる。

全員が灰色のカソックを身にまとった存在、“聖女狩り”の異端審問官である。


「それではまず現状を報告します」


10《ツェーン》はゆっくりと語り始めた。

同時に後ろの球体にも変化が訪れる。暗いもやが今度は透き通る水晶と化し、そこに像が刻まれる。

どうやらそれは、地図のようであった。


「まず第一聖女は変わらず“春”の残党と結び、勢力を拡大しているようです。

 ここは2《ツヴァイ》が向かっていますが、特段大きな変化はありません」

「依然として膠着状態、という訳だな」とカーバンクル。

「ええ、まぁ」


10《ツェーン》が語るたびに、背後の地図が変化していく。

その見方を田中はまだピンと来ていない。しかし第一聖女の勢力の強さを示していることは、なんとなく掴むことができた。


「次に第二聖女、こちらも状況の変化なし。籠ったままです。

 第三聖女は、以前3《ドライ》と4《フィア》が逃して以来、姿を捕捉できていません。

 各地で発見の報告はあるのですが」


言われて4《フィア》が、びくり、と肩を上げるのがわかった。

責められたと感じたようだ。一方で同じように名前を挙げられた3《ドライ》は何も反応を示さなかった。


「第四聖女は既に発見・捕捉済み。5《シュンフ》と7《ジーベン》を派遣済みです。

 この二人ならば、恐らくは問題ないでしょう。そして──」


そこで10《ツェーン》は一度言葉を切った。一瞬だけ、田中の方へと鋭い視線を向けたのち、


「第五・第六聖女は共に討伐を確認しました。

 ……ここからは1《アイン》、貴方から報告していただいた方がいいでしょう」


カーバンクルは「わかったよ」と立ち上がった。

同時に、くいくい、と田中を誘うように手を振った。


「…………」


田中は無言でそれに従い、カーバンクルとともに中心へと立つ。


「第五・第六聖女は討伐した。

 その際、先代の8《アハト》は殺され、新たに彼を“十一席”に迎えることとなった。

 8《アハト》が死亡時に、その場にいた彼を──彼と呼ぶべきものを、巻き込む形で“転生”した存在だ。

 彼の代わりとして、これ以上ないだろう?」


視線が集まる中、田中を示しながら、カーバンクルは語り始めた。

特に背後に立つ10《ツェーン》の刺すような視線を、田中はどうしても意識せざるを得なかった。

もはや疑う余地はないだろう。8《アハト》と10《ツェーン》の間にあった強い結びつきと、今この自分との軋轢を。


カーバンクルは、しかし、田中のことも10《ツェーン》のことも一切気にしない様子で、


「だが、正直そんなことはどうもでいい」


そう言い切ったのち、声を張り上げて言った。


「伝えたいのはだな、彼は聖女の“転生”を止めることができるかもしれない。

 100年に渡る聖女との戦いを止める鍵になり得る人材だ、ということだ」


と。




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