39_4~年下の先輩~
異端審問官“十一席”が一人、4《フィア》。
ふらりとやってきた彼女は、剣を交えている田中と6《ゼクス》見て、
「ど、どうすればいいんですか?」
と、困ったように漏らした。
「ええと、わ、私、この時間、抑えていたんですけど……」
顔を俯かせ、か細い声で話し出す4《フィア》に、研修に集中していた二人は当初気づく様子はなかった。
なので彼女は二人の戦いをしばし見守ることになってしまった。
「おや」
それからしばらくして、ようやく6《ゼクス》が顔を上げた。
幾度かの攻防を終え、その額に浮かんだ汗をぬぐいながら、彼は佇んでいる4《フィア》の方を見た。
同時に田中もまた手を止めて、彼にとっては初めて見ることになる小柄な少女を見ていた。
「4《フィア》君か、何故君がここに?」
「あの、ええと、私……」
急に視線が集まり、4《フィア》はおどおどと様子を見せる。
その背丈よりもずっと長い偽剣を両手で抱え、瞳を不安げに揺らしながら二人を見上げていた。
「要件があるなら言いなさい。はきはきとね」
6《ゼクス》に促され、4《フィア》は唇を震わせながら、
「先輩、私、こ、このフロア、今この時間、使う予定で……」
「むむ、それは」
「あっ、えーと、でももちろん先輩たちが」
あたふたとする4《フィア》を余所に、6《ゼクス》は剣を収め、ゆっくりと頭を下げだした。
「すまなかったね、きちんと予約を確認しなかった私が悪かった」
「ええと、はい、確かに……」
謝罪された4《フィア》は誤魔化すように笑いを浮かべる。
「時に4《フィア》君、君のその恰好は何かね?」
「はい?」
顔を上げた6《ゼクス》は、ふと気になったようにそう尋ねた。
その時、4《フィア》はどう見ても丈の合っていないコートに身を包んでいた。
ゆらりとした生地を何枚も重ねたような奇妙な衣装で、小柄な4《フィア》の体型ににあわず裾も袖もダボついてしまっている。
顔もフードを被ってしまっており見えづらく、前髪の向こう側に若草色の瞳がかろうじて覗いていた。
「えと、ええと、これはなんかこのコート、新しいMT加工を施されてるらしくて……」
「ちなみに君がここでやろうとしていた作業は?」
「あ、はい。このMTコートの実験と、この実験騎のテストです」
「なるほどなるほど、また魔術師共に仕事を押し付けられたわけか」
やれやれ、と6《ゼクス》は息を吐いた。
「他の部の話など蹴ってしまってもいいぞ、4《フィア》君」
「し、仕方ないですよう、私、下っ端の新入りですし。先輩たちとは違うんですから……!」
ふるふると首を振る4《フィア》に対し、6《ゼクス》はまた息を吐いた。
そして何かを思いついたように、ちら、と田中の方を一瞥し、
「いやいや、4《フィア》君。君は一つ勘違いをしているぞ」
「え?」
「先輩先輩言うが、彼は君の後輩だ。君がえばり散らしてもいい」
そういわれた4《フィア》は「え……」と声を漏らして、田中の方を見た。
「ええと、あれ? 8《アハト》さん? んん? なんか違う?」
「……その8《アハト》はもう死んだよ」
首を捻る4《フィア》に対し、田中は表情を変えずに言った。
「あ! そういえば何かハイネ君から聞いた気がする」
4《フィア》はそう声を上げて納得したようにうなずいた。
フードや前髪のせいで表情は良く見えないが、先代の8《アハト》に対して特に深い感情はないようだった。
同時に田中もまた彼女に対して特段何も印象がないことに気づいた。
恐らく8《アハト》という男は、4《フィア》とはあまり交流がなかったのだろう。
「時に4《フィア》君。君はここで実験騎のテストと言っていたが、相手はどうするつもりだったのかね」
「え、あ、はい。影相手に適当に斬ったり張ったり、です。捕虜を的にするには書類申請が面倒臭かったし……」
「そうか。なら良い相手がいるぞ、そこに」
その言葉に田中は顔を上げる。
6《ゼクス》が意味ありげにこちらを見つめてきたからだ。
「ええと……新しい8《アハト》さんと?」
「さん付けはしなくていい。後輩だぞ、君の?」
そう言うゼクスに対し、田中は口を開いた。
「俺が相手をすればいいのか? その実験騎とやらと」
「ああ、そうだ。その方が良いデータが取れると思うのだがね、どうだい? 4《フィア》」
「ええと……」
フィアは躊躇いがちに6《ゼクス》と田中を交互に見上げたのち、
「わ、わかりました……そっちで、やってみます」
「色々教えてやるといい、4《フィア》。なんたって君はもう、先輩なんだから」
そう言って、6《ゼクス》の姿が、ふっ、とかき消えた。
跳躍だ。次の瞬間には彼は部屋の隅へと下がっていた。
「…………」
残された田中が、4《フィア》の方を見て、次なる行動を待っていた。
だが4《フィア》は瞳を揺らしながらこちらを見上げるのみで、何も言ってはこない。
とりあえず『エリス』を構え、何時何が来てもいいようにしておく。
「…………」
しばらくしても何も言ってこないので、田中はじれったく思いながら、
「何をすればいいんだい? 先輩」
そう尋ねた。
すると彼女は、はっ、としてようやく喋りだした。
「えと! あの」
そこで彼女は巨大な偽剣を両手で構えた。
「とりあえず私がこの実験騎『リリークィン』で攻撃します」
その言葉と同時に、ガチリ、と鈍い音が剣から響いた。
刻まれた言語が明滅し、錆びついた色の光が刀身に渦巻いていく。
「なので一方的に私にやられてください!」
次の瞬間、田中めがけて幾多もの閃光が降り注いだ。




