表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虚構転生//  作者: ゼップ
“無題最終章”
243/243

242_今日、紅い君とまた




ロイが言語船テクストシップに座り込み息を吐くと、隣に座るキョウが「大丈夫ですか?」と声をかけてきた。

見れば彼女も彼女で傷や疲れが滲んでおり、目が合うとそこで互いに苦笑を浮かべてしまった。


「大丈夫そうですね」

「そっちもそうだな」


そう言って二人は互いに大きく息を吐いた。

下等客室の人間たちは、傷だらけの彼らにぶしつけな視線をぶつける者たちもいたが──まぁ安全だろう。


今の今まで4《フィア》たち“教会”の追手と交戦してきたところなのである。

“教会”の最新兵器やら異端審問官に比べれば、今の空気はずっと気が楽だった。


「四季姫さんは?」

「もう寝たよ」


ロイはそう言って視線で示した。

共に逃走してきた四季姫は彼に肩を預ける形で眠っている


第七聖女暗殺は結局失敗し、追われる身となった彼らだが、ともあれ一番の危機は脱したといえるだろう。

その事実を噛みしめ、しばらくロイとはキョウは無言で身を寄せ合っていた。

言語船テクストシップの振動をその身に受けながら。


「四季姫様の味方になる約束、ちゃんと守ったんですね?」


不意にキョウは口を開いた。

そして眠り続ける四季姫の顔と、ロイの顔を交互に眺めつつ、


「誰かれ構わず殺しちゃってた時代からは考えれないです」

「さて、正直今でも俺は、自分のことをそこまで信用していない」


四季姫に対しては、頼まれた計画は失敗してしまったので、少々負い目があるのは事実だった。


結局、第七聖女アル・エリオスタは健在のままだった。

その父、絶世の剣士エル・エリオスタと共に、この“冬”の地に秩序をもたらすのだろう。

マルガリーテら反対勢力を吸収し、盤石の体制となった“教会”にもはや不安要素らしいものもない。


そのことはまぁ、何なら素直に喜んでもいいと、ロイは思っていた。

彼らに追われる身になりはしたが、こんな時代が終わるのならば、それに越したことはないだろう。


──第七聖女アル・エリオスタを通じて得た想いも、この胸にあることdさい。


「まー危ない人なのは知っています。ロイ君、今でも周りの人に対して、剣を抜こうがピリピリしていますし」


そこでキョウは、うんうん、と言って頷く。


「でもまぁ、ロイ君ならやっていけますよ。

 四季姫様の味方も、ちゃんとやってくれるみたいし」

「ああ、まぁね」

「でも、これからどうするんです?

 とりあえずはここから離れるんでしょうけど」

「探すよ」


尋ねてきたキョウに対し、ロイは即答していた。

ひとまずは“教会”の追手を巻くことになるが、今後当面の目標はすでに定まっている。


「あの人を探すよ。絶対どこかで生きてやがるからさ」


そう言って彼の脳裏に浮かんでいるのは──あのアカい瞳をした、彼女だった。


「たぶん向こうは向こうで俺のことを探していると思う。

 だから──絶対にこっちが先に見つけてやりたい。

 そうしないと、どうにも敗けた気になる。おいしいところを取られたというか」

「やっぱり、そうですね」


あえて直接の名前は出さなかったが、キョウはすぐに察したらしく、そう言って微笑んだ。


そこですっと立ち上がり、


「……じゃあ、まぁ、どこかで縁があったら、また会いましょう。ロイ君」


そう──別れの言葉を告げた。

背中を向け、そのまま去ってしまおうとする。


「いくら何でも早すぎる」


が、立ち上がったロイは彼女の肩を掴んで止めた。

途端、ばさり、と翼が舞い上がる。キョウが「きゃっ」と声を上げた。

いきなり広げられた翼に周りからの視線が集まり、ロイは苦笑を浮かべた。


「出てくことはないだろう、別に」

「え? なんでです? 別にもう私必要ないじゃないですか」


振り返った彼女は、頬を紅潮させながら言った。


「必要もクソもあるか、。

 放っておくとそっちが勝手に死んでしまいそうだ」


対するロイはまっすぐと彼女の瞳を見据えながら、そんなことを言うのだった。


「は?」

「俺がいないとそっちが勝手に死にそうだといっているんだ。

 一人でそんな生き方続けられるもんか」

「い、要らないです! 

 私! でもロイ君より強いですから!

 私にもう関わらないでください!」


ぶんぶんと手を振って言う彼女に対し、ロイは少し意地になっていた。

端的に言えば、どの口がそう言うか、という心地である。


「無関係なのに勝手に強引に割り込んできたのはそちらだ」

「なんでです! 私に構う意味がなんてないでしょう。

 私、私……」


輝く翼を彼女は少しだけ目を俯かせて、


「これから正直どうしたらいいのか、何もないんです。

 誰かに会いたいとか、平和にしたいとか、何か欲しいとか」

「だったらとりあえず、俺を追い払うことを当面の目標でいいよ」

「て、適当に言いましたね! こっちは結構真面目に悩んでいるんですよ」


頬を膨らませてキョウはこちらを睨み、そして、また座り込んでいた。

「なんだか、疲れてしまいました」と呟く彼女の顔は、何時もよりも随分と──アカい。


「……この現実を生きていけば、厭でも見つかるよ」


その隣に座り込みながら、ロイは告げた。


「そういうもの、でしょうか?」

「たぶんね。まぁとりあえず、しばらくは一緒にいてほしい。俺のためにもね」


そう告げると再び二人の間に静寂が舞い降りた。

ただでさえ体力を使っていたのにこんな口論をしてしまって──疲れてしまった。


だからとりあえずはここで身を寄せ合っていよう。

まだまだこれからもこの現実は続いていく。

明確な結末エンディングなんてものは、現実には存在しない。


いろいろ決着はつけたつもりだが、

それでも継ぎ目なんてなくこの現実は続くわけで、

きれいさっぱり気持ちよく終わり、とはいかないようだった。

とはいえまぁ──今は少し、休むとしよう。




(終わり、じゃない?)


以上で「虚構転生」完結です。

一年以上、ありがとうございました。

(なんかキャラ雑感とか余裕があればやる……かも?)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ