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虚構転生//  作者: ゼップ
“無題最終章”
241/243

240_エンディング……


「……こんな結末エンディングでさ、お前は本当にいいのか」


あなたはそういうことを言ってくれる。


その視線の先にはウィンドウに描かれた、無数の結末エンディングが浮かんでいる。

ロイ君がキョウちゃんだったり、カーバンクルさんだったり、ハイネだったり、いろいろな人と一緒にいるのが見える。

悲しいものもあれば、大団円としかいいようがない、華々しい幸福ハッピーエンドもまた存在している。


だけど、あなたはそのどれもを拒否するという。


わたしから与えられたものは──やっぱりいや?


「そうじゃないよ。

 決められたものをただ演じるもの。

 それは人形かもしれないが、その人形に意味がないなんて言わせない」


あなたが今、思い出しているのはあの糸繰人形劇場マリオネット・ステージの人形たちだろう。

さだめられた台本ブック、決められた結末エンディング


「俺のこの言葉も、在り方も、想いすらも、もしかするとお前に創られたものかもしれない。

 だけど、そうだとすれば、なおのことでここでは引けない」


すっとあなたはわたしを見据えた。


「俺は、お前をこの物語から解放するためにやってきた。

 だけど──忘れないでくれ。

 結末エンディングの先にだって、続くべきものはあるんだぜ」


わたしはあなたの言葉に耳を傾ける。

あなた──ちょっとだけ、カーバンクルさんの言葉遣いが移っているみたい。

わたしの記憶のなかのあなたは、半端に丁寧で、ちょっとわたしからも距離を取るようなところもあったのに。


「そういうお前も、全然前とは違うよ」


うん。

わたしがあなたを創り、そんなあなたがわたしを変えていく。

変わったわたしが、また新たなあなたを創っていく。


ここにもまた、別の円環があった。

わたしたちは物語の円環に縛られていた。

それを断ち切ることがこの物語の行きつくところのはずだった。


「輪を断ち切ることが、この物語の結末ならそうしよう。

 物語のためじゃない。俺自身が、そうしたいと思っているからそうするんだ」


あなたは言う。


「でも断ち切って、ならその次──お前自身の新たな場面がないといけないはずだ」


…………。

まったく、わがままな主人公さん。

自分の好きな結末エンディングが手に入るまで、わたしに向かってリテイクを繰り返すなんて。


わたしは──思わず笑ってしまっていた。


でも、どうするの?

わたしは“虚構”と“現実”の円環に縛られる存在。

結末エンディングを──すべての聖女を終わらせた瞬間、その円環は消滅する。


そうなると多分、ここにいるわたしは、たぶんもういなくなってしまう気がするんだけど。


「なんだ? そんなことか?

 そんなものは理由を、見つけてこればいいんだよ」


そうしてあなたは剣を握りしめる。

その剣こそ言語テクストの集積に。

『エリス』『アマネ』『ミオ』『ニケア』『フリーダ』の物語。

そこに『トリエ』が欠落していること、その空白こそが、四番目の言語テクストである。


偽剣ソードレプリカの基本。絶対法則。

 それは──神剣オリジナルに近いものが、より優れた、強いものであるということ」


“剣の出来とは要するに、いかに神剣オリジナルに近いかということになる。

 だから模倣品パスティーシュ劣化品エピゴーネンが戦ったら、力量差など無視して確実に模倣品パスティーシュが勝つ。

 ──ないとは思うが、仮に神剣オリジナルと戦うようなことがあれば、そもそも偽剣ソードレプリカでは敵わないのだよ”


それは昔、6《ゼクス》があなたに教えてこと。

世界観説明であり、この物語で共通して敷かれていたルール。


「ここまでの物語、そのすべての力をいまこのレイヤーにぶつける。

 さて、と。

 俺が培ってきた“虚構”。それを支える“現実”か。

 それが円環構造であるというのなら、その強さは同じだけの強度をもっているはずだ」


あなたは確信をもって言う。

この世界が“虚構”であれ、“現実”であれ──その強さは疑いようがないものであると。

そう信じてきたから、あなたはここまで来れたんだね。


「……そんな大したものじゃない。

 ただまた会いたいって、俺のなかのロイ田中が言ったんだ」


あなたはそう告げる。

ロイ田中。それはあなたであって、あなたでないもの。

物語を通じてあなたは最初に与えられた役割から、違う存在になってみせた。


田中君、と呼ばれたあなたも

8《アハト》、と呼ばれたあなたも

それぞれ、道のりは決して楽なものではなかったはずだ。

つらく、胸に刺さり続けているものもあるだろう。


それでもあなたはここまでやってきてくれた。

わたしとの再会を、単なる結末エンディングにしないでくれた。


「……これは見ようによっては、俺とお前の、二人の物語から始まったのかもしれない。

 二人で共有していた、二人だけの世界と、物語」


そう言って、あなたはゆっくりと剣を振り上げる。


「そのことは否定しない。でも、それで終わったわけでは──ないはずだ」


そうしてあなたは、あなたが積み上げてきた物語けんで切り開いた。








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