238_E~Zエンド(まだあるかも)
……そうして、いくつも、いくつも私は結末を創ってきた。
聖女と和解するものも、
かつて交わった仲間たちがやってくるのもも、
聖女という存在がこの世から消え去るというものも、
この物語 最強の存在たるエル・エリオスタと雌雄を決するというものも、
創り、彼に与えてきた。
それらの結末は、可能な限り幸福にしたものだった。
それは、ここまでの物語を見て思っていたことだった。
このあとに待っているのが、破滅というのはちょっと抵抗がある、と。
もちろん人がたくさん死んだ、血まみれの物語だから、完全無欠の大団円というのはちょっと難しいと思う。
だけど、そのなかで、可能な限り幸福を──救いを与えようとした。
でもそのたびに拒否された。
何度、何度、結末を与えても、それを跳ね除けられてしまう。
ねえ──何が不満なの?
そして、どうしてあなたはそんなことができるの?
わたしは呼びかけた。
ここでないどこかにいるはずの彼に対して、思わず聞いてしまった。
「……一番大事なことを、まだ話していないからだ」
そしたら──答えが返ってきた。
ふふふ。
何でかな?
何で君がこの層にまで来れるのかな。
君はここにいることができる人じゃないよね。
そもそもこの層に気づくことができること自体が、おかしいと思うんだけど。
ねえ、田中君。
あえてそう呼ばせてもらうよ。
わたしの幼馴染にして──わたしだけの主人公さん。
「そうかな? 俺にはここに来るだけの、物語はあったはずだ」
そう言ってあなたは肩をすくめた。
その手には剣が、偽剣が握りしめられている。
まだわたしも見たことのない剣だった。
だから今ここで描写をすると、それは他の剣と違って、誰かを傷つけるためのものではなさそうだった。
奇妙に歪曲した剣身。刃は落とされており、武器ではなく飾ったり──祈ったりするためにでも使われそうな、そんな趣がある。
偽剣『フリーダ』。
六番目に彼が手に入れた、“未来”の聖女の偽剣。
「……未来を見渡すことのできるこの奇蹟。
それで──見たよ。この世界が、どんな形をしているのか。
この層の存在まで」
桜見、弥生。
そう彼は口にした。
そうそれはこの物語の終着点にあるべきもの。
物語の大目標であり、彼が追い求めていたはずのもの。
わたしの名前。
「“はじまり”の聖女が言ったんだ。
何故、俺がここにいたのか。
これだけは、俺自身の物語だって」
だから、ここまでやってきた、ということらしかった。
「聖女の言語。
それはきっと──俺が歩んできた物語を意味する。
そしてそのうち一つは取りこぼしてしまった──だけど、たぶん、それも必要なことだった」
四番目の物語。
それは、ある意味で最も重要な転機だった。
「『ニケア』『ミオ』『フリーダ』『アマネ』『エリス』。
五つの言語と、一つの喪失。
そのすべてをつなげればせ、再会できるかもしれない」
──第四こそ逃しはしましたが、七の奇蹟のうち、五つの言語テクストがあれば大まかな復元は可能と聞いています。
あと一つ、第三聖女を討伐すれば、この百年に起こった奇蹟がなんであったかも、つかめるかもしれない。
……ああ、確かにそんなことも書いたかもしれない。
『フリーダ』との闘いに赴く前に、すでに“東京”を経て、聖女との闘いの意味を喪いつつあった彼を、もう一度動かすために。
「ここに、この層に来れるだけの物語はある。
だから──語ってほしい」
あなたは、わたしをじっと見据えて言った。
ふふふ……まっすぐなまなざしだった、とわたしはあなたのことを描いて見せる
かつてわたしたちはお互いをこんな風に視ていたかな?
たぶん見ていなかった。
どこか気まずいものを抱えていたように思う。
互いの、一番奥のものからは目を背けていた。
「聖女の“はじまり”はニケアにあった。
それで“おわり”は──俺たちにあったんだろう?」
わたしは少し迷った。
何故ならば、その答えにあたるものをわたし自身持っていなかったから
ずっと、ずっと迷ってきたことだった。
ここで、あなたたちのことを見守りながら、どっちなんだろう? と思っていたからだ。
ねえ──田中君。
だから一応、確認のために、わたしもまた問いかけていた。
わたしたちってこの現実に生きているのかな?
それとも“虚構”の存在なの?
と。




