237_C&Dエンド
◇
──え?
◇
『ニケア』のフィジカル・ブラスターは──およそあり得ない、極上の剣として第七聖女を穿った。
眩い光がすべてを穿っていく。
最強にして、一度は世界を救ったその偽剣の輝きは、たとえ最後の聖女であろうとも耐えることはできない。
光の弾幕は弾かれ──そこに一瞬の間隙が生まれる。
「跳びます! リュー!」
その言葉と共にキョウが光の渦へと飛び込んでいく。
光の──霊鳥の翼が碧の幻想に抗うように広げられる。
彼女の瞳に恐怖は視られなかった。
ロイの一撃から──間髪入れての突入。
そしてそこに剣を一閃。
不殺剣『ネヘリス』。
その偽剣はもともとは拷問用の、血塗られた言語を持つものだった。
だがそれを、彼女はそうは読み解かなかった。
彼女はそれを──誰も殺さない、誰も終わらせない、そんな物語として読み解いてきた。
だからこそ、彼女は──何物でもなかったキョウは、ここに至ることができた。
「……ふふ」
誰かが、笑った気がした。
翼で駆け抜けたキョウがゆっくりと振り返った。
その視線の先には──蝶の翅を解き、ゆっくりと落ちていく第七聖女の姿があった。
「まぁ──わたしは敗ける。
そう、それはいい。あとは……」
そう言って彼女は再びベッドへと舞い戻っていく。
どこか満足げな様子で、堕ちていくのだった。
「……あとは」
そしてキョウもまた地上へと下りていく。
その先にいるのは──ロイだ。
偽剣を握りしめ、最後の聖女に向かおうする彼の目の前に、キョウは立ちふさがった。
「……行かせませんよ」
最後の障害です、と彼女は言って笑った。
第七聖女を守るモノとして、キョウはロイに微笑みを浮かべるのだった。
『ネヘリス』と『ニケア』を持った二人は互いに相対する。
しばしの静寂の中、互いに向き合いそして──
「──必要ないよ。もうこういうのは」
そう言った。
「俺はもうキョウとも闘わない。
というか──そうだな、たぶんキョウの方が闘ってくれない。
このままだとおかしいさ。それに──これじゃあ一番大事なことの、決着がつかない」
ロイは少し言葉に迷ったのち、
「この結末も、必要がない」
◇
……どうしてそこで、そんな台詞を口にすることができるの?
わたしは戸惑っていた。
この層にいるのはわたしだけだ。
それゆえもしかすると、わたし自身の手によるものか?
わたし自身、わたしをコントロールできなくなっているのだと。
わたしは息を吸い、吐く。
落ち着け。わたしは確かに迷っている。
だが、ここで終わらせなければならないのだ。
この物語をわたしの手によって終わらせる。
そうしなくてはならない。
わたしという円環を創るために、わたしはこの奇蹟を行使する。
それはつまり、結末を描くということ。
◇
架空神聖領域に、光が迸っていた。
第七聖女の光を切り裂いたのは──紅い閃光だった。
『ニケア』の炸裂も、キョウの剣も弾かれた向こう側からやってきたのは、ひどく見覚えのある顔だ。
「お待たせ」
ニコリと笑って言う彼女は手を振った。
『リヘリオン』の刃は眩い紅に包まれており、聖女の存在感と勝るとも劣らない勢いを誇っていた。
「──私だって、ここに身を連ねていいもだろう?
最終決戦混ぜてくれよ」
背後から切り裂かれ、落とされた第七聖女を見下ろすように、“塔”の奥から現れたカーバンクルはそう不敵に割るのだった。
ばさばさと舞うカソックは──颯爽としていて、美しかった。
「────」
そんな彼女に対して、ロイはじっと見据えた。
そして言った。
彼は──あまりにも場違いな苦笑を浮かべながら、
「……やっぱおかしいよ、これも。
あの人は──言っちゃあなんだけど、もう少し弱い人なんだ。
腕が、じゃない。
颯爽としていて、カッコイイ人だけど。
こういう場にはそぐわない」
だから、おかしいよ、とまたも彼は、ここでないどこかに語りかけるのだった。
◇
いまはっきりと分かった。
わたしではない、あなたが、このわたしの与える結末を、拒否しているのだと。
この物質層と想念層の狭間に、あなたはアクセスしてきている。
でも、何故?
何故そんなことができるんだっけ?
わたしはまだ納得はできていなかった。
だから結末を書き続ける。
おかしいとあなたが拒否しようとも、幾多もの“虚構”を形作って見せる。




