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虚構転生//  作者: ゼップ
“無題最終章”
234/243

233_第七聖女アル・エリオスタ






わたしはここにいる。

ここであなたを待っていた。

今までずっと、ずっとこの最終章おわりから、あなたのことを見続けていた。


正直途中、もうだめかと思ったところもあった。

あなたかわたし、どちらかが折れてしまい、ここまで来れないのではないかと──不安だった。


でも、来てくれた。


1章の“犠牲”も、

2章の“理想”も、

3章の“堕落”も、

4章の“正義”も、

5章の“希望”も、

6章の“未来”も、


わたしが創り上げてきたすべての“虚構”を踏みしめて、あなたはやってきた。

そのことを、わたしはとても感謝している。


あとはそう──わたし自身の出番だ。






「……“虚構”の第七聖女、アル・エリオスタ」


純白の楽園、架空神聖領域をロイ、キョウ、四季姫の三人は進んでいた。


「奴が普段何をし、何を想い、何を視ているのか。

 それは私にもわからない。

 この楽園は基本的に、一部の者しか出入りできないし、中央──頂上に至ってはエル・エリオスタぐらいしか入れない」


花が舞い、水の音が聞こえる。そんな白い世界が、続いている。

“塔”の最上層に築かれたこの楽園は、なだらかな段差ができており、中央に行けばいくほど自然と高い階層に行くようになっている。

いくつもの壁や幾何学的な建築物が並んでいるせいで、全貌を把握しづらいが、ふと見上げれば、空へと伸びた円柱型のオブジェが見える・

打ち込まれた杭のように見えるそれこそ──この“塔”の中心、最後の聖女が待つ舞台だろう。


「……なるほど、でも、今までの聖女様も、こういう変なとこに住んでる人多かったですし、そういうセンスは一緒なんですね」

「うむ、まぁ。変な奇蹟を身に持つと自然とこうなるのだろう。

 私はまともなので、普通に暖かくてふかふかのベッドがあればそれでいいが」


何故か四季姫は誇らしげに言う。

それこそ今の状況がそうだろうし、実際彼女が守ろうとしているのは権力というより、そうした安寧なのかもしれない。

願わくば、これからの時代は──簡単にそうしたものが手に入るといい。


「奇蹟は?」

「うん?」

「第七聖女の奇蹟──“虚構”とか言われていたが、どういう奇蹟なんだ?」


ロイは問いかける。この作戦の決行前にも、同じ質問を聴いていたことがあった。

なのでそれはあくまで確認のようなものだった。

以前よりも四季姫と距離が近くなった(ような気がする)からこその再確認だ。


「私にもわからん!」


だがやはり、四季姫はそう答えた。


「第七聖女に関する資料は最高機密とされている。

 権力だけはピカイチな私でも見ることができん。 

 研究がされていない訳がないんだが──うむ、私があまりにもお飾りだからな」

「そんなに自分を卑下しないでください、四季姫さん!」

「卑下などしとらん。私はむしろずっとお飾りでいたいんだから」


四季姫はむすっと返す。

気の抜けたやり取りであった。

これから一応──すべてを賭けた決戦に赴くというのに。


「……第七聖女のことは、それでも調べはしたじ。

 今代の第七聖女──アル・エリオスタの前の“虚構”の聖女までさかのぼれば、流石にガードも甘くなっていた。

 とはいえそれも要領を得なくてな」


悩ましい、と漏らしながら四季姫は言う。


「一つあるのは──竜を創った、という話だ」

「竜……ですか?」


キョウが目を丸くして尋ねた。

竜。それはこの世界においてさえ──すでに滅び去り、おとぎ話にしか登場しない存在である。


「そう、竜だ。

 この現実に存在するはずのない竜を、でっち上げ、創り上げてみせた、という記録がある」

「……それって竜なんですか? 魔術師さんなら、それっぽいものをなんかできちゃいそうですけど」


四季姫の言葉に、キョウは今一つぴんと来ていないようだった。

とはいえロイの脳裏には──竜が実像をもって浮かんでいた。


炎と海。

一つの転機となったあの舞台で、ロイは竜と遭遇している。

あの海で確かに見たあの竜は、確かにこの“現実”の存在であった。

この世界に本来いないはずであった。しかし、存在していた。


もしかすると、あれこそが──


「さて、な。

 何を持ってそれが真なる竜、真なる“虚構”であるとするのか、私にはまるでわからん。

 とはいえ、そういう意味であの聖女の奇蹟は、何かを創ることなのかもしれん」

「……第六聖女にも似ているのかもな」

「うん?」


ロイはさまざまな想いを胸にしまいながら、言葉を口にした。


「この現実と引き換えに、新たなにモノを創り出し、それを真なるものとしてしまう。

 “犠牲”の第六聖女はそういう類の奇蹟だった」


次に脳裏に浮かんできたのは、彼が初めて遭遇した奇蹟。

あのさかしまに浮かぶ城のことを思い起こしながら、ロイは彼なりの分析を口にする。


「……四季姫様。たぶんその予想は正しい。

 この現実に存在しない虚構フィクションを創り出す奇蹟」


次に“はじまり”の聖女ニケアの言葉が思い起こされる。


──ただ、この奇蹟が、どこから降って湧いたものなのか、それだけはわからなかった。


「第七聖女──“おわり”の聖女はそういうものでないと、辻褄が合わない」


彼女は確かにすべての“はじまり”であった訳だが、一つ、彼女が知りえないことがあった。


「流石は“聖女狩り”の英雄。

 七回目となると、含蓄深い意見が聞けたな」


四季姫がふふっと笑って言った。

吊られてロイもまた笑う。これまでの闘い、聖女のことが先ほどから思い起こされる。

これまで遭遇した六つの奇蹟。

きっとそのどれが欠けても、ここにはたどり着けなっただろう。


「頼もしい。頼もしいよ……まぁ、私の味方として、せいぜい頑張ってほしい」

「ああ」


そう四季姫と言葉を交わして進みつつ、ロイはふと思い立ち、キョウに語り掛けた。


「……一応、言っておく。

 無理に来る必要はないぞ」

「まぁ、そうですね」


えらく素直に、キョウは頷いた。


「たぶん私がいなくとも──ロイ君ならもう大丈夫だと思っていますよ」

「…………」

「なので、私は今回、四季姫様のためにいます!

 放っておくと死にそうなので!」


キョウはそこで微笑みを浮かべ、先に行ってしまった。

もう大丈夫、か。

ロイはしばらく何と言ったものか戸惑ったが、しかし、その場では結局何も言わなかった。








──それから、しばらくして。


三人は“塔”の最上層、楽園の中心へとたどり着いていた。


そしてそこにあったのは白いベッド、世界を一望できる窓、そして……


「…………」


……碧色の瞳を持った、最後の聖女。

その名は、アル・エリオスタであるはずだった。





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