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虚構転生//  作者: ゼップ
“無題最終章”
224/243

223_舞い散る桜のなかで②


「10《ツェーン》! お前……!」


カーバンクルは声を震わせ、佇む10《ツェーン》へと詰問した。


「アーノルドを、使ったのか?

 ただ私たちだけを殺すために」

「ああ、そうだよ! そのために稼働させたさ!

 奴こそ秩序ができれば無用の存在。せめて最後に役目を果たせてやろうと思ったなんだ」


10《ツェーン》はそこでけたけたと哄笑してみせた。

その精神の不均衡をにじませた笑い声に、ロイの胸が軋みを上げていた。

彼女をここまで追い込んだ理由は、ほかでもない、ロイ田中という存在そのものなのだ。


だがそんなロイの葛藤など、10《ツェーン》はかえりみはしない。

目を見開き、カーバンクルに対し敵意のにじんだ叫びをあげる


「喜べ! お前の放置してきた過去を、目を背けてきた因縁を、私がここまで持ってきてやったんだ。

 何もできないお前の代わりに、この私が!」

「……バカが、不愉快だ」


カーバンクルは感情を押し殺した声を漏らした。

と、同時にカーバンクルはまた跳躍ステップ

ロイと剣を交える11《エルフ》の背後に跳んだ彼女は、迷わずその背中に剣を突き立てようとする。


だが11《エルフ》はそれになんなく反応。

巨大な、刀身のねじ曲がった異様な偽剣ソードレプリカを振り払い、ロイとカーバンクル、二人の剣を力づく押しのけて見せた。


「zm@oituwo@h[ib

]j@oyt@

asbs

sjibv0wt

i9tbw-95

s@o0ibjw09t5

mvaopbv

mivrpwj9vs[」


そのさなか、11《エルフ》の口元から奇怪な声が漏れ出していた。

それは決して意味のある言葉ではなかった。


その無秩序で混沌とした音は、間違いなく異形バアバロイのそれだった。


「アーノルド。アーノルド・龍……かつて“十一席”を創り上げた、最初の1《アイン》」


10《ツェーン》と11《エルフ》。

最後の聖女へたどり着く前に、二つの脅威が待ち構えていた。

どうやらこの二つの凶刃を退けなければならないようだった。


「その名を持つ魔術師が、私を創ったんだ。

 前に、話したわね」

「ああ、だが、もう──その人は」

「そう、アーノルドは死んだ。聖女との闘いの中で、奴は命を落としている」


ロイとカーバンクルは互いに背中を合わせ、言葉を交わしていた。

背中越しに互いの体温が伝わってくる。目の前の因縁に対する昂ぶりと、ほんの少しの恐怖を、二人は今共有していた。


「それは間違いないさ。

 だから、あそこにいるのは、彼、ではなく、あれ、なのさ。

 そう──そういうことなんだ」


11《エルフ》。

そう呼ばれるべき存在を、“十一席”の誰もが人間として扱おうとしなかった。

その理由は単純で──本当に人間ラングではないからだった。


「……訳あってね。アーノルドは、“果て”に還ることなく、あんな風になっている」

「そうか──アンタにとっては、無視できないものか」

「そう、あれは私が残した因縁だ。

 10《ツェーン》が言う通り、私が無視して、そのまま終わらせようとしたものだ。

 可能なら、忘れたまま生きていってしまいたかった。

 残念ながら、そう都合よくはいかなかったが」


そう言葉を交わしながら、ロイは目の前にやってきた10《ツェーン》と相対する。

苛烈な想いの炎を纏う彼女は、決してロイを逃がしはしないだろう。

彼女の物語において、ロイという存在は、それほどまでに大きなものを占めている。


そしてきっと、カーバンクルにとってのアーノルドもまた──


「どうやら、最後に行く前に、こいつらを片付けなければならないみたいね」


カーバンクルは自嘲的な、しかし決然とした口調で言ってのけた。

彼女らしからぬ──前向きな色が、その言葉からは感じられた。


「ああ、俺も──いろいろと言いたいことがある」


剣を強く握りしめる。

10《ツェーン》。

薄紅色の髪と瞳を持つ、少女。

その本当の名を、ロイは知っていて、だが呼ぶことができないでいた。

だから、ここまで来てしまったのだろう。


「やれやれ、お互い面倒な過去を持ってしまったものね」

「いいさ。そうでなくては、出会えなかった」

「ふん、まぁ、そうね──」


そこでカーバンクルはふっと笑い、ロイの前へと跳んでみせた。


そして──そっと唇で、触れ合った。


「────」


その瞬間、軋みを上げていたロイの胸の奥に、穏やかなものが広がっていった。

安堵に似た、だが、もっと強い力を感じさせる感情だった。


「──だから、また全部終えて、また会おうじゃないか。

 私は一緒に生きたいのよ、君よ」


それは瞬きすらできないほど、短い間に出来事だった。

アカい瞳は閃光のように現れ、重なり、気が付けばすでに去っていた。

彼女に残された、最後の因縁と決着をつけるために。


「……俺も、生きたいよ」


屈託のない微笑みを浮かべて、ロイは顔を上げ、剣を握りしめた。

絶対にまた会おう。そう心に刻み込みながら。




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