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虚構転生//  作者: ゼップ
“無題最終章”
222/243

221_10~愛しながらの戦い~


架空神聖領域。

その名をつけられた“冬”の塔、最上層は美しく、穏やかな庭園であった。


純白の壁、純白の床、純白の彫像……そして、流れ落ちる水のせせらぎ。

白い色彩で塗り固めれた庭園の中央には、凝った装飾が施されてた噴水が据えられ、その周りを取り囲むように木々が立っている。

澄んだ空の下、薄紅色の花が静かに待っていた。


その花の正しい名前を、ロイは知らなかった。

だが、その淡く儚く、それでいて鮮烈な色彩を見ると、自然と郷愁が湧いてくるのだった。

まるで桜のようだ、と。


「この場所、この贅をつくした楽園パラダイスこそ、第七聖女が幽閉されている聖域」


降り立った四季姫は辺りを見渡し、ひどく平坦な口調で言った。


「広く、そして静かな場所ね。

 こんなところに一人でいるのか。第七聖女は」

「さぁ? アレが普段何をしているかなど、下手したら父たるエル・エリオスタ殿すら知らないだろうよ」


カーバンクルが周りを見渡しながら言うと、四季姫はため息を吐いていった。

彼女の同行について、四季姫は何も口をはさみはしなかった。

彼女自身、諦めていたのかもしれなかった。

もはや事態は、なるようにしかならないのだと。


「……この奥にいるんだろう?」

「ああ、そのはずだよ。最後の聖女、アル・エリオスタはここから出ることはないからな」

「そうか、じゃあとにかく今のうちに進むべきだろうな」


……今、現在“教会”の目線は、聖女軍との和睦へと向いている。

マルガリーテ・グランウィングが聖女軍を代表して乗り込んでいる今、この聖域を注意するものはいない。

父たるエル・エリオスタが、こちらへやってくることもない今こそ、聖女と接触する絶好の機会だった。

裏を返せば、このような動きをこそこそとしないといけないほど、四季姫の立場は揺らいでいるといえるのかもしれない。


「とにかく案内を頼む。

 俺たちはこの場所のことを、何も──」


知らない、とそう言おうと思った瞬間だった。


彼は見つけてしまった。

舞い散る花の向こう側に、誰かが立っていることを。


その瞬間、彼は声を喪っていた。


それは──何時か見た顔だった。

そのどこか投げやりで、疲れたようで、だけど精一杯微笑もうとしている表情。

昔からその顔を見てきたのだ。

だからこそ■■たいと思ったのだし、ここまでやってくることができた。

大切な、大切な──幼馴染の顔。


「────」


ロイは思わず、その名を呼ぼうとした。


だが、しかし、自分の心の中の何かがそれを阻害した。

それは力強く、ロイの中で暴れ出し、苦しみと共感の色を交錯させながらも、その名を呼ぶことを押しとどめたのだ。


「アイツ……!」


隣で同じように気づいたカーバンクルが、驚いたような顔を見せた。


そして、向こうもまた、こちらに気づいていた。


「──来るぞ! ロイ君、アイツは」


その言葉を聞かずとも、彼はわかっていた。

だからこそ偽剣ソードレプリカを抜いていた。そして向こうもまた──猛然と駆け抜けてきた。

先ほど見せた懐かしい表情は消え去り、ロイが知る彼女のものへと既に切り替わっていた。


そうして二人の剣は交錯するのだった。

甲高い音が、穏やかな楽園に響き渡った。


「──10《ツェーン》」


剣身ブレイドごしに、その薄紅色の瞳を見据え、ロイはそう口にしていた。







何故彼女がここにいるのか、本当は理由を描く必要があるのかもしれなかった。


さて、どうしようか。

エル・エリオスタに言われていたから、にしようか。

四季姫の行動が、どこかしらから漏れていたから。

それか──あの娘が関わっていることにした方がいいかもしれない。


そのどれがいいだろうか。

わたしにはそれを選ぶ力と、権利、そして義務がある。


──だが、と思う。


彼女がここにいる理由など、本質的にはどうでもいい要素に過ぎないだろう。

どのようなものであれ、彼女がここに居合わせるに足る、物語を持っていたはずだから。


物語さえあれば、理屈は、あとからついてくるものだ。


わたしはその物語──彼女がどうしてここに来ようとしたのか、その動機へ干渉する権利を持たない。

彼女の想い、心を捻じ曲げることは、わたしにだって許されないだろう。

そんなことをすれば、ほかでもないわたし自身が、わたしを許さない。


10《ツェーン》。

その薄紅色の少女は、人斬魔ブレードハッピーの幼馴染のために、こんな場所まで来ることになった。

その物語を持つがゆえに、彼女はここで、ロイ君を待ち構えていなくてはならない。






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