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虚構転生//  作者: ゼップ
“無題最終章”
218/243

217_わたしのための物語




……さて、と。


わたしはそこで、しばらく手が止まっていた。


七人の聖女たちと、わたしのよく知る主人公の物語。

それなりに長いこと書き続けてきた物語も、気が付けば、もう最終章を迎えようとしていた。


長かったような、意外とあっという間だったような。

不思議な時間だったと思う。

それに楽しい時間だったか、と問われてると言葉に詰まってしまうところもある。

話を考えている間は、文句なしに楽しくて、幸せなんだけど、実際に書き始めるとなぜかつらいものなんだ。


それに最初のプロットからは、随分と変わってしまった。

考えていた展開が思いのほかあっさりと終わってしまったり、途中でいいこと思いついた! とまったく違う要素を放り込んでみたり。

あと、登場人物たちが、頑張ってくれたから、死ぬはずだった人が、そのまま生き残ってくれたりもした。


それに最初はもっと暗く、陰鬱な物語のつもりだった。


荒廃した時代に、七人の聖女を殺して回る、血まみれの物語。

その骨子自体は、貫徹していたつもりなんだけど、だけど、後に向かうにつれ、物語の色が少しずつ変わっていった。

もちろん明るい話というわけにはいかないんだけど……。



だからわたしは手が止まっていた。

最初のプロットを見直すと、ここからさらなる苦難が待っているはずだった。

多くの人が死ぬ。血が流れ、悲鳴と混沌が押し寄せてくる。

そんなことを考えていた。


でも、なんだろう。

ほんとうにそれでいいのかな?

そう、わたしは思っていた。


ほかでもない、彼らの頑張りを見ていると、わたしはどうにも、そうした空気は、この物語にそぐわないように思えるのだ。


それはもしかすると親心というものなのだろうか?

わたしは創造者であり、彼らは被創造者だ。

言ってしまえば、わたしは彼らにとっての太母グレートマザーのようなものだ。

わたしというゆりかごの中で、彼らはずっと生きてきた。


そう思うと、彼らに手を差し伸べてしまうことは、むしろイケナイことのような気がする。

その理由は、わたしが今まで書いてきた物語、それそのものだ。


そんなことを考えていたら、わたしは手が止まってしまっていた。


これはわたしの物語のはずだった。

わたしが思うこと、やりたいことをぶつけるための、物語。


だからわたしの都合ですべてを決めていいはずだった。


だけど、わたしは──わたしはそれが嫌だと考えている。

わたしはこの物語へ“終わり”を与えることに、少しだけ迷い始めていた。




(無題最終章)





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