217_わたしのための物語
……さて、と。
わたしはそこで、しばらく手が止まっていた。
七人の聖女たちと、わたしのよく知る主人公の物語。
それなりに長いこと書き続けてきた物語も、気が付けば、もう最終章を迎えようとしていた。
長かったような、意外とあっという間だったような。
不思議な時間だったと思う。
それに楽しい時間だったか、と問われてると言葉に詰まってしまうところもある。
話を考えている間は、文句なしに楽しくて、幸せなんだけど、実際に書き始めるとなぜかつらいものなんだ。
それに最初のプロットからは、随分と変わってしまった。
考えていた展開が思いのほかあっさりと終わってしまったり、途中でいいこと思いついた! とまったく違う要素を放り込んでみたり。
あと、登場人物たちが、頑張ってくれたから、死ぬはずだった人が、そのまま生き残ってくれたりもした。
それに最初はもっと暗く、陰鬱な物語のつもりだった。
荒廃した時代に、七人の聖女を殺して回る、血まみれの物語。
その骨子自体は、貫徹していたつもりなんだけど、だけど、後に向かうにつれ、物語の色が少しずつ変わっていった。
もちろん明るい話というわけにはいかないんだけど……。
だからわたしは手が止まっていた。
最初のプロットを見直すと、ここからさらなる苦難が待っているはずだった。
多くの人が死ぬ。血が流れ、悲鳴と混沌が押し寄せてくる。
そんなことを考えていた。
でも、なんだろう。
ほんとうにそれでいいのかな?
そう、わたしは思っていた。
ほかでもない、彼らの頑張りを見ていると、わたしはどうにも、そうした空気は、この物語にそぐわないように思えるのだ。
それはもしかすると親心というものなのだろうか?
わたしは創造者であり、彼らは被創造者だ。
言ってしまえば、わたしは彼らにとっての太母のようなものだ。
わたしというゆりかごの中で、彼らはずっと生きてきた。
そう思うと、彼らに手を差し伸べてしまうことは、むしろイケナイことのような気がする。
その理由は、わたしが今まで書いてきた物語、それそのものだ。
そんなことを考えていたら、わたしは手が止まってしまっていた。
これはわたしの物語のはずだった。
わたしが思うこと、やりたいことをぶつけるための、物語。
だからわたしの都合ですべてを決めていいはずだった。
だけど、わたしは──わたしはそれが嫌だと考えている。
わたしはこの物語へ“終わり”を与えることに、少しだけ迷い始めていた。
(無題最終章)
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