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虚構転生//  作者: ゼップ
きっと救われる物語の奴隷たち
216/243

215_1~紅い瞳~


【27】



【再び、メインキャラ勢ぞろい】


【エピローグ】



「……私に生きていてほしい、か。

 私の、生きる意味を奪っといて、よく言うよ」


カーバンクルはどこか力の抜けた口調で言った。


「私、なんだか疲れちゃったし、そもそも何時死ぬかわからんような存在なんだし、サクッとここで死んじゃダメか?」


そしてそんなことまで言う。


──何時死ぬかわからない存在、か。


あまり触れてこなかった、カーバンクルはその特異な誕生の仕方故、純正な人間ラングとも言い難い存在なのだという。

何しろ街一つ分の存在を凝縮した存在だ。

カタチこそ同じであっても、在り方が違うのはあり得そうな話だった。


とはいえ──こうして語り合う分には変わりない。

そう思ったからこそ、ロイは同じ目線で、同じく楽し気な口調で語り返す。


「ダメだ」

「うん?」

「俺にメリットがないからダメだ」


と。

何時かどこか突き放すように言われたときの言葉を、ロイはそのまま返していた。


「……くくく」


そう告げると──彼女は突然笑い出した。

その様子は、普段通りに、不真面目で、底知れなくて、楽し気な──何時ものアカ・カーバンクルアイだった。


「いやはや、まさか。あの時のやり取りの意趣返しとはね」

「……覚えてたのか」

「忘れるものかい。私にとっても、アレの後輩ができたのはアレが初めてなんだぜ」


アレ、というのは“転生”のことだろう。

確かにこの世界、この時代においてさえ禁忌とされているような術だ。

いかにカーバンクルが長命だったとはいえ、そうそう見かけるものではないのかもしれない。


「……実際のところ、どうなんだ」


ロイは逡巡した末に、問いかけていた。


「アンタは──本当に死にたがっていたのか?」


第三聖女の言葉はすべて真実である。

すべてを見通していた彼女が言うのだから、それは間違いではない。

そうわかっていた。わかっていても問わなくてはならなかった。


「うん、どうだろうね。マジだったような、別にそうでもなかったような」


そして返ってきた答えは、何とも煮え切れらないものだった。


「……あの聖女、今回は私に向けてわざわざ“フリーダ”なんて名乗ってるんだぜ。

 そんなの挑発以外に何でもないだろう。絶対に死んでやろうと思った」


冗談めかした口調でそんなことを言う。


「まぁ……でも、執着があったのは本当だよ。

 私が──あのバカなアーノルドについて回ってた頃は、本気で探してた」


アーノルド。

それはロイが初めて聞く名前だったが、きっとそれは──かつての1《アイン》なのだろう。

カーバンクルが、憎しみと執着と、未練を込めて“お父様”と呼んでいた存在。


「だけど、あの人があんなことになって、私が“十一席”に座るようになって、セドリックやハイネ、それに君に会った。

 まぁその、なんだ、問題児も多くて、そっちに頭が行っていたのも事実だよ」


……それは、肯定でも、否定でもない言葉だった。


きっとカーバンクルが死のうと、ここで終わろうと思っていたのは事実なのだろう。

落ち着いて、目を背けていた、しかしそれでも彼女自身の出自を思えば、決して無視できない因縁があった。


だが、と思う。

それがすべてでもないのだろう、と。

実際、彼女に与えられた“フリーダ”という名前は、彼女がかつて生きるためには必要だったに違いない。

だが今となっては、彼女はもう、そんなものを知らずとも──生きていける。

そう思ってくれたと、ロイは信じていた。


「……“転生”したから、だけじゃないさ」


だからこそ、ロイはもう一言、言っておこうと思った。


「俺は、“転生”する前の記憶も結構濃い。

 だからはっきりと断言できるが、人間、そうそうまっすぐには生きていけないさ。

 絶対にやらない、と思ったことでも、気づけば手に染めてしまっていることだってある。

 その……逆もね」


彼の脳裏には、かつて守ってしまった“現実”が浮かんでいた。


「だからまぁ、ぐちゃぐちゃだったり、ブレブレだったりも、まぁ、許されるさ」

「……よく言うぜ。私より何歳年下なんだ、君は」

「アンタだって、今のアンタになってから、そんな時間も経ってないだろう?」


そう言って二人はなんとなしに笑った。

同じ雨と血を浴びながら、もう少し、この関係が続くことを意識しながら。


「あのー」


……そこに割り込んでくる、不機嫌そうな声があった。


「私の腕につかまりながら、まるっきり無視するってどういうことですか!」

「ああ、ごめんよ。どうやら彼は私にゾッコンみたいで」

「カーバンクルさんがロイ君にゾッコンの間違いじゃないですか!」

「ああ、そうかも。そうそう、だからちょっと黙ってて」

「厭です! 私、なんだか今回よくわかんないまま全部終わっちゃったんですから」


そう怒りながらも、キョウはロイたちを運んでくれる。

えらい不機嫌だが、彼女の性格上、間違っても二人を落とすことはないだろう。


聖女については──彼女も触れていなかった。

彼女も、もう理解しているのかもしれなかった。

聖女という存在について、人間とは根本的に在りようが違うのだということを。


聖女にとって死とは──果たして何を意味するのだろうか。


「あ! マリオンさん! 待ってくださーい! ちょっとまだ話したいんですから」


と、そのさなかキョウが声を張り上げる。

その先には華奢な体つきをした、中性的な外観の人間ラングが立っている。

その隣にはこの劇場のものと思しき人形が寄り添っており、彼ないし彼女はそれをいとおし気に撫でていた。


「……そういえば、さっき、あの階段で君たち闘ってなかったか?」

「もう味方になりました!」

「さすがだね……まったく」


呆れたようにカーバンクルが言う。

同時に遠くで、マリオンと呼ばれた彼ないし彼女は、大きく手を振っているのが見えた。




……糸繰人形劇場マリオネット・ステージは、そうして半壊してみせた。

だが、ここに刻まれた言語テクストはいまだに健在だった。

きっと人形たちは勝手にまた動きだし、この劇場の修復を始めるだろう。


この分では劇場は当初予定していた計画通りにはまず完成しない。

永遠に未完成となるかもしれないが──それでも人形は動くはずだ。


人形に意志があるのならば、それを苦しみというだろうか、それとも──





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