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虚構転生//  作者: ゼップ
きっと救われる物語の奴隷たち
210/243

209_クライマックス③


【20】


【引き続き】


【予定調和】



偽剣ソードレプリカ『アルマイナー』。

すでに組まれた言語テクストに干渉する特異な機構を備えた騎体であり、その運用方法も非常に特殊だった。


設置された魔術を通常想定されていない手段で解くことが可能であるだけでも、その有用性は計り知れないが、しかし結局使用者が相応の知識を持った魔術師エンジニアでないといけないなど、実際の運用面では疑問が残る性質もあった。

遺跡のような既に構成が判明している場所ならいざ知らず、定期的に言語テクストの更新がされるような拠点では、意味をなさないのだ。


それ故に、もう一つの使い方──人間ラングへの直接的な干渉の方を、マリオンは得意としていた。


「この世界のすべては言語テクストでできている。

 言語テクストによって語られた法則に従い、幻想がカタチをなし、すべては成り立っている。

 人形だって、人間だって、全部ね!」


マリオンは語ると同時に人形が揺らめいた。

復讐の物語の主人公で会ったはずの人形は、今ではその面影もない。

ゆらゆら、映らな瞳で踊り続けている。


「──ボクにはわかる、そうして、全部うまくまとめてきたんだから。

 ぐちゃぐちゃになった案件も、感情が意味不明なことになってた対立も」


マリオンはそうして甲高い声で笑う。

そう、彼ないし彼女が引っ張りだされるのは、既に失敗してしまった状況を強引にまとめることができたからだ。

事態の中核である者たちに接触し、『アルマイナー』で改変する。


「……洗脳、それが貴方の力なんですね」

「違うよ! そんなんじゃない。

 洗脳するならもっと丁寧に上書きする必要があるでしょ。

 ボクはそもそもの在り方を、変えてしまうんだ!

 それぞれの個性キャラクタを、ずらしちゃう」


階段の上でマリオンは語っている。

それをキョウは警戒の面持ちで眺めていた。

『アルマイナー』の形状自体は使いづらいであろう小型のもの。

だがマリオンはそれに加えて、特注の武装と思しきあの糸と、作り替えた人形がそばにいる。


そして事の中心にいるはずの聖女フリーダの方は、さして興味なさげに二人の争いを眺めている。

マリオンも、聖女自身にはほとんど警戒を払っていなかった。

その結果、キョウ一人が、ほかすべてを相手にしているような、そんな錯覚に陥る構図だった。」


──でも、慣れてます。こういうの。


キョウは下唇を噛む。踏ん張りどころだ。

霊鳥のリューがいなくなって、すでに相当な時間が経った。

だから、もう、慣れているのだ。


「君みたいに個性キャラクタがわかりやすい人を味方にするのは簡単だ。

 不殺剣士。

 その根本をずらしてやると、全部訳が分からなくなって、ボクの味方になってくれる」

「……それが」


キョウは静かな口調で言った。


「それが、貴方がずっと一人だった理由なんですね。

 貴方が言っていた。ずっと一人で闘ってきたってこと」


ギルドメンバーがマリオンと組みたがらなかった理由に、キョウは合点が行っていた。


「──そう、みんな、嫌がるんだ。

 ボクに何かされるんじゃないか。

 あ、いや、違うか──たぶん……自信がなくなるんだろうね」


告げると、マリオンは少しだけ声のトーンを落として、


「ボクと少しでも一緒にいると、今の自分がほんとうの自分なのか、わからなくなるんだろうね。

 ボクに勝手にいじられ、創られたものでないか、判別できなくなる。

 ── ボク、仕事柄こういう裏切り多いからなぁ……よく言われるんだ。会った瞬間から、裏切りそうって」

「正直、私も思ってました」

「え! ひどい! 君って、純粋にいろんな人の話を聞くキャラじゃなかったの!?」


違います、とキョウ目線で伝えた。

ほんの少ししかいなかっただけで、勝手に判断しないでほしい。


「……来る。私の、物語が」


その瞬間、それまで黙っていたフリーダが声を上げていた。

キョウはぴくりと眉を動かした。

フリーダはのっそりと緩慢な動きで天を仰いだかと思うと──光の翅を広げていた。


──それは、ニケアが見せた翅と酷似していた。


空駆ける翼ではない。

ありとあらゆる色彩が溶け込んだ虹色を湛えた、蝶の翅。

高濃度の幻想によって形成された翅を広げ、聖女フリーダは上層へと昇っていく。

その先には──この糸繰人形劇場マリオネット・ステージにおける、最大の劇場が待っているのだという。


と、そこでダダッ、と跳躍ステップの音が聞こえた。


キョウのものでも、マリオンのものでもない。

二人は互いへの警戒を見せつつ、やってきた音へと意識を傾けていた。


「──ロイ君」


剣の仮面を被った、二人の異端審問官。

ロイとカーバンクル。

二人はキョウとマリオンをすり抜けるように駆けていった。

異端審問官として、聖女を追うために。


二人は当然、キョウたちに反応を見せていた。

だが足を止めるということはなかった──どうせ追いつかれる、とでも思っていたのかもしれなかった。

お互い付き合いが長いのだ。互いにどう動くかはなんとなく読めるはず。


「さて、さて、行っちゃったね」


マリオンは口端を釣り上げながら言った。


「どうする? ボクたちも一時休戦にしない?

 君あの異端審問官を止めたいんでしょ?

 なら協力するよ。だからボクの味方になって──」

「いえ」


キョウは首を振った。


「どうやら私がここで向き合うべき人は、あの人たちじゃないみたいです」

「え?」


そこでキョウは不殺の剣『ネヘリス』を向けた。

他でもない人形遣いのマリオンへ。


「さっき、聖女様は言いました。

 ここで、私が救うことができる人が、一人だけいるって」


そして、少しだけ寂しそうに微笑みながら


「──たぶん、それ、貴方なんです、マリオンさん」




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