表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虚構転生//  作者: ゼップ
きっと救われる物語の奴隷たち
206/243

205_ネタバレ④


【17】



【ネタバレを終えて】


【ロイと聖女】




「……アカ・カーバンクルアイについての情報の開示。

 ここであなたは知る。

 今まで、当たりのように隣にいてくれた、あの紅い人について」


ほの暗い図書館の中、第三聖女フリーダは、語り終えた。

アカ・カーバンクルアイがいかにして生まれ、何のために闘ってきたかを。

それは果たして、本当に“未来”のことなのか。


彼女が“転生”して生まれたということも、

その存在が、異端審問官の設立の切っ掛けになったということも、

ロイの知らない事実を、聖女は当たり前のように語ったのだった。


未来を断片のように細切れにして、過去形でこの聖女は語った。


「……どれも、俺にはわからないことだ。

 悲劇だとか、復讐だとか、そういう背景バックボーンをあの人は俺の前では、特に語らなかった」

「そしてあなたはそれを気にしようともしなかった」


聖女は言葉を続ける。


「一方であの人もまた、貴方の抱えていたもの──桜見弥生との再会──について、さして気にも止めていなかった。

 もともと貴方とあの人は、何の因縁も繋がりもない人」

「勝手に言うがいいさ。

 それなりにもう、長い付き合いになるんだ。

 同じ血と雨を浴びた仲なんだぜ」


ロイは落ち着いた口調で言った。

カーバンクルアイについての事柄については、衝撃を受けていないといえば嘘になる。

しかし同時に納得もしていた。

あの時、8《アハト》として“転生”したロイに、彼女が何故手を差し伸べてくれたのかを。


「俺とあの人の背景には何も繋がりはない。

 それ故に、こう返してみせるさ──だから、何だ? と」

「そう、そういう、考えもある……だから、私はさらにこれを告げなくてはならない」


聖女はそこまで、笑みに似たぎこちない顔を浮かべた。


「貴方は、この物語をあなた自身の物語だと思っている。

 だけど、見ようによっては、あのアカ・カーバンクルアイの復讐譚でもあった。

 その場合、あなたはただの剣に過ぎない」

「それがどうした!」


ニケアの顔が思い浮かぶ。

互いに利用し合う舞台装置。あの花畑で告げられた言葉。

──そんなことは、もう言われるまでもなくわかっている。


「あの人も、あなたの物語の共通点は一点。

 私を、聖女を皆殺しにすること。

 それだけは、完遂されなければ、ならない。

 貴方だってそのつもりでしょう?」

「……さぁね。それ以外の方法をとれるらしいね、もう」


七の聖女のうち、五の言語テクストを接合すれば、弥生へと繋がることが可能かもしれない。

その可能性が提示されている今、この聖女を殺すことはもはや必定ではない。


「それはできない。

 貴方はもう、私を殺すという物語を見せてしまっている。

 そうである以上、あなたはいかなる方法をとってもあの結末エンディングに行きつくだろう」

「だったら、ここで!」

「そのための動機も、今ここで私が与える……」


聖女はそこでわずかに間を創り、ロイを見た。

碧の瞳がロイを見据える。深く深く澄んだその瞳にはロイが映っているはずだった。

だが、本当にそうか?

この聖女が視ているものは、この“現実”でなく、もっと遠い──


「アカ・カーバンクルアイは、私を殺して、それで死ぬつもり」

「……何?」

「あらゆる自我が混ざり合い、人形と化していた彼女が、どうして今のような人間になれたのか。

 反発していた意識は、どうして曲がりになりにも一つの像を結んだのか。

 それは──彼女の中のもの、そのすべてが、一つの想いを抱いていたから」


──もう、“終わり”にしてしまいたい。


「彼女の中の、すべてが次第にその想いの下に統一されていった。

 そこからが、彼女の狂乱は引いていき──彼女が、アカ・カーバンクルアイという個性キャラクタが生まれた。

 悲劇をを定するために生まれた彼女は、その想いの下で、ずっと闘い続けてきた」

「“終わり”にするということは、すべての聖女を殺しつくすということだろう。

 ならば、お前が最後ではない」


ロイが叫ぶと、聖女はゆっくりと首を振って、


「いいや、違う。

 あなたにしてみればそうかもしれないが、あの人にしてみれば、私が最後になる」

「どういうことだ」

「聖女という存在はもう終わりが視えている。

 ロイ、聖女の天敵ともいえるあなたが生み出された時点で。

 だから残されていることはあと一つしかない。

 あの人の物語を終わらせるための最期の鍵は──私が握っている」 


だから私はフリーダを名乗った。

そう、聖女は言ってのける。


「放っておけば、私があの人に“フリーダ”の答えを告げれば、その時点で彼女の物語は終わる。

 そうすればもう──彼女は、この世界にいる意味を失うだろう」


その結果として──彼女は何を選ぶのか。


「アカ・カーバンクルアイにまつわるそんな結末を防ぐために、あなたは私を殺すしかない。

 一秒でも早く、彼女に、私が終わりを与える前に……」


その言葉と共に、ゆっくりと聖女フリーダの身体が消えていく。

ロイは目を見開き「待て」と声を上げた。とっさに剣を抜こうとするも、出現しない。

暗がりの図書館という舞台に張り付けられたロイでは、物語的な上層に位置する聖女に手は届かない。


「……すべて、私の言葉ではない。

 私はただ、こう語る、という未来を視た。

 その未来に従っているのみ……あなたたちと同じように……」


反響する言葉と共に、聖女は消えた。

同時に、ロイに彼女を何としても追う理由が生まれてしまった。

そのためにも物語を進めなくてはならない──



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ