191_第三聖女、その結末
(暗転)
(その後、次々とフラッシュバックする雨、巨大劇場、キィキィと甲高い鳴き声を漏らす少女人形たち)
(演出終了後、次は物質言語で文字が表示される)
【24】
【第三聖女の終焉】
【そして彼女が至るべき結末】
(ここで章クライマックスのカットが挿入される)
(まず雨の音から入る)
(ぽた、ぽた、という音から徐々に強めていく)
※第二章での雨の音響と敢えてかぶせる演出
(雨が響くと同時にシーンがスタート)
(主人公、ロイが第三聖女に刃を突き立てているカット)
──その生暖かい感触は、思えば久々だった。
第四、第一聖女と直接手を下すことができなかった。
彼、ロイ田中がこの手でその存在を終わらせたのは、“たまご”でのミオ以来だ。
偽剣をその胸に突き立て、抉り、吹き出た血を浴びる。
勝手知ったる感触だった。
そして待ち望んでいた感触でもあった。
どれだけ抑えようとも、心の底から響いてくるあの暗い渇望が、ロイの胸を震わせるのだ。
だが、笑いはしなかった。
自らに眠るその欲望は認めてはいたが、あえてそれを前に出す気もなかった。
「……言った通りになった。やはり、こう、なる、と」
むしろ笑ったのは、刃を突き立てられた聖女の方だった。
彼女は碧の瞳を歪ませ、ロイのことを見上げた。
「必ず、あなたはこの結末にたどり着く」
そして、ひどく平坦な口調で告げるのだった。
そこには殺戮者への怨嗟も、因縁浅からぬ存在への執着も、あるいは異様な形の愛もなかった。
「貴方は必ず私を殺しに来る。
この物語は、あなたが私たちを殺す物語。
その役割からは逃れられない。
この世界に定められた筋書きの奴隷である私たちは……」
口元に血をにじませながら、彼女は淡々と言葉を口にする。
それが最後の言葉になることは間違いないにも関わらず、与えられた文言を諳んじているかのような、距離感を感じさせる言葉なのだった。
「私たちは決して自由ではない。
私たちの過去はほんとうの意味では存在しない。
私たちの未来はすでに語られている。
私たちの現在とは、定められた言語を読み進めることと何ら相違はない。
知って──いた?」
彼女は最後に一言、告げた。
「でも安心しなさい、貴方の物語の主人公よ。
貴方はきっと救われるから。
そう──すでに定められた結末であなたは救われるのだから。
そうと知らずとも、あるいはそうと知っていても。
私たちは、その大きな流れに逆らうことはできない……」
(再び暗転)
(雨の音と共に徐々にフェードアウト)
(最後にタイトルが表示される)
(第三聖女の言葉とかぶさるように)
(きっと救われる物語の奴隷たち)
今年もよろしくお願いいたします。