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虚構転生//  作者: ゼップ
虚構都市“東京”
189/243

188_希望の花々に結末を ⑧


新宿の街は、いよいよ本格的に戦場へと姿を変えようとしていた。


言語船テクストシップが放たれる砲弾がコクーンタワーを貫ているのが見えた。

当初は戸惑っていた聖女軍も、そこに“教会”が──敵がいると知るや否や、攻勢に転じたのだ。

“教会”も黙ってはいない。それぞれ持ち込んだ最新式の装備で応戦する。

そのはざまで異形バアバロイたちまで姿を見せていた。


「ふふふ……燃えてます。燃えちゃってます」


その中にあって、雪乃は頬を紅潮させていた。

雪の寒さと炎の熱、戦場の恐怖のただなかにあって、彼女は異様なトーンで語る。


「新宿……めちゃくちゃになってますね。

 ふふふ、いいんです。いいんです。私たち、“現実”側も黙ってはいませんから

 そのうち戦車かヘリか、戦闘機か、やってきますよ。

 自衛隊が彼らに逆襲しに来るんです。そしたらもっと、めちゃくちゃになる──」

「うれしそうじゃない、君」

「あ、わかっちゃいます? ごめんなさい、その、不謹慎なのはわかってるんですけど……」


──そりゃ、わかるよ。見るからにハイになってるし。


カーバンクルは呆れる想いだったが、あえて何も言わなかった。

雇い主を守ることに迷いはないが、そのケアまではする気はないのだった。


「……お、これは」


そんな調子で、燃える炎の街の中、雪乃を守って闘っていたカーバンクルは、ふと空を見上げた。


渦巻く碧の色彩に変化が訪れていた。

高まり続けていた輝きが、ふっ、と一瞬だけ止まった。

その後、もう一度輝きを取り戻すも、すぐにまた消える。

ついては消える。

明滅を繰り返す空はまるで──迷っているかのようであった。


「どうしたんですか? カーバンクルさん」

「やった、のかな? 田中君」


カーバンクルは、さてどちらだろう、と思った。

サイコロを振った気分だった。どの目が出るか、そもそも何を狙えばいいのかわからない。

そんな暗中模索のゲームに、顔を突っ込んだ状況だ


そうこうしているうちに空から──ゆっくりと光が散っていた。


収束していた光は、あっさりと解けていく。

光は──地上へと解き放たれていた。


光は、雪よりも早かった。幾多もの色彩がすぐさま街に降り立った。


「──花?」


雪乃は目を丸くしていた。

突如として花を咲かせた、菊に似た、碧の花。

それが咲いたのは地上だけではなない。

空にも、船が飛び交う戦場にも花々は咲き誇っていた。


「第一聖女、ニケア。

 その聖痕は、“希望”。

 とにかく圧倒的な出力があるせいで、その奇蹟の全容を把握することは、“教会”は結局百年かかってできなかった」


その花を見たカーバンクルは、もう戦うのをやめていた。

剣を下し、空を見上げる。

事が“終わった”ことを感じていたのだ。


「だが一つだけ、確かな能力として──その光を見たものは、諦めることができなくなる。

 いかに苦しく、どうしようもない状況においても、あり得ない活路を見出してしまう」


この街のどこかに行ってしまったハイネとクリスのことを思う。

彼らも昔、聖女ニケアの光を見たのだという。

だからきっと──生きることができた。


「でも、それが幸福だとは限らない、か。

 とっくの昔に終わってしまったものに、何時までもしがみつく結果になりかねないんだから。

 でもまぁ──」


──その“希望”も、きっとこれでおしまいだろう。


それが喜ばしいことなのか、悲嘆するべきことなのか。

カーバンクルにはわからなかったし、どうでもいいところでもあった。

ただ、サイコロの目は、もう決まったようだった。


「……ううん? あれはなんだ?」


そのまま空を見上げていたカーバンクルはふと奇妙なものに気が付いた。


それは翼を持っていた。

白い霊鳥の翼を広げ、同時に叫びをあげている。

その先には落ち続ける誰かの人影があった。


このままでは、遥かな上空からアスファルトへと叩きつけられることになるのは必定だった。


「鳥か? 飛行機か? いやスーパーマンか……いや、違うか」


超人スーパーマンと呼ぶには、どちらも何もかもが足りない。


そう呆れたように思っていると、翼ある剣士が、ぱしっ、と落ちていく彼を捕まえた。

ナイスキャッチ、と内心で思いつつ、カーバンクルは大きく手を振った。


「あ! カーバンクルさん!」


こちらに気づいた彼女は目いっぱい叫びをあげて、こちらに向かってきた。

翼を広げ、まっすぐとやってくる──が、そこでカーバンクルは気が付いた。


「ああ、なるほど」


と、そうこうしているうちにあっという間に彼女はやってきた。

アスファルトの地に足をつけ、その手に抱えていた人間を置く。

はぁはぁ、と息荒くしながら、彼女は額に浮かんだ汗をぬぐった。


「あ、ああ……ありがとう。死ぬかと思った」


置かれた彼は、げっそりとした顔で彼女、キョウを見上げた。


「ロイ君! 死ぬ気ですか!」


すると、ずい、と顔を近づけて彼女は語るのだった。


「いや、だからありがとう。死ぬ気はなかった」

「嘘です! 一瞬もう、死んでもいいかなって思ったでしょう!

 私はもうロイ君を信じませんからね!」

「嘘じゃない! こんなところで死んでたまるかと思ったさ!」

「だーめです! 信じません信じません。だって結局、結局──その殺しちゃったじゃないですか」


そう告げられた田中は、ふと動きを止めた。

それと、彼の手に握られた見慣れない偽剣ソードレプリカだけで、カーバンクルはだいたいの事情を把握した。


「……違うよ。あの時、俺は結局、殺せなかった。

 ニケアは、渋る俺を無視して、その力を──」

「違います」


何かを言おうとした田中に、キョウは首を振った。


「ニケアさんのことは、もう、私にもよくわかりません。

 でもあの人、タイボさんを殺したは、ロイ君です」

「ああ、それは──そうだよ」


そこで田中はこくりと頷いた。

その事実は、否定しないらしかった。

そんな彼に対し、キョウは指をさして。


「たとえそれで世界が救われるのだとしても。

 それが役目だと言われたとしても。

 でもやっぱり、ダメですよ。

 だってまだあの人の話は、あの人の物語は、結局聞いていないじゃないですか」

「────」

「だから、信じないですし、許さないです。

 今度は絶対に止めますから!」


そう力強く語るキョウは、勢いのまま田中の肩につかみかかろうとした。

そして──すり抜けた。


「あれ?」


彼女は不思議そうに首をひねったあと、もう一度田中に触れようとして、そしてまた──すり抜けた。




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