183_希望の花々に結末を ③
私と同じ外見、同じ顔、そして同じ──奇蹟の力。
ふふふ……本当、おかしな話だろう?
私は彼女たちのことに気づいたとき、驚いた。とても驚いた。
嬉しかったかというと……はじめは微妙な気分だった。
それでも気になって仕方がなかった。
だってしょうがないだろう?
みんな私に瓜二つだって騒ぎ立てるんだから。
ちょっとお化けでも見に行く感じで、会いに行ったよ。
そしたら──楽しかった。
そいつは、確かに私に似ていた。
同じような顔をして、同じように齢を取らなくて、同じように変な力を持っていた。
だけど、性格は全然違った。
そいつは私よりもずっとすっとぼけた性格をしていたし、私と違って剣など怖くて握れないとも言った。
闘いなんて全然好きじゃない。
私が好きなのは歌だけ──そう口癖のように言っていた。
わざわざ自分で言うくらいだから、実際、そいつの歌は震えるほどに美しかった。
聞くと、この身がとろけるような心地だった。
そしてその歌を聴いていると、確かに闘う気なんて起きなくなってきた。
そうなると困るもんだから、私はほどほどに、ってよく言った。
でも本当はその歌が大好きで、この娘にもそれがバレているもんだから、ダメダメと言いつつ歌を聴いてしまったものだ。
ふふふ……楽しかったよ。
私たちは、すぐに友達になれたと思う。
現れたのは彼女だけじゃなかった。
ほかにも、私に似た人がたくさん出てきた。
ありとあらゆるネタバレをしてくる奴とか、なんか庇護欲をそそられる奴とか、いつも生真面目に頑張ってるやつとか、忘れっぽいけどいい奴とか──
そいつらが、私の新たな友達になった。
仲間、とはちょっとまた違う。
ともに闘うことはほとんどできなかったから。
一緒にいると収集がつかなくなるんで、たまにそれぞれの場所に遊びに行くくらいだったんだ。
でも、それもまた、ずっとは続かなかった。
私の友達の一人が、死んだ。
それは思うに、自然なことだった。
私たちは不思議な奇蹟をこの身に宿してはいるけど、だからといって万能じゃない。
私だって奇蹟を使い過ぎれば疲れてしまうし、そういう時に狙われたらヤバイなって思う。
うん、それが──自然。
そうなんだけど、私は思ってしまった。
こんなの──許せないって。
優しく、誰も死なない世界にするんだ!
私が世界を救うんだ──と燃えてしまった。
まぁ、私も若かったんだよ。
いや、幼かったというべきか、
そういう、思い上がりをしてしまう程度には、ね。
実際のところ、結構いい歳だったんだよ? 私、その時は。
実年齢は言わせないでね。
とにかく私は燃えた。世界を救いたいと思って──敵を探した。
だって、世界を救う勇者様は、いつだって何か強大な悪を、敵を倒して世界を救っていたから。
それ以外のやり方を私はよく知らなかった。
それが、まず一つ起こったこと。
いや──願ったことかな。
もう一つだけ、友の死に、私は思ったことがあった。
また──会いたいって、そう思ったんだ。
友達は死んでしまった。
私と同じ顔をした、私と同じ立場だった彼女はもう二度と現れない。
そう理解していたのに、でも強く、強く願った。
友の死に、怒りを覚えて、敵を求めた。
もう二度と会えないと知りつつも、再会を求めた。
うん、そしたら──何が起こったと思う?
まず敵が出てきたんだ。
あの父上が帰ってきた。
確かにこの手で殺したはずの父が、どういう訳か戻ってきた。
そしてただ漫然と悪辣な行為をしていたあの時と違って、明確な目的を持っていた。
うん、その目的は──私の友達を殺す、ということ。
それは、その時の私にとって、一番許せないこと。
この奇蹟の力を持つ私たちを、聖女と呼んで、殺して回っていた。
お題目は秩序の再構築とか、そんなことをだったけど、でももうそんなことどうでもよかった。
私にとって、もっとも許せない敵になったんだから。
いつしか父のその組織は、私の敵は──“教会”って、呼ばれていた。
聖女と“教会”という言葉は、そうして生まれた。
次にね──これはもう、明らかにおかしなことなんだけど。
私の友達が生き返ったんだ。
友達──聖女がね、またこの地上に出てきたというんだ。
私だって最初は信じなかった。
だって人は死んだらもう戻らない。そんなの当たり前だろう?
でも、見つけてしまった。
かつて死んだあの娘とよく似た奇蹟を持つ、私とよく似た顔をした少女を。
うん、私とよく似てるってことは、死んだあの娘ともよく似ていた。
──もちろん、別人だ。
私のことはすっかり忘れているようだったし、性格もなんだかちょっと違っていた。
だけど、それでも──帰ってきてくれた。
それが初めて起こった聖女の“転生”だった。
聖女を殺しても、しばらくしたら帰ってくる。
同じ奇蹟を宿して、同じ顔をして。
──ふふふ……なんとなく、もう察しがついたかい?
そうだよ。タナカクン。
すべては──私が願ったことなんだ。