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虚構転生//  作者: ゼップ
虚構都市“東京”
183/243

182_希望の花々に結末を ②


ひゅうう、と風が吹き、碧の花弁が舞っていた。

花が風に揺れて波を打つ。どこまでも広がる光の花畑の中で、三人は向き合っていた。


「私はね、知っての通り聖女だ。君たちが生まれるずっとずっと前から、聖女だった」


そう前置きをして、彼女は語り始めた──



 どこが真の意味で“はじまり”だったのか、正直なところ私にだってわからない。


 ただ会えて言うなら、きっと、父が出ていったあの日だろう。

 ずっと昔、クーゼル王朝が崩壊し、時代が今の暗黒期に入ろうとしていた時。

 それまでは私はただの少女だったんだ。

 何の力もない。剣なんて握ったこともない。奇蹟なんて起こしたどころか、見たこともない。

 そんなただの人間ラングだった。


 でも、そんな私を置いて、父は出ていってしまった。

 私の敵になる、と言い残してね。

 そしてそれは本当のことになる訳だが、まだそのときは何も理解していなかった。


 理解していたのは父と、そして母だけだろう。

 母──ユウカはずっと私の隣にいてくれた。

 味方になると言い続けてくれた。


 その言葉通り、母はこの百年の間、ずっといてくれたんだ。


 父を喪った私は、母に縋り付きながらただ願ったよ。

 はやくもっといい世界になってほしい。

 あのお伽話でみたような、やさしい世界が来てほしいって。



その言葉はよどみなく語られた。

きっとこれまで何度も何度も、己の中で反芻したからだろう。



 私が奇蹟を起こしたのは、それからまもなくのことだった。

 ぼうっとね、瞳に光がともったんだ。

 君も何度も見ただろう? この碧の色彩だ。

 唐突に湧いて出たこの光が、私の奇蹟のあかしだった。


 初めて起こした奇蹟がなんだったのかというと、大したことない。

 ただの、殺戮だよ。

 村を襲いに現れた人間たちを、私はその力で、ぺしゃんこにしてしまった。

 どこか奇蹟だ、と思ったけどね、でも私はこの力があったおかげで、ここまで生きることができた。


 それから数年のことはあまり思い出したくはない。

 今に輪をかけて、ひどい、時代だった。

 ただただ私は奇蹟を使い、その中で殺戮を続けていただけだ。


 そうして闘って、闘って、闘っているうちに、いつの間にやら仲間ができていた。

 今でもはっきりと顔を思い浮かべることができるよ。

 ブランミッシェルの猫家系は、いつも愛くるしかったな、とか。


 そうそれが──聖女軍の原型になった。


 アレはもともと、何か目的があってできた訳じゃない。

 何もかもが失われた時代にあって、生きていくために集まった人間たちだよ。

 でもうれしかったよ。

 私に仲間ができたんだから。

 神話の勇者様のように、私は強くて、そこに仲間が集ってきた。

 当然そこには私の母もいた。いてくれた。

 


それが百年以上、昔のことだった。



 不思議なことが起こったのは、それからだった。

 私たちはずっと戦ってきたんだけどね。

 ある時から、私たちを目の敵にして動く組織が表れた。


 なんか黒い服をまとった、変な組織がいる。

 最初はそれくらいの印象だったんだけどね。

 行く先々で会う者だから、これはおかしいなって思ったんだ。


 それでそいつらのことを調べてみたら、その頭目というのがね、なんと──私の父だったんだ。

 父、エル・エリオスタ。

 仮面の騎士なんてやって、ごまかしているけど、あの人もこの百年間ずっと戦っているんだよ。

 

 久々にその名前を聞いた私は、ひどく驚いた。

 そして同時に怒りも覚えた。

 勝手においていった父が、なんでいまさらになって戻ってくるんだって。

 父は、かなり大きな組織を率いていて、いろんなところで悪さをしていた。



 怒ったからからこそ、闘いを始めた。

 仲間を集めて、みなに号令をかけて、許せない父を倒そうとした。

 みんな私の父のことを敵だと思って、一致団結して力を合わせた。


 それが……最初の戦争だった。


 今だから言うよ、あの闘いが──楽しかったってね。

 もうそのころには世界は荒れ果ててたし、やさしい場所ではなかった。

 でも、みんなで闘っている間は、決して孤独じゃなかった。

 つらいことがあっても、かなしいことがあっても、それを乗り越えていこうって思っていた。

 

 そうして──私は一度勝ったんだ。


 確かに戦場で首を取ったんだ、父上の。

 一度勝ったから、だから聖女戦線のあの地域には、今でも反“教会”勢力が集まってくる。

 何故って──その時、私の敵となった組織こそが、“教会”の前身だからさ。


 あの時、勝利した時に見た青空は、今でも忘れないと思う。



だけど、それで終わりにはならなかった。



 父を倒したけど、別に世界は平和にはならなかった。

 うん、そりゃそうだ。

 世界がこうなったのは、別に父のせいじゃない。


 だから倒しても、別にすべて片がつくなんて、そんなことになるはずがない。


 ただ──私はなぜかショックだったんだ。

 父を倒せば、それで全部終わると、勝手に信じていたから。

 だって、勇者の物語は、たいていそういう風に終わっていたから。


 敵を倒して、平和になって、それで終わり。

 そのはずだったのに、まだ続いてしまった。

 

 正直困ったけど、なら、また闘おうと思ったんだ。

 そのころにはもう私は自分の力を自覚していた。

 この奇蹟の力で、世界を救わないとって思ったんだ。


 だけど、うん! 仲間がついてこれなかった。

 

 うん? 別に裏切られたとか、全員死んだとかじゃないぞ。

 ただまぁ、こう、あれだ。

 時間が経ち過ぎていた。

 戦士として一緒に戦える時間は、そんなに長くない。

 十年、二十年、三十年とやっていれば、すぐに最初の仲間たちは消えていってしまう。

 理由はそれこそ様々だけど、いつまでも一緒なんてことはない。


 一緒だったのは、それこそ母上ぐらいなものさ。



母上。太母グレートマザー。ユウカ・グレートマザー。


 

 気づいたら最初の仲間が消えてしまっていた。

 私はふととてつもてなく寂しくなった。

 もちろん、全員消えたわけじゃない。

 でも残った彼らの姿は、もう過去、共に闘ったものとは変わってしまっていた。

 彼らの息子だったり、縁者だったりもいたけれど、私だけは何も変わらなかった。


 それが寂しくて、ガラにもなく母上に泣き言を言ったと思う。

 そして──言ったんだ。


 “私と同じような人が、もっとこの世界にいればいいのに”


 泣き言さ。

 分不相応な力を手に入れた人間の、傲慢な泣き言だよ。


 だけどなぁ……困ったことに、母上はそれを叱ってくれなかった。

 

 むしろ私の頭を撫でながら、こう優しく言ってくれた。

 わかった。

 私はあなたの味方だから、安心して、と。


 

そして──気づけば現れていたという。



彼女に、ニケアに瓜二つの外見をした、奇妙な力を身に着けた少女たちが。




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