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虚構転生//  作者: ゼップ
虚構都市“東京”
182/243

181_希望の花々に結末を ①


そのまばゆい光は──剣であった。

その光はただ強いだけではない。

一つの明確な志向性を持って振るわれているのだ。


『エリス』。

“犠牲”の聖女の奇蹟は、ここに再現されていた。


「……きれい」


空を駆ける中、キョウのつぶやきが聞こえた。

彼女に捕まる田中もまた内心で同じことを思っていた。


そう、その光は美しくあった。

その光が何を“犠牲”にして創られたものなのかを知っていていて尚、あるいは知っているからこそ。

空を斬り裂く剣身ブレイドの輝きに、心が震えてしまう。


「ロイ君、この光って“犠牲”の奇蹟、なんですよね」

「その顕現に必要とされるのは、使用者にとってかけがえのない、己の自身ともいえる記憶。

 俺には使うことができなかった。

 恐れていたんだ。自分が、自分でなくなることを」


そしてそれはハイネも同じはずだった。


「……これで、よかったんですか。

 私たちが出る幕ではないのはわかります。

 でも、この光。これだけ強い光を生み出すほどの想いは──」

「──大丈夫だよ。あの二人は生きている」


田中は思う。

同じ世界、同じ空の下に彼らは生きている。

確かに彼の物語はどうしようもなく捻じれてしまったかもしれない。

でも、ならば──全部おしまいにして、もう一度始めればいい。


「俺がこの“現実”でできなかったことが、まだアイツらはできるんだ」

「……ロイ君」

「いや、まだ俺にだってできることはあるんだと思う。

 だから、会いに行くんだ。今から、あの光の先にいる奴と」


田中の言葉に返答はなかった。

ただキョウは今一度、大きく羽ばたいてみせた。

純白の翼が東京の空を舞う。

今や“虚構”の都市と化したこの東京に、彼女はその翼を目一杯広げて、飛んでいた。

そうして空を駆ける横顔が、彼にはひどく凛々しいものに見えた。


──そうして、二人は碧の光の中に飛び込んでいった。


ハイネが斬り開いた道から、聖女の核たるレイヤーへと侵入していたのだ。


「すごい。でもこれって──」


赤、青、黄、紫、黒、白、あらゆる色彩がうねりを上げて広がっていく。

原色が舞い踊る異様なオーロラの道の向こう、眩い光の先に、待っていたのは──花だった。


そこには、無数の花が咲いていた。

みずみずしい芝生の上、花々がところせましと大輪を咲かせていた。

無数の花弁が盛り上がるその花は、見た目としては菊の花に似ている。

それぞれが碧の燐光を纏い、見たこともない色彩を、花畑に添えている。


「なんだ、ここ──暖かい」


キョウと共に花畑に降り立った田中は、頬を撫でる風の奇妙なぬくもりに気が付いた。

異様な場所であるが、決して恐ろしいとは感じなかった。

むしろそれとは対極の、包み込むような何かがその風には含まれていた。


「うん、やっぱり来てくれたか。タナカクン」


碧の花畑にて、彼女は田中たちを出迎えてくれた。


「よかった、よかった。放っておかれたら、どうしようかと思ったぞ」


そのゆったりとした生地の衣服は風がたなびいている。

どこより調達したのかそれは、明らかに“虚構”の世界のものであり、その手に持つ剣もまた──この“現実”のものではなかった。

『パルスマイン改・3rd』、12世紀最高の偽剣ソードレプリカ


そんなものを手にしながら、聖女は、朗らかに笑うのだった。

第一聖女、ニケア。

その聖痕は、“希望”。

百年前よりずっと“教会”と戦い続けてきた、はじまりにして、史上最強の聖女。


「うん、うん、よかった……本当に」


そう言って彼女は楽しそうに頷いている。


「勝手に納得しないでくれ」

「ほう?」

「俺の方は何もわかってない。

 説明も何もなしに、勝手に納得して、勝手に利用するのはやめてくれ」

「ふふふ、何も考えず、何も知ろうともせず、ただ与えられた役割に従って、今まで勝手に聖女たちを殺してきたのが君だろう?」


意地悪そうに彼女は言うのだった。

冗談めかした口調であり、その真意はどこにあるのか読めない。


「今回は大丈夫です! だって私が殺させませんから」


口を挟んだのはキョウだった。

一歩前に躍り出た彼女は、不殺剣『ネヘリス』を抜きながら、二人の間に立った。


「君か。マルガの友達よ。

 私を守ってくれるんだったな。怖い怖い人斬りから──私を終わらせに来る誰かから。

 うん、じゃあ、よろしく頼む」

「ああ、俺が暴走しそうになったら、力づくでも止めてくれ」


ニケアも、田中も共に彼女にそう冷静な声をかける。

だが彼女は、そこで変な顔を浮かべた。


「どうした?」

「あ、いえ、なんか普通に頼まれると調子が狂うというか。

 いつもなら両サイドからつっぱれられ、襲われるので、こう、慣れていないというか」

「ふふ」


ニケアはそこで、声を上げて見せた。

その手に剣は持っているものの、その様は穏やかなもので、戦意は感じられなかった。


「──あれ? なんか、拍子抜けというか、え? 戦わないんですか?」


意外そうに首をかしげるキョウに対し、田中は苦笑しながら、


「違うよ。どうやら俺は、彼女の敵じゃないらしいからな」

「ああ、そうだ! 私の敵は君じゃないよ。本当の意味ではね」

「まぁ、これからはどうなるかわからない」


そう言って、田中もまた偽剣ソードレプリカ『ミオ』を抜いていた。

穏やかな花畑に、無骨な剣身ブレイドが顕現する。


「教えてくれ。お前は──お前たちはいったい、なんだ?」


そう尋ねると、ニケアはすっと田中を見据えて、


「いいよ、話してあげよう」



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