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虚構転生//  作者: ゼップ
雨、邪悪なる理想の聖女
18/243

18_殺人動機について


「ロイさんでよかったでしたか?」


祈祷場にたどり着いた彼女の言葉に田中は頷いた。

ロイ田中という名前自体には、エリスと同じく、アマネは何の反応も示していないようだった。


「近くに私が住まわせていただいていく部屋があります。

 タイボに相談すれば、とりあえず貴方を休めせてあげられるでしょう」

「あ、ああ、すまない。ありがとう。アマネさん」

「いえ、聖女ですから」


田中は一瞬逡巡したのち、


「実は俺にも連れがいるんだ」

「お連れさん……ですか?」


アマネが意外そうに瞳を揺らした。

そういえば自分の事情について何一つ話していなかったと、田中はそこで気づいたのだった。


「ああ、実は一緒にこの街に入った奴らがいて、俺が先走ってはぐれてしまった形だ」

「なるほど。それではその人らも探さなくてはいけませんね。何か特徴などは?」

「ええと、一人は長い髪をした赤い瞳の人で――」


と、田中が語ろうとしたとき、頭上から割って入る声がした。


「見つけましたよー! ロイ君」


キョウだった。

コートを羽織った彼女は小鳥、あろうことかリューに捕まって空を飛んできていた。


鳩程度の大きさしかないリューに捕まって飛んでいる姿は、違和感しかなかったが、

すいすいと彼女らは雨の空を滑空し、広場に上手に着地。雨よけの下にいるロイとアマネに近づいてきた。


「突然走りだすから、何事かと思ったよ、ロイ君」


肩に乗りそう語るリューに対し、ロイは「飛べたのか……」と思わず呟いてしまった。


「無論だ。霊鳥としての誇りは飛ぶことだからね」

「リュー、余裕ぶってますけど、私がもうちょっと成長したらつらいってずっと言ってるんです」


そう言ってニコリを笑ったのち、キョウは田中の身体をじろじろと見出した。

まず手、次に衣服、最後に顔を確認したのち、


「うん。まだ誰も殺してないみたいですね、ロイ君」


晴れやかな口調で彼女にそう言われ、田中はどきりとする。


「……この方たちは?」


キョウとのやり取りを見たアマネが口を挟んできた。


「ああ、さっき言っていた連れだ」

「こちらは少女剣士のキョウ」

「肩に乗ってるのは霊長のリュー」


流れを受け二人がそれぞれ自己紹介を述べる。

アマネは「そうですか」と無感動に返したのち、


「私はアマネ。この街にて、雨乞いを行っている聖女となります」

「聖女様! そんな人に拾われたんですかっ!? ロイ君」


感情を露わにしないアマネと対照的に、キョウは目をぱちくりとさせ身振り手振りで驚きを示した。

が、そのあと田中へとにじり寄ってきて


「まったく人に迷惑をかけちゃダメですよう。

 誰も手にかけなかったらいいというものではありません」


今度はぷりぷりと怒りながら迫ってくる彼女に対し、田中は少し落ち着きを取り戻していた。

聖女、カーバンクルは彼女らを気が触れた少女だと言った。

だがそれはあくまで彼女の立場から見た話だ。

それがすべて正しいものとは限らない。

この世界において、どう行動するのが正しいのかも含めて、自分の目で確かめるべきなのだ。


何も――殺す必要はない。


ざあざあぶりの雨を前に、静かに佇むアマネを前に田中はそう思い直していた。


「そういえば、カーバンクルさんは?」

「あ、私が一人で一緒に飛び出してきちゃったんで、どこにいるかわからないです。

 探さないといけませんね……しまったな」


うーん、と頭を捻りだすキョウを、田中は不思議な心地で見返した。







そのころ、カーバンクルは一人街を歩いていた。

飛び出した田中を一目散に追いかけたキョウと違い、彼女は何ら取り乱すことなく、マイペースそのものだった。


灰色の街に、痛いほどの勢いで雨がたたきつけられる。

雨は街全体をまるで洗い流すかのような勢いで降っていた。


だが――その隙間を縫って異様な臭いがしていた。

錆びた鉄を思わせる、彼女にしてみれば親しみ深い、生暖かい臭いだった。


田中もキョウも放置して、彼女はそのにおいを追っていた。

鼻歌交じりで上機嫌そうに、入り組んだ灰色の街を下っていく。

びちゃ、びちゃ、と足音が響き渡る。

街の片隅、中央から随分と離れた場所に、果たしてそれはあった。


「……子供が一人、と」


ぼそり、とカーバンクルは漏らした。


そこには死体が倒れていた。


恐らく腹を凶器で一突きされたのだろう。それは腹を押さえうずくまる態勢で倒れ伏していた。

その身体からは血がどろどろとこぼれだしており、灰色の街の中、どす黒い赤は鮮烈な印象を与えている。

小柄な身体をしたその死体は、コート等の着ぐるみを剥がされているほか、衣装一式を奪われているようだった。


「今殺されたばかり、というところか。

 見られたのか? 証拠隠滅も何もないとなると、相当急いでいたのか。

 それとも……」 


死体を前にカーバンクルは滔々と分析を述べていく。


「むしろ見つかってしまえ、という意気だったのかな? この街に潜む殺人者は」


だがその言葉のほとんどは雨の音にかき消され聞こえない。

同様に流れ出る血すらも、降り注ぐ雨が洗い流し、消していく……


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