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虚構転生//  作者: ゼップ
虚構都市“東京”
179/243

178_犠牲と希望


田中はキョウをまっすぐと見据えていた。

その色素の薄い瞳から目をそらさぬよう、じっと見据える。


「…………」


彼女に対し、余分な言葉は通じないだろう。

元より理屈で動く人間ではない。

もっと単純で、わかりやすく、そして厳しい。

そういう人間だということを、彼はもう知っている。


そうなんだから──まぁ、信じてもらうほかにないのだ。


キョウは田中のことを、そのままじいっと見つめたのち、


「うん、わかりました!」


あっさりと承諾してくれた。


「まぁいいですよ。あそこまで飛んでいけばいんですね?」

「……簡単な奴だ」

「なんですかその反応は! 全部私とリューの厚意に感謝してください」

「いや感謝はしている。よくこんな危ない奴の言うことを聞くなと思っただけだ」

「信じたというか、危なくなったら後ろから殴って止めればいいやって」


キョウの言葉に、田中はどこか自虐的に笑った。

なるほどそれは力強い言葉だった。


「こほん、二人で楽しそうにやってるとこ悪いんだけど」


と、そこで口を挟んだんはカーバンクルだった。

彼女は空に渦巻く碧のコアを指さして、


「あれ、たぶん、君の翼じゃいけないぜ?」

「え!? 本当ですか?」

「ああ、あれたぶん、聖女を中心に幻想純度がとにかく上がってる。

 疑似的な障壁バリアにもなってるんだろうな。突破することは難しいよ」


覚えいるかい、とカーバンクルは田中へと語り掛けた。


「第六聖女エリスが創っていたあの街のようなものだ。

 聖女自身が放出される幻想リソースを基に、中に空間を創っている状態だろう。

 第一・第六以外にも、第三あたりで観測されたことのある現象だ」

「それで突破法は? あるんだろう」

「もう少し焦ったようなフリをした方がいいぜ、可愛げがあった方が私が喜ぶから」


カーバンクルはそう軽く言いつつ、告げた。

火力だよ、と。


「あの障壁バリア自体はひどく単純な仕組みだから、幻想リソースを一気に放出する技で、一瞬でも穴を開ければいい」

「火力……」

「おそらく私やそこの不殺剣士の偽剣ソードレプリカじゃ無理だろう。

 生半可なフィジカル・ブラスターじゃ突破できないはずだ」


その言葉を受け、田中はこの場に集った者たちの装備を見る。

キョウ、カーバンクルが無理だとすれば、ハイネの『ピュアーネイル』も難しいだろう。雪乃は当然剣など持ってはいない。

聖女戦線で見せたクリスの『ルゥン』ならばあるいは、と思うが、肝心の使用者が倒れてしまっている。

この場で剣だけを突貫で使ったところで上手く行くとも思えない。


となれば、残されたのは田中の偽剣ソードレプリカだ。

聖女たちの奇蹟を、物質として堕としたこの剣だが──


「『アマネ』や『ミオ』では無理だ。突破できるような力はない」

「だがもう一振りあるだろう?」


カーバンクルの言葉に田中は言葉に詰まった。

あと一振り、そのクォードは『エリス』。

彼が今手にしている三振りの偽剣ソードレプリカのうち、最初に手に入れながら未だその奇蹟を開放したことはなかった。


「“犠牲”の奇蹟を使えば、きっと道は開けるはずだ。

 あれ、ちょっとした記憶を食わせるだけで閃光ビーム撃ちまくってたくらいだしね」


“さかしまの城”での一幕が思い出される。

それはもはや遠い過去のことのようだった。

あそこからすべてが始まった。

記憶を“犠牲”にしていた、あの聖女エリスとの出会いから。


「“犠牲”か」


田中は己の握りしめた『エリス』の刀身を見据える。

美しくも儚い、片刃の剣。

幅広の刀身は向こう側が見えそうになるほど薄く、それ故に鋭利さと脆弱さを同じ刃の中に同居していた。

その白い装飾に彩られた黄玉トパーズの色彩は──“雨の街”と同じく、この東京ににあっても異様なまで映えいる。


そう、田中が今までこの剣の奇蹟を使わなかったのは──ひとえに恐れていたからだ。

何かを喪うこと。何かを忘れてしまうこと。これ以上、自分を削ってしまうことを。

だが、今こそ──


「──待ってください」


不意に田中の逡巡を遮られた。


「その役目、僕にお願いできないでしょうか?」


ハイネ。

それまで口を噤んでいた彼が顔を上げ、田中へと告げる。


「……“犠牲”は僕が差し出します」




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