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虚構転生//  作者: ゼップ
虚構都市“東京”
160/243

159_現実戦闘領域


幻想の奔流と共にやってきたのは、見覚えのある敵だった。

金色の髪が夕陽に照らされ輝く。瞳は半透明なゴーグルが据えられている。


「…………」


突如として公園に現れたクリスは、きょろきょろと不審げに見渡していた。

その様子から困惑が伝わってくる。


「え、何? 意味わかんない」


“転移”した直後ということか。

その様子から田中は、クリスの状況を推し量った。

おかしなことではない。

聖女戦線でハイネやキョウと合わせて戦っていたのだ。

田中たちがこちらに来ていた以上、彼女もこうして現実に現れることは寧ろ自然とさえ言える。


「意味わかんない。意味わかんないけど」


聖女軍の紋章ロゴが刻まれたコートを翻した

彼女は邪魔なゴーグルを取り去り、その向こうから敵意に満ちた瞳が見せた。


「敵がいるなら! 事態は単純」

「落ち着け、ここでは戦えない」


務めて平坦な声で田中は呼びかけた。

皮肉なことに、クリスと同様、田中も、こと戦闘のことになると冷静さを取り戻していた。

現実のことも、自分のことも、雪乃のことも、なにひとつわからない。

しかし敵が現れた以上は、思考を切り替える。


「は? 何を言っているの? アンタもアイツみたいに、こっちを舐めたことをするって訳?」

「気づけ、ここでは偽剣ソードレプリカは出せない」

「そんなハッタリ──」


告げると、クリスは構えを取った。

手首に巻かれたソードリストが露出する。

一瞬、通電するかのように光が迸り、そして、


「──通用すると思うのかぁ!」


彼女は剣と共に襲い掛かってきた。

ぼう、と実体を結ぶ剣。

肉厚かつ両刃の偽剣ソードレプリカクォードは『ルゥン』。

田中は目を見開いた。

現実において、偽剣ソードレプリカは出現しない筈だった。

だってそんなものは虚構フィクションの中にしか存在しないのだから。


「偽剣がっ!」

「ほうら! 出たよ! 出たんじゃない」


クリスを叫び共に襲い掛かってくる。

田中は咄嗟に地面を蹴りその刃から逃れた。

反応できたのも、己に根付いた8《アハト》としての経験故か。


「随分と鈍いじゃない? 異端審問官」


クリスは好戦的にせせら笑う。

同時に、あたりから声が上がるのが見えた。

公園に集っていた人々が様子に気づいたのかこちらに視線を向けている。

光が上がり、剣を振り回す女が現れた。注目を集めない筈もない。

またコスプレか何かだと思われているのかもしれないが──


「待て、休戦しろ。こちらの持っている情報なら渡そう」

「する訳ないじゃない! ここは戦場なのよ」


状況を理解していない言葉に田中は苛立つ。

ここが戦場──だとすればどれほど簡単なことか。


とはいえ説得は難しいか。

そう思うと同時に、田中は自身の手首を握っていた。

ソードリストは外されることなく、そこに巻かれている。


「『エリス』」


思わずそのクォードを口にする。

気づけば、その手には薄刃の偽剣ソードレプリカが表れていた。

少なくとも二日前、キョウと新宿で相対した時には手にすることができなかった。


しかし、今ここでは現れた。


「ロ、ロイさん……」


背中から雪乃の声がした。

目の前の状況への不安がにじんでいた。

見ればその手でスマホを握りしめている。

異形バアバロイに対してはあれが武器になったが、ここでそれは意味がない。


「下がっていた方がいい。

 可能なら、俺の背中から出るな。

 敵がフィジカル・ブラスターまで使えた場合、面倒なことになる」


そう言い捨てると同時に、田中は『エリス』を構えた。

そして高層ビルに囲まれた公園の中、クリスへ向かい、跳んだ。







同時刻、カーバンクルは思わぬ人物と再会をしていた。


夕方、人々が多く行きかう中、街はどこか楽し気な雰囲気に包まれている。

キリスト教、というこの世界の宗教における祭りが近々あるらしかった。

飾られた人形や、ぴかぴか光る装飾が目につき、だらだらとした音楽が街にはあふれていた。


「……ええと、何でわかった?」


そんな街の中、人々の流れの中にて、カーバンクルはそう口にした。


「君がここにいるのはまぁいいとして、でもなんで私がここにいることがわかるんだ。

 買い物と言いつつ、この駅には何となくぶらっと立ち寄っただけだぞ、私」


何時ものように砕けた口調だった。

しかしどこか深刻そうな色もまた、わずかに含んでいる。

それは、目の前の人物が見せる好戦的な微笑みもまた、影響していた。


「蛇の道は蛇、というほどの話でもないですがね。

 この世界にも“眼”あるみたいなんです」


その少年はマフラーを抑えた。

彼は、身サイズの合わないダボついたコートを纏っている。

一体どこから調達したのかのやら、とカーバンクルは内心思った。


「それで君は──聖女と共に行くといったね」


カーバンクルは彼、ハイネに問いかけた。

それはどういう意味だい、と。


「私の立場的にもね。返答如何で──君を殺さないといけなくなるわけなんだが、そこんとこどうよ?」


そう告げると、ハイネは微笑んで見せた。

その微笑みは、どこか何時ものと違ったものに見えた



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