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虚構転生//  作者: ゼップ
虚構都市“東京”
149/243

148_世界観説明(テレビ、ネット、スマホ)


気づけば空は赤く染まっているようだった。

薄手のカーテン越しにこぼれる赤い陽光を受けつつ、田中はスナック菓子をほおばっていた。

部屋の主の趣味なのか、置かれたスナック菓子は赤く激辛のものが多く、一々水を飲まなければやっていられない。


「ふむふむ、なるほど……よくわからない世界です」


ジャージ姿に着替えたキョウが東芝製32型液晶テレビの前に正座している。

そこに映るニュース映像を前に、頭をひねりながらブツブツと漏らしている。


「ああ、この国はとりあえずここ七十年ほど、同じ秩序の下に成り立っている。

 基本的に法律があり、ルールがあり、社会がある。まずはそれを意識した方がいいね」


その隣でカーバンクルが逐一解説を加えていた。

意外と親身に、そしてすらすらと語る彼女は、やはり説明というものが上手に見える。

なるほどテレビという者は、“現実”の世界観を知るのにも便利なのかもしれない。


「はぁ、でも幻想リソースはないんですよね?」

「代わりに別のエネルギーソースがいろいろとある。我々の感覚では空気エアオイルあたりが理解しやすい。

 リソースに対して専用のシステムを組むことで、エネルギーを変換することができる。

 それはこちらの世界でも同じだな。

 君もここに来るまで見ただろう? 幻想リソースなしで動く機関エンジンを」


車のことだろうか、と隣で聞いていた田中は察した。


「それに、幻想リソースがないからこそ、いろいろできることもある」


カーバンクルはおもむろにリモコンを弄り、テレビ画面を操作した。

すると田中にとっては見覚えのある、カラフルなロゴがいくつか表示された。

どうやらそれはインターネットの動画サービスの選択画面だった

最近のテレビはネット対応にしていると聞くが、何故カーバンクルがそんな新しいものを持っているのかはわからない。

先ほど似たような質問を投げて「夜に話す」とはぐらかされてしまったのも記憶に新しい。


「これはなんですか?」

「言ってしまえば“眼”のシステムだ。

 送信側がどこかにいて、このデバイスが受信側。

 専用のバンドを通って、情報を表示してくれる」

「ああ! なるほど幻想リソースがないので、魔術帯バンドへの干渉も少ないんですね」

「ご名答。幻想リソースによる干渉を考えないで良い分、こちらの魔術は広範囲かつ大量の情報を送受信できる。

 だからこんなこともできるのさ」


言って彼女は動画を流し始めた。

キョウはそれをふむふむと頷いて見ている。


「この言語は?」

「ああ、それは英語というらしい。この世界で一番汎用性のある言葉らしいが」

「ええ、でも私、喋れませんよ」

「大丈夫だ。とりあえずこの国では、物質言語を喋れればコミュニケーションには問題ないよ」


──そういえば、日本語上手いんだものな。


ここに転移してきてあまり意識していなかったが、キョウもカーバンクルも言語、日本語に関しては特に問題ない立場なのだった。

“虚構”の世界において、物質言語という日本語と非常に近しい言語テクストがあり、それを読み解くことで偽剣ソードレプリカは稼働する。

そうした性質故にかつての“春”では、日本人を異世界から拉致して戦士に仕立て上げた、なんて伝説も残っている。


弥生がどういう意図で設定したかはわからないが、そうした背景があったからこそ、田中は“虚構”において少なくとも言語の違いを意識したことはなかった。

今度はそれの逆パターン、向こうから転移してきた者たちが日本で言葉で困ることはない、という訳だ。


そうしたキョウに向けた“世界観説明”をしていると、不意に玄関の扉がガチャリと開いた。

思わず田中とキョウはびくりと肩を上げてしまったが、カーバンクルは揚々と、


「お、来たか」


そう告げて立ち上がり、玄関へと向かっていく。

扉を開けたのは六反園雪乃ろくたんそのゆきのと名乗ったあの少女だった。

彼女は今日もあの私立高の制服を身に纏っており、その手元にはトーチバッグがある。


「カーバンクルさん、お邪魔します」

「おう、勝手に上がってくれていいよって、私が君に言うのも何だけど」

「……それと、そちらの方たちの分も用意できました」


雪乃は薄く笑い、バッグを差し出した。

カーバンクルはその中を覗き込み「お」と漏らした。


「気が利くねえ。流石、隊長さんだ」

「いえ、その、カーバンクルさんの仲間だというので」


そこでカーバンクルが「ロイ君」と声を上げた。


「武器の支給だ」


そう言って、彼女は、ひょい、と雪乃のバッグから取り出した何かを投げつけてきた。

田中は目を丸くしつつ、受け取ってみせた。


「スマホ……?」


その掌にあった板状のデバイスは、間違いなくスマートフォンだった。

一面ディスプレイのモデルは非常に軽く、最新・高額のものであることを窺わせる。


「この東京でバリバリに使える装備だ」


そういう彼女に対して、田中は困惑を滲ませた声で問いかけた。


「武器って、これで何で戦うんだ」

「もちろん、異形バアバロイだ」


……街に蠢く異形バアバロイを狩る雪乃ゆきの隊の活動は、当然、その日の夜も行われたのだった。



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