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虚構転生//  作者: ゼップ
雪降る戦場、はじまりの聖女、そして……
143/243

142_新宿


仲が良かった父と母があんなことになって、一人で生きたいと思った。

でもそんなことは結局できなくて、だらだらと助けられている。

他の誰よりも、そのことに慣れていく自分のことが嫌いだった。


だから、弥生と肩を寄せ合ったのだ。

同じように周りから弾かれて、でも自分以外の誰かなしでは生きていくことができない。

彼女もまた同じことを考えていて、同じように嫌悪していた。


思えば田中は、何故彼女が小説を書き始めたのかを知らない。

気づいたら彼女は書き始めていた。

きっとそこには何かきっかけがあって、彼女なりに何か思うところがあったはずだ。

でも、田中は何も知らなかったし、聞きもしなかった。

そして弥生もまた──


「──厭な、音だ」


幻想リソースの渦に巻き込まれた彼は、そうこぼした。

騒々しい雑音が聞こえてくる。

重なり合う靴音、溢れ出る人々のささやき、ぴーぴーとうるさい電子音。


嫌いだった。嫌いだったんだ、この音。

“転生”してから、異端審問官となってから、ついぞ久しく聞かなくてもよかった。

あそこは静かで、広々としていて、息を吸うだけで苦しくなるなんてなかった。

だからここまで戦い続けることができたのに。


「…………」


うっすらと目を開けると、そこには無数の神殿が立っていた。


何時しか風はすでに止んでいた。

降り積もる積雪はどこかに消えてしまっている。白い色彩は変わらず振り続けていたが、しかし、色褪せたアスファルトに触れるたび、消えていく。


「ここ……」


乱立する摩天楼の表面はガラス張りになっていて、街灯を受け、夜だというのにてかてかと光っていた。

道歩く雑多な人々の表情はさまざまで、彼らが流れていく様は、あらゆる感情がかきまぜられていくような感覚さえ覚える。


田中は、ロイ田中はその世界を知っていた。

それこそいやというほど触れてきた。あの虚構の世界以上に、長い間田中はここにいたのだから。


あの聖女戦線における、現実の残骸などではない。

あれはただの物語の再現だ。

田中の知るものと近い、しかし似て非なるもの。

しかしこれは──


「東京、か」


田中は意を決してその名を呼び、存在を認めることになった。

東京、新宿。

灰色のカソックを纏った田中が、そうして彼の知る現実へと迷い込むこととなる。









聖女戦線における、聖女ニケアと騎士エル・エリオスタの激突は、莫大な量の幻想リソースの衝突を起こした。

その余波は両軍へと多大な影響を及ぼした。


それは単に物質的な損害に留まらない。

多くの兵士が“神隠し”に遭い、忽然と姿を消してしまったのだという。

彼らがどこに消えたのかは、未だわからないまま──




(『虚構都市“東京”』へつづく)





ニケア編前編・聖女戦線編、完結です。

ニケア編後編・東京編はやっぱり月末あたりにスタートできればと思っています。

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