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虚構転生//  作者: ゼップ
雪降る戦場、はじまりの聖女、そして……
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129_リザルト


「撤退ご苦労様」


“眼”から伝えられた合流ポイントにやってきた田中たちを、カーバンクルは微笑みで出迎えた。

神殿と神殿の間、この風が届かない空白地帯は落ち合うのにうってつけの場所であった。


彼女は単眼モノクルをいじりながら、ふふん、と笑って、


「予感的中だったね」

「……ああ」


田中は小さく頷いた。

互いにわかっていた。翼による高機動を可能とする少女の剣士など、そうそう数はいない。


「あの不殺剣士だってわかってたから、殺さなかったって訳ね」

「……殺せなかったんだ」


小さく否定し、田中は汗を拭う。

敵、キョウの剣の腕が確かなのは間違いない。

事実“城”での一戦目は田中は敗れているのだから。

それにこの度はそれ以外の事情もあったのだから。


「……すまなかった、ハイネ」


先の戦闘のことを思い立ち、田中は隣に立つハイネに短く詫びた。

するとそれまで黙っていたハイネは仮面を取り、「いえ」と述べ、


「こちらこそ、貴方を抑えるために攻撃を加えています。強引な手段、申し訳ございません」

「それこそ正しい判断だ。命令を無視していたのはこっちだ」

「……やっぱり似ていますね」


ハイネはそこでクスリと小さく笑った。


「以前の8《アハト》も落ち着くと、途端にいい人になるんです。そのくせ、闘いの間は言うことを聞かなくなる」

「別人だ。そいつとは」


田中は仮面を外さずに応えた。

確かに似てはいるのだろう。

彼の存在を受け継いだ存在なのだから、当然のことだ。

一方で、きっと前の彼を深く知る者にとっては自分は紛い者に過ぎない。


少なくとも、と思う。

前の8《アハト》は聖女を狙いはすれ、執着はしなかったはずだ。

そして何より桜見弥生という存在を知らなかった。

そこが虚構フィクションの存在に過ぎなかった8《アハト》と、このロイ田中の最も決定的な違いだ。


「わかっていますよ。前の8《アハト》は、僕が攻撃したらこれ幸いと殺しにかかってくる人でしたから」

「あは、確かに少しマイルドになった」

「前がひどすぎるだけだ、それは」

 

田中が仮面の奥で苦笑を浮かべていると、がさ、と上から雪が降ってきた。

次に「うわ、とっとと」と声を漏らして、滑るように若草色の髪をした小柄な少女が下りてきた。


「オドレイ」


田中が思わず名を呼んだ。


「うわ、私、最後だった。みんな、早すぎだよ……」

「ま、君はある意味一番の貧乏くじだったからな。あの妙なガンマンに絡まれるなんて」


カーバンクルが笑いながら言った。

その様子を見た田中は意外そうに、


「えらく楽しそうだな」


カーバンクルは「奇縁だよ、奇縁」と重ねて言った。


「4《フィア》、さっきの情報は本当かい?」

「え、あ、はい。あのね、ロイ君、さっきの部隊の隊長さん、あの人だったよ」


話を振られた4《フィア》もまた楽しそうに言うのだった。


「あのムカつく女!」






キョウやクリスとハイネらが接敵した段階で、カーバンクルと4《フィア》もまた別の動きをしていた。

敵の部隊の実力を測ることが目的である以上、前衛以外のデータも欲しい。

そう考えたがゆえに、カーバンクルは4《フィア》を連れ、敵の“眼”を襲うことにした。


敵の“眼”をカーバンクルが捕捉しひきつける。

その後ろからもう一人の異端審問官、4《フィア》が背後より強襲する。

田中やハイネたちが、最悪“眼”なしでも単騎で動ける装備を持っているからこそ取れる手段であった。


そこで強襲の際、恐らくは双方に予想外の事態が起きた。


“眼”の護衛役──“早撃ち”のヴィクトルはカーバンクルが姿を現すなり暴走した。

その狂乱自体はカーバンクルにも今一つ把握できなかったのだが、その接触で敵が自分の知る存在であることを把握する。

そして後ろから強襲した4《フィア》もまた、見知った顔と再会することになるのだった。







「あの“たまご”であった金髪のひと。“無血”とか言ってったけ……私を見たら、怖そうに顔ゆがめてさ」


その言葉で田中は把握する。白金プラチナの髪の少女、マルガリーテ・グランウィング。

あの“たまご”を、キョウと共に後にした筈の、“無血”の平和主義者であった。

なるほど、と田中は思う。彼女自身、第一聖女に連なる者であることを標榜していた。

それにキョウはついていき、ここまでやってきたということだろう。

恐らくは、聖女の近くにいれば田中がやってくるであろうことを見越して。


そんな田中の考えを余所に、異端審問官“十一席”の中にあって、拷問を担当する少女は頬を上気させながら、


「私の拷問、意外と効いてたみたい……うれしかった! またやっちゃいたいよね、ああいうのには!」

「4《フィア》もやる気を出してくれてよかったよ。

 あの“ガンマン”君も、私のことをなんか目の敵にしてるみたいだからやりやすい。

 まぁ奴のことはイマイチ私も君もよくわからないんだが」


カーバンクルはそこで悪戯っぽくウインクしたのち、


「あの部隊、腕は確かだ。でも私らのカモしれないよ、思ったよりもね」




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