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虚構転生//  作者: ゼップ
雨、邪悪なる理想の聖女
13/243

13_不殺剣士


「殺さずでいきましょう」


少女は、微笑みを浮かべて田中に語りかけてきた。

ギリギリと偽剣ソードレプリカの刀身を押し合いながら、彼女は田中の瞳をまっすぐと見つめている。


「確かに私たちは理解しあえないかもしれませんが、まぁ、少しだけ待ってください。

 短絡的に人を殺すのはダメです。分かり合えないなら、ないなりに付き合いましょう」

「わちゃわちゃと!」


田中は突如現れた少女に苛立ちを覚え、そのまま斬り捨てることを選んだ。

跳躍ステップ。その刃をくぐり抜け、明確な殺意をもって少女を排除しようとする。


「何故そんなに殺したがるんですかっ!?」


だがそれを当然のように少女は受け止める。

こちらの跳躍ステップを読んでいたのか、タイミングを合わせて『イヴィーネイル』の刃を弾き飛ばしていた。


――油断したな。手練れだぞ、こいつは。


耳元で誰かの声がする。


予想外の抵抗に田中は態勢を崩してしまっていた。

そしてそこに付け込むように戦闘服の敵が青い炎とともに突っ込んでくる。


「だからダメです! ダーメ!」


と、少女剣士はしかりつけるように言って跳躍ステップ

敵の『ウイッカ』の突進を止め、田中の背中を守る形となった。


「どっちの味方なんだ、お前は」


戦闘服の敵が訝し気に告げる。

同感だ、と田中はここに来て明確な敵である彼女に共感をしてしまった。


少女剣士の訳の分からない行動によって場は乱れていた。

田中も、敵の偽剣使いも、ともに跳躍ステップをして彼女から距離を取る。


二人から睨みつけられるなか、彼女は毅然とした態度で、


「私の名前はキョウ! 何者でもないキョウ!」


名乗りを上げた。


「とにかくここはお互い殺さない方向でいきましょう!

 死ぬのは怖いこと、悲しいことなんです。それ以外ならまだしも“続き”がありますから」


田中はキョウと名乗った少女の言葉を無視していた。

跳躍ステップにより距離を詰め、再び刃を放つ。


「話の途中です!」


キョウは不満げに口を尖らせながら剣を受け止めた。


「この状況でそんなこと」

「何故です! 話を聞いてください」

「お前こそ、こっちの声を遮っている!」

「聞かないのなら、この『ネヘリス』で止めて見せます」


偽剣ソードレプリカ偽剣ソードレプリカがぶつかり合う。

身体が動くままに剣を振るうロイと、その太刀筋を冷静に受け止めていくキョウ。


「……撤退する。父上パパン、ごめん回収をお願いします」


その攻防を離れたところで見ていた敵の偽剣使いが、好機と見たか去っていく。

跳躍ステップによる瞬間移動は、一度取り逃がすと追うのが面倒だ。

田中は舌打ちをして、そちらを追おうとするが、


「何故! 人を殺すんですか?」


先回りするように跳躍ステップしていたキョウに、田中は追撃を止められた。

田中は苛立たし気に彼女に刃をふるおうとするが――


「そんなこと、俺は――」


そこで田中の動きは止まっていた。


そうだ――何故自分は人を殺そうとしていたのだ。


田中はあたりを窺う。

朽ちた城の中庭は、三人の分の死体が転がり血まみれとなっていた。

そのすべてが彼が手にかけたものだった。

耳元でささやかれれる声に従い、読んだ覚えのある知識を用い、彼は人を殺して、殺して、殺した。


あのエリスに刃を突き立てた、この場所で。


「笑って人を殺したんだ、俺」


その事実と、途中一切の抵抗がその胸に湧き上がらなかったことに、ロイは愕然としていた。

生き残るためだった、などと言い訳はできなかった。

逃げる敵すら追いかけ、自らの快楽のために殺そうとしていたのだった。


そうして目を見開く田中に対し、キョウが声を上げる。


「隙あり!」


と。


跳躍ステップで田中の後ろに回り込んだキョウは、彼の頭に思いっきり剣を叩き込んだ。


ごん、と鈍い音がした。

強烈な痛みとともに、田中の視界は暗転した。






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