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虚構転生//  作者: ゼップ
雪降る戦場、はじまりの聖女、そして……
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128_錯綜


蒼白の翼が舞っていた。

『ネヘリス』と『エリス』が互いの剣身をギリギリと押し合っている。

そのさなか、田中は思う。こうして剣を交えるのは三度目になるか、と。

半透明なバイザーに覆われてはいるが、その鋭い眼差しは見覚えのあるものだった。


「あ、アンタ……」

「クリスさんは一度下がって! でもご注意をまだ近くに灰色がいます!」


彼女は背中越しにクリスへと叫ぶように告げた。

突然の事態に膝をついていた彼女だが、すぐに気を取り戻したらしく声を張っている。

一方の闖入者、キョウは田中の姿を認めると一言告げた。


「その剣! ロイ君ですよね!」


仮面の奥で、田中は表情を歪めた。

そう思いはしたが、彼は返答はしなかった。

後方に跳躍ステップを繰り返し距離を取る。

誘うような動き。しかしキョウは迷わずこちらに飛び込んできた。


「今度こそ見間違えませんから! 待ってたんですよ!」


翼を消して突っ込んできた彼女を、田中は『ミオ』に持ち替え迎撃する。

大剣の肉厚の剣身ブレイドを持って、キョウの刃を弾こうとする。


「気を付けて、キョウ! その剣、なんか打ち合うだけで危険みたい!」


『ミオ』の出現に、クリスが声を上げるのが見えた。

キョウはその警告に頷き、跳躍ステップを駆使して剣を交えるより早く飛びのくことを選んだ。


そして互いに距離を取る。

一瞬の静寂、神殿では雪と風が変わらぬ勢いで吹き続けていた。


「新しい剣、また殺したんですね、聖女サマを」

「…………」

「“たまご”で別れて以来、探してました」

「何故だ」


堪らず田中は口を開いていた。


「何故、俺などに構う。俺以外にもいるだろう。お前が止めるべき奴なんて」

「私と、正反対だからです」


翼を消したキョウは額に浮かんだ汗を拭って言い放った。


「正反対だから、気持ちがわかるんです! わかるから!」


そう声高に語るキョウに対し、田中は剣を持って返した。

跳躍ステップで滑るように前に出る『ミオ』による攻撃を警戒した彼女は、一歩下がった。

それこそが田中の狙いだった。


「わかるものか! ただの虚構であるお前なんかに!」

「わかりますよ」


キョウは確信したように言った。


「だって、わかってくれたじゃないですか、私のこと。

 だから逆だって、当然あるんです」


病室での言葉、“たまご”での共闘、海辺での拒絶、さまざま場面が脳裏に浮かんでは消えていく。

記憶に絡みつく想いを振り払うように田中は駆け抜けた。


「クリスさん!」


キョウの叫びが上がる。

その標的はキョウではなかった。その向こうにいる、クリスだった。

殺したい。胸から溢れ出る衝動に後押しされ、田中は彼女へと迫った。


「しまっ……!」


『ミオ』の効果が残っているのか、反応が一拍遅れたクリスは『ルゥン』を構える。

しかし隙が見えた。跳躍ステップで一気に飛び込んで、その首を切り落とす。


剣と剣が交錯する音がした。


「え?」


声を上げたのはクリスだった。

彼女を守るように立つその姿は──灰色だったのだから。


「何のつもりだ、ハイネ」


田中は感情を押し殺した低い口調で、攻撃を阻んだハイネに向かって尋ねた。

仮面越しに視線が絡み合う。『ミオ』を『ピュアーネイル』で押さえる彼は短く言う。


「撤退です」

「何?」

マーカーを見てください。この隊で十分だと、僕が判断を下しました」

「今なら落とせたぞ、そいつを」

「撤退です!」


ハイネが声を荒げ、その口調に含まれた怒気に田中は一拍動きを止めた。

それを狙いハイネは容赦なく田中の身体を弾き飛ばした。


「撤退なんです! 言うことを聞いてください!」


ハイネが彼に似つかわしくない、荒々しい口調で言い放った。

田中は言葉以上に、そんな彼の様子に、冷静さを取り戻していた。


「……その声、アンタ」


だが一方で、ハイネの背中から声が上がっていた。

クリスだった。あの小柄な偽剣使いは、結果的に自分を守ったハイネを見上げ、


「お前か! あの時の異端審問官!」


憎悪を滲ませた叫びを上げ、『ルゥン』を振り上げていた。


「よくもあの時は! あんな真似を」

「────」


ハイネはそこで黙したままだった。

黙したまま跳躍ステップし、田中の隣へと立った。


「く、クリスさん!」

「下がってて! こいつだけは許せないの!」


クリスの豹変にキョウが近寄って制止する。

しかし、ハイネはそれに対し何も言い返さなかった。

ただ田中に手を差し伸べ「行きましょう」と告げるのみだった。


「見つけた! おい剣士共! あの高飛車女から命令だよ」


そこでまたさらに別の声が響いた。

首巻マフラーをはためかせながら、壁を駆けあがってきた新たな兵士。

その装備刻まれた聖女の紋章ロゴが彼女の所属を示していた。


「フュリアさん!」

「なんか向こうかなり危ないことになってるみだいね、撤退命令だよ撤退」


彼女の姿に田中は見覚えがあった。

何の因果か、彼女はキョウと肩を並べているらしい。

奇妙を縁を感じつつも、状況が混沌としてきたことを田中は悟っていた。


「敵が増えてきました。わかりますね、8《アハト》」

「……了解した」


言葉を交わしつつ、田中は最後に相対する敵、キョウを窺った。


「……追いつきますから」


彼女はクリスを抑えながらそう短く言うのみだった。

田中は絡み合った状況に翻弄される想いを味わいながら、ハイネと共に撤退することを選んだ。




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