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虚構転生//  作者: ゼップ
雪降る戦場、はじまりの聖女、そして……
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125_翼を堕とす


がら、と瓦礫が雪と共に崩れ落ちるのが見えた。

破壊された神殿の上層から、ハイネは戦場の様子を窺っていた。


眼下では“教会”の部隊が聖女軍と交戦していた。

黒色装備の“教会”の兵士たちは聖女軍に包囲され身動きが取れないでいるようだった。


地形と数によって友軍が追い詰められている。

仮にハイネが、劣化品エピゴーネンでない模倣品パスティーシュである『ピュアーネイル』を駆り戦闘に介入すれば状況は逆転するかもしれない。

しかしそれはできない。

眼下の友軍はターゲットを釣るための餌であり、介入すれば段取りが崩れてしまう。

だからハイネは無言でその戦いを見下ろすのみだった。


ハイネは息を吐く。

同時にちらりと己が纏う灰色のカソックのことを思う。

“教会”の兵士たちに与えられる装備は黒色装備と呼ばれている。

MTメタテクスト加工がなされた黒衣がその呼称の語源だ。

この雪降り続ける戦場において、その黒色装備がうごめく様はどこか一つの生物のようだ。


翻って、この灰色の装備は異端審問官固有のもの。

“教会”の大多数と同じ色をしておらず、違う系統によって動いている。

その事実にハイネは皮肉なものを感じていた。


「……来ました」


“眼”から簡易的なマーカーが送られてくる。

剣の仮面の内部で結ばれた情報を見て、ハイネはおもむろにソードリストから剣を抜いた。


そしてその数秒後、眼下の戦場に変化が訪れた。

目にもとまらぬ速度で翼が駆け抜けた。

蒼白の幻想リソースをばらまきながらやってきた彼女の剣が“教会”の兵士たちに走った。


それを確認すると、ハイネは身を躍らせた。

一瞬の浮遊感ののち、彼は神殿の壁を蹴り跳躍ステップした。

ガガガ、と小気味の良い音で神殿を滑り落ちるように跳ぶ。


「──不意打ち!」


そこで翼の偽剣使いがハイネの接近に勘付き声を上げた。

反応良し、ハイネは内心で敵を分析しつつ、落下に任せる形で剣を振り放っていった。


この翼の敵は確かに速いが、しかしどうにも幻想リソースによる閃光ビームやフィジカルブラスターでの遠隔攻撃もみせない。

それ故、攻撃する際、一々降りてくることは情報として知らされていた。


──だからこそ、そこを上から狙う。


翼があるからこそ、敵は上から狙われるということを想定しづらくなる。

その一瞬を狙い、ハイネは神殿上層にて待ち構えていたのだった。

片刃の『ピュアーネイル』の機敏な反応を信頼し、ハイネは翼の敵をそのまま強襲する。


「止めますか!」


しかしそれでも敵はハイネの刃を受け止めていた。

純粋に剣士としての腕がいいのだろう。経験から来る勘で身をよじった敵は偽剣ソードレプリカにて『ピュアーネイル』を振り払っていた。

そのことを確認したハイネは、そのまま落ちることを選んだ。

空中での跳躍ステップは不可能。だがそれは敵も同じこと。

そうハイネは分析はし、冷静に地表まで降り立った。


一方で敵は高度を取ることを選んでいた。自由に飛べる彼女にしてみれば、空は格好の逃げ場所なのだから当然だろう。

一瞬の剣戟ののち、二人は互いの姿を確認し、


「……灰色!」


翼の敵が鋭い口調で言った。

それは言うまでもなくハイネのカソックの色のことを言っているのだろう。

黒色装備でない兵士に何か思うところがあるのか、彼女はハイネに対し「貴方は」と何かを言おうとした。


「もしかして──君?」


が、ハイネはそれを無視して近くの神殿へと跳んだ。

地面の雪が舞い上がる。神殿の奥はがらんとしていて、薄暗かった。

そこに窓を割る勢いで敵の剣士が駆け込んでくる。

逃がさない、という意志表示か、彼女の表情は険しくなっている。


そこをハイネは狙った。

旧世紀のてかてかとしたタイルを蹴り敵との距離を詰めた。

敵がはっとして剣を構える。そこにハイネによる連撃が炸裂する。


翼の機動力はこうした屋内に誘い込めば大幅に減じられる。

この高いとは言えない室内で半端に“浮く”ことは、偽剣ソードレプリカ戦で跳躍ステップができなくなることを意味するからだ。

それを察した敵はすぐさま着地。蒼白の翼を消し、ハイネの攻撃を受けることに専念する。

偽剣ソードレプリカ同士が打ち合う鋭い音が神殿内に響き渡った。


──腕は確か。


そうして打ち合いを続けながら、ハイネは敵の技量をそう判断する。

翼による機動力に目が行きがちだが、この敵は純粋に剣の技量が高い。

翼によって飛行できる剣士というのは、珍しくはあるが、これまでも全くいなかった訳ではない。

それ故に対策さえ行えば簡単に落とせる可能性もあると思っていたハイネだったが、どうやら敵は精鋭エースと呼ぶに足る腕を持っているようだった。


──とはいえ一瞬気を抜けば精鋭エースでも死にますよ。


任務は敵が精鋭エースであるか確かめろ、という内容。

だからハイネはこの敵との再度の対決があり得ることを念頭に置きつつ、あくまで手を緩めはしなかった。

それは手を抜けばこちらが危なくなるということでもあり、同時にそうした運を持っているか、ということを確かめる意図もあった。


そうして薄暗い神殿の中、剣と剣が交錯する中、轟音が鳴り響いた。

神殿を揺らす勢いの衝撃。震える地面にハイネは、はっ、としてすぐさま連続の跳躍ステップ、敵から距離を取る。


「クリスさんっ!?」


敵が顔を上げて声を漏らす。

同時にハイネに“眼”、カーバンクルから簡易なマーカーが送られた。


8《アハト》がもうすぐそちらに到着する。


と。



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