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虚構転生//  作者: ゼップ
雪降る戦場、はじまりの聖女、そして……
125/243

124_展開


「何でも、敵の精鋭エースを襲えということだとさ」


実働のパーティ四人でのブリーフィング、カーバンクルは“眼”として装備した単眼モノクルをいじりながら言った。

一夜開けて、風は随分と弱まっている。雪の勢いは相変わらずだが、出撃には支障がなさそうだった。


精鋭エースか、そいつが厄介だから片付けろと?」

「いいえ、違うわ」

「うん?」

「厄介だったら交戦したうえで撤退する

 逆に弱かったら、その場で殲滅する」


田中の問いかけに対し、カーバンクルはそう答えた。

すると隣にいたハイネが顔を出す。


「その判断はどこで行いますか? 個々の判断では難しい面もありますが」

「そうだね……」


カーバンクルは顎を撫でる。

そして田中とハイネを交互にみたのち、


「君たちが手こずったら強敵という判定でいいさ」

「そんなものか?」

「殺してもいい。そう告げた君が殺せない相手。十分に強敵の範疇だと思うがね」


カーバンクルはからかうように言った。

仮にも隊のブリーフィングだというのに、彼女の口調は何時も軽い。


「あは、それもそうですね。まぁ、10《ツェーン》としても少なくとも僕たちが単騎で殲滅ができない、というのは最低条件だと思います」

「だろう? それでいいか、4《フィア》も」

「え、え? 私?」


そこで話を振られた4《フィア》は、びくりと肩を上げた。

基本的に彼女はブリーフィングにおいて発言をすることはない。


「ええと……うん、私は大丈夫だと、思います。ハイネ君にしろ、ロイ君にしろ、その……」

「了解、まぁどういう意味で“強い”かは接触してみないとわからないが、それぐらいは最低ラインだろう」

「向こうの戦力はどれくらいで?」

「小隊規模だが、どうにも軍内での立ち位置が特殊らしい。情報はこのあと共有するから確かめておいてくれ。

 ただまだ重要なエリアには出てきてないから、そこまで精度は高くない」


とりあえず交戦してみろ。

カーバンクルは軽く言ってのけた。







……そうして、“十一席”はエリアD9でその精鋭部隊を待ち構えることとなった。


エリアL9。

重要拠点である“赤の塔”へ続くエリアの一つではあるが、複雑に入り組み、かつ幻想濃度も不安定となっている。

戦場全体を見渡しても、とびきり雪が厄介なエリアであった。

その日も“教会”と聖女軍両軍共に雪による魔術への干渉を受け、進軍の足を引っ張られているようであった。


そんな膠着した戦場をカーバンクルは“眼”で窺っていた。

眼下に広がる戦場を拡張された意識で見下ろす。

このエリアの戦況として、全体的に“教会”側が押されているようでもあった。

こうした複雑な地形は、“教会”側の物量が意味をなさないことが多いのが一因だろう。

そんな中、2《ツヴァイ》、4《フィア》、8《アハト》の異端審問官は、標的の部隊が表れるまで、各自息をひそめて待っている。


高性能な模倣品パスティーシュを与えられている彼らが援護に加われば、あるいは戦況も変わるかもしれない。

それを無視して独自の行動を取っているのだから、味方から恨みを買っても仕方がない。

いや“教会”の正規軍にしても、異端審問官の援護など欲しくないかもしれない。

そうでなくとも、こんな独自装備ばかりの部隊との連携など、やりづらいだけだろうが。


──しかし、最近結成されたらしい、この精鋭エース部隊


カーバンクルは与えられた情報を振り返る。

聖女軍側の装備は、基本的に量産しやすいrUn系列の偽剣ソードレプリカが使われている。

“ルーン・アサルト”や“ルーン・ガード”で固められての運用が多いが、この部隊は最大火力や射程が異常な偽剣ソードレプリカが確認されており、それだけでも特異だ。

もしかすると軍内部の立ち位置は“十一席”に近いのかもしれない。


だがそれ以上に目を引くのが、敵部隊の中核と思しき、圧倒的な機動力を持つ偽剣使いだ。

“教会”側から“翼つき”の仇名で呼ばれつつあるこの敵は、通称通り幻想リソースで構成したと思しき翼を展開するのだという。

聖女戦線の複雑な地形と、三次元的な動きを可能にする翼の相性は抜群で、捕捉することすら困難という報告も上がっていた。

その特徴から翼人の可能性が高く、であれば物質フィジカル的には弱い筈、という分析も上がっていたが……


──どうにもね


カーバンクルは、情報を見ているだけで、どうしてもある可能性を想起せざるを得ないのだった。

力量や特性、そして近くに聖女がいるという事実。

これらから導き出せるその仮説は、それなりに現実味があるように思うのだった。


まだ確認回数がそう多くないうえに、雪で記録魔術レコーダーが上手く動作しないため、敵の情報はどうしても不明瞭になってしまう。

そのため断言はできないのだが……


「お、これは」


そこでカーバンクルの“眼”が反応がした。

戦場に現れたその敵の異常なまでの速度に、彼女はその反応こそがお目当ての敵だと判断する。


「近くにいるのは……ハイネか」


“眼”で情報を確認しつつ、カーバンクルはハイネへとマーカーを送った。

何にせよ、こちらでぶつけてみればわかる筈だ。


「……さて、田中君も向かわせた方がいいだろうね、こいつは」




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