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虚構転生//  作者: ゼップ
雪降る戦場、はじまりの聖女、そして……
123/243

122_ジャンクション


……聖女直轄の独立部隊、YUKINOユキノ隊は結成以来、快進撃を続けていた。


マルガリーテが“眼”となり、戦局全体を見渡す。

斥候としてフュリアが戦場を駆け巡り、そうして集めた情報を下に、キョウの圧倒的な機動力を持って駆け抜ける。

マルガリーテの護衛として、ついたヴィクトルは黙々とだが完璧に仕事をこなす。


そうして噛み合った結果、YUKINOユキノ隊には常勝の遊撃部隊としての評判ができつつあった。

彼らが援軍としてやってきたエリアは、瞬く間に制圧され、“教会”の兵士たちを追い払ってくれる。

そんな噂が立つのも時間の問題だろう、とマルガリーテは考える。

聖女直属、という肩書も効果を発揮している。

こと聖女軍において、その肩書は特別であることの証拠だからだ。


──ここからが勝負ですわ


YUKINOユキノ隊が勝ってきたのは、決してマルガリーテやキョウの力ではない。

自分たちは聖女ではない。単騎で行えることには限りがある。

事実、常勝の部隊としての名は上がってはいるが、不殺の部隊、などという噂は立っていない。

理由は単純。敵にも、味方にも死者は出ているからだ。

いかにキョウが駆け抜けようとも、結局のところ、手が届く範囲には限りがあった。


──それに、勝てるのも当然


これまで部隊が戦ってきたのは、元々優勢な上にグランウィングの名が有効に働くエリアばかりだ。

マルガリーテが“眼”として機能しているのも、駐留している部隊が好意的なことが大きい。


言ってしまえば、ここまで常勝の部隊でいられたのは、勝てる戦場だけを選んで戦ってきたことが大きな理由だ。

突然やってきた独自の指揮系統の部隊など、通常ならば疎ましく思われる。

グランウィングの名が通じず、情報提供をスムーズに受けられなくなれば、この陣形フォーメーションもすぐに機能しなくなるだろう。

クリスに揶揄されたように、マルガリーテのことを嫌う部隊もそう珍しくはないのだから。


そのクリスは、初出撃以来ひとまず命令に従っていた。

“眼”とキョウの組み合わせに、己単独では抗することができないと察したのだろう。

マルガリーテのバックアップを受け入れる代わり直接敵を殺さない、という最低限の命令だけは守らせていた。

『ルゥン』の最大火力は非常に敵に対して牽制としても非常に有効だ。

キョウと並ぶ部隊の前衛として、クリスもYUKINOユキノ隊の一員として機能していた。


──きっと、納得はしていないでしょうが


“不殺”の戦闘も含め、全体でキョウに合わせる形の陣形フォーメーションだ。

己の力を示したいクリスにしてみれば、受け入れがたい面があることも、マルガリーテは重々承知していた。

隊長がマルガリーテであることも関係している。


それでもクリスが一応、従うようになったのは、結果を出しているからだ。

YUKINOユキノ隊は常勝部隊として名を馳せつつあり、そのことでクリスの評価もまた上がっていた。


実験体である彼女は、戦闘のたび本営から来る魔術師エンジニアたちに逐一データを提供しているのだが、その際にも活躍を褒められているのが見えた。

魔術師エンジニアたちの笑顔に囲まれるクリスは、わずかに照れているようでもあり、隊にいると時と随分違っていた。


少なくとも結果を出しているうちは、不服に思いつつもクリスはついてきてくれるだろう。


──逆に言えば


結果が出なくなれば、どうなるかわからない。

クリスのこともだが、元々ニケアの言葉で特異に編成された部隊。

戦果が上げられなくなれば、存続すら危うくなるだろう。


そう冷静に分析しつつ、マルガリーテは次なる戦略を立てていた。

この聖女戦線での地位確立はあくまで手段に過ぎない。

“無血”の理想のためにも、こんなところでつまずいている訳にはいかなかった。


──それに、そろそろ敵方にも噂が立つ頃でしょうし……








「ふむ」と10《ツェーン》は声を漏らした。

その瞳には単眼モノクルが据えられ、目の前には本が広げられている。


彼女は通常よりもマクロな範囲、聖女戦線全体を見渡す“眼”となっていた。

“教会”における異端審問官“十一席”は疎まれているが、しかしその地位自体は非常に特異であり、ある種の強権も持っている。

だからこそ、それを取りまとめる立場にある彼女は、全体データの閲覧権限を持っていた。


そうして戦場を見渡しながら、彼女は一つの結論を出した。


「……この独立部隊、試してみるか」


ここしばらく、目覚ましい動きをしている敵部隊があった。

少数精鋭ながら、全体を引き上げる形でエリア規模での勝利を続けている。

まだ重要拠点には顔を出していないため、脅威としては認識されていないが……


「せいぜい、使わせてもらおう」


10《ツェーン》はそう小さく呟くと、前線に立つカーバンクルへとマーカーを送った。

ターゲットとなる敵の精鋭エースが決まった、と。




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