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虚構転生//  作者: ゼップ
雪降る戦場、はじまりの聖女、そして……
117/243

116_パーティ


戦場では雪が降り続いていた。

エリアAX、と名付けられたこの地区は、“教会”の勢力圏内ということもあり、静かなものだった。

半壊した高層ビル──にしか見えない神殿の上にて、灰色のカソックを纏った異端審問官たちが集っている。

その中には、田中もまた並んでいた。


「……さて、一応これで全員という訳ですね」


そこに並んだ“十一席”を見渡し、10《ツェーン》がそう述べた。

指揮官に当たる1《アイン》ことカーバンクルと彼女二人が前に立つ形で、このブリーフィングは開かれた。

と言っても、カーバンクルの方は基本的に10《ツェーン》に任せっぱなしで、一歩下がった位置で柵に持たれかけていた。


「全員と言ってもよ、何か一人足りなくねえかい」


対して並んだ異端審問官のうち、3《ドライ》が茶々を入れるように言った。

だがその言葉は正しい。この場に集っている異端審問官は、1《アイン》、2《ツヴァイ》、3《ドライ》、4《フィア》、8《アハト》、10《ツェーン》の計六人。

11《エルフ》は別枠であるにせよ、生き残っている異端審問官のうち、9《ノイン》だけがいない。


「9《ノイン》は既に先行して任務に入ってもらっています。知っての通り彼女の本分は戦闘にはなく──」

「へいへい、まぁ切札というか鬼札という訳かい」


3《ドライ》がくだけた口調でそう返した。

9《ノイン》。

彼女もまた、10《ツェーン》と並んで田中の心を見だす存在だった。

田中のなかにいる、もう一人の8《アハト》が、明確に色濃い反応を示すもう一人の存在だった。


「ここにいない9《ノイン》も含めて、七人全員での第一聖女討伐が、今回の任務の目的になる。

 ──2《ツヴァイ》、ハイネ。説明を」


呼びつけられたハイネは「はい」と落ち着いた口調で返し、前に立った。


「知っての通り、第一聖女の力は強大です。

 他の聖女は“転生”という条件があるが故根絶できなかった存在ですが、この聖女だけは違います。 

 そのあまりにも強大な奇蹟ゆえ、この百年間そもそも討伐ができなかった存在なのですから」


田中は昨日確認したエリアT3のことを思い出す。

すべてを“まっさら”にしてしまうあの圧倒的な力こそが、第一聖女の奇蹟なのだという。

他の聖女とは違った、ただただ強大であるという奇蹟。

それが今回の敵なのであった。


「マトモにやり合えば、こちらに勝機はありません。

 物量や新型の投入などでどうこうなる相手ではない。これがこの百年で僕らが学んだことです」


ハイネはよく通る声で続けていく。


「第一聖女について、僕はここしばらくこの聖女戦線にて、単独で分析を重ねてきました。

 そこで今回の討伐作戦を遂行するにあたって、狙うべきポイントは一つになります」


それは──我が軍が大敗をした直後です。


そうハイネは語った。


「集中、そして節約です。第一聖女の力はあまりにも強大ですが、しかし奇蹟の行使も何も無限ではありません。

 エリアT3ほどの出力で奇蹟を行使すれば、その直後は力が弱まるのが確認されています」

「つまり、聖女にわざと力を使わせるってことね」


挟まれたカーバンクルの言葉に、ハイネは頷いた。


「聖女は嵐のようなものであり、気まぐれな存在です。

 どのタイミングでどのように戦場にやってくるか、まるで掴めません。

 しかし、そんな聖女でも、過去の例から必ず介入してくる場面があります。

 聖女軍の兵士は語ります……絶対絶命の時、聖女は必ず空より舞い、窮地を救う、と」


ハイネはおもむろに空を仰いだ。

分厚い雲から、変わらない勢いで雪が降り続いている。


「“教会”が勝利を確信した時、

 あるいは聖女軍の兵士が、死を覚悟したとき、

 第一聖女はすべてを単騎にてすべてを逆転させ、“教会”を大敗させます」

「──つまり、作戦はこうだ」


引き継ぐように10《ツェーン》が言った。


「一エリアにて、徹底的に聖女軍を追い込む。

 そこで聖女の乱入を誘い、我が軍を──あえて見捨てる。

 そして消耗した聖女を8《アハト》が討つ」


名を呼ばれた田中は、あえて黙したままだった。

敵も、味方も、あまりにも多くの死をもたらすであろう作戦にも、何も言うことはない。


10《ツェーン》は全員を見渡しつつ、告げた。


「全体の作戦指揮は私、10《ツェーン》。補佐には3《ドライ》。

 そして強襲部隊として、1《アイン》殿を隊長に、2《ツヴァイ》、4《フィア》、8《アハト》。

 この四人のパーティにて、作戦を遂行を行います」


……百年続く聖女との闘争に終止符を打つべく、“十一席”は動き出していた。







聖女軍本営にて、マルガリーテを隊長とした独立部隊、YUKINOユキノ隊の編成が行われていた。

神殿中層の一室で、マルガリーテは集った隊員たちと会話を交わしていた。


「なんで、私がこんな部隊に……」

「私の指名ですわ。キョウさんの大親友とのことでしたので」


そう告げると、フュリアは不満そうに口を尖らせた。

現在彼女は部隊に組み込まれてなかったこともあり、YUKINOユキノ隊に選別されていた。

ニケアに指名されたキョウやマルガリーテ、聖別計画の“成果”であるクリスティアーネのほかに、通常の指揮系統外の部隊ということで、今空いている・使いやすく・腕の立つ人員が必要だった。

その点で、フュリアは契約が今浮いており、腕も問題なし、キョウとの面識もあるということで、条件に合致しているのだった。


「あのへんちくりんな剣士方と、アンタと、私で全員かい?」

「あ、いいえ。もう一方いますわ。YUKINOユキノ隊はその方も含めて五人のパーティになります」


とはいえそうそう優秀な人材は浮いてはいない。

なので、とにかく腕が立ち、しかし現在とある事情により指揮系統に組み込まれていなかった偽剣使いが選ばれた。


「ええと……彼もギルドの偽剣使いになりますわね。

 マリオンさんから紹介された“ガンマン”のヴィクトルという方らしいのですが」




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