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虚構転生//  作者: ゼップ
雪降る戦場、はじまりの聖女、そして……
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109_最強の聖女


……第二聖女討伐に向かう前、カーバンクルは田中に対してこんなことを語っていた。


「そうだな……6《ゼクス》はまぁ面倒見がいい奴だし、7《ジーベン》も意外と話しやすい奴だからな。

 この辺にしばらくはくっついておくといい気もするなぁ」


異端審問官のメンバーのうち、いない面子も含めて、誰を頼るといいか、という内容だった。

“教会”に入ったばかりの田中に対して、彼女なりの気遣いだったのかもしれなかった。


「5《シュンフ》もまぁ、悪くないと思うよ。ハイになると手をつけられないが、普段は問題ないわ。それに、可愛いし。

 逆に3《ドライ》とか4《フィア》あたりはあんまりオススメしないというか、根が適当な奴らだから真似はしない方がいい」


何時ものようにどこまで本気かわからない、軽めの口調で彼女はつらつらと述べていく。

もはや忠告するほどでもないと思ったのか、10《ツェーン》や9《ノイン》については言及しなかった。

加えて当然と言うべきか、11《エルフ》には触れなかった。


そんな中、彼女が最も自信を持って語った審問官のことは、田中もよく覚えていた。


「でもまぁ、一番のオススメはハイネ、2《ツヴァイ》だな。

 今はここにいないが、困ったことがあればとりあえず頼っておくといい」


カーバンクルは目を細めて、


「よくできた奴だからね。異端審問官にはあるまじきことに」







「よろしくお願いします」


そう柔和に語るハイネに対し、田中はしばし逡巡したが、小さく「8《アハト》だ」と返した。


「ふふ……知ってますよ。ロイさんでしょう。

 既に聖女を三個体撃破という大金星を上げたという」

「……俺は」


今まさに四個体目の失敗について、語っていたところだった。

田中の様子にハイネは首を振って、


「ああ、いいえ、別にこれ、皮肉じゃないですよ。

 僕たちは100年間に渡って、敵である聖女たちを、真の意味で滅ぼすことができなかった。

 そんな僕たちにとって、貴方のような方が仲間になってくれたことは、本当に心強い話です。

 ──貴方の存在を聞いてから、ずっとこれを伝えたかった」


なんだか小恥ずかしいですね、ハイネはにこやかに言った。

恥ずかしいのはこちらだ、と田中は思わず思ってしまった。


「それですいません、10《ツェーン》。ブリーフィングに遅れてしまって」

「……いや、いい。どうせ参加率の低い回だ」


話の腰を折られた形になった10《ツェーン》だが、ため息を吐いてそう言った。

それまで黙っていた4《フィア》もハイネには話しかけやすいのか、口を開いていた。


「ハイネ君が来なかったら……ほとんど意味のない回……だったかも。みんな大体の事情をもう把握してるから……」

「ええ! それこそ、僕が遅刻しちゃダメな奴でしたね。ごめんなさい、ちょっと暖かいベッドがで久々で」


どうにも田中は、いつの間にか空気が弛緩していることに気づいた。


ハイネはその中にあって、ニコニコと笑みを振りまいているのだった。

やや唐突にやってきたこの美少年は、どこか周りのものの警戒心を解かせるような、不思議な空気を漂わせているのだった。


「それで──ハイネ。君こそ報告を」


10《ツェーン》がやや口調を切り替えて尋ねた。


「ええ、聖女戦線──第一聖女ニケアは以前として健在です」


するとハイネもまた、表情から笑みを消し語り始めた。


「第一聖女ニケア。初めて観測された聖女にして、七個体中唯一、一度たりとも代替わりを起こしたことがない聖女……」


10《ツェーン》が漏らした言葉の意味を田中は考える。

“転生”による代替わりをしたことがない聖女。

それはつまり、この百年で一度も討伐されたことがないということだった。


「第一聖女は、単純な戦闘力という点では、間違いなく最強の聖女です。

 おかげで聖女戦線は泥沼です。物量では圧倒的に“教会”が勝っているにも関わらず、です」

「戦局は依然と変わらずという訳か」

「長らく続く泥沼状態です。それもすべて、第一聖女という圧倒的な旗頭が敵にいるから。

 そして我々“教会”は、彼女を消滅させる力を持ち得ていなかった。 

 仮に討伐できたとしても、“転生”されてしまえば、またどこかで敵対勢力が再起しかねない」


ハイネは田中の方を一瞥して、


「しかし、今はもう違います。

 我々は、8《アハト》という鬼札を手に入れました。

 それに新型騎の『リリアネイル』の方も順調に生産が進み、戦線を支えてくれます」


第四聖女こそ逃したものの、既に田中によって言語テクスト化させた聖女の解析は進んでいる。

結果として──田中が聖女を討つことで、“転生”を防げる可能性は大きかった。


「この百年で、初めて訪れた反撃の機会です。

 “希望”のニケアを滅ぼし去る芽がついに出た」


ハイネは立ち上がり、凛とした口調で言った。


「だからこそ──やりましょう。

 全ての““十一席””を動員しての、第一聖女攻略作戦を」


それは、現在残っている異端審問官は7人を投入しての、一大作戦の提案だった。




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