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崩壊するドグマとまさおの日常  作者: 和泉書房
秋のこと・一夜明けて
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風景35

 己の生まれた家がとある格闘家の道場であったこと。そして生まれた場所がこの町であったこと。この二つの事実が緒方の人生を強烈に縁取っていた。幼き頃からの理不尽で過酷な鍛練の日々。町を歩けば血の気の多い連中を相手とした喧騒の日々。この二つの日常が、まるで二つの細い糸となって、若き格闘家緒方の日常生活を強烈に織り成していた。

 そしてその生活を振り返ってみて、この格闘家の日常とは、相矛盾した二つの心理と共にあった。即ちまず、警戒心。護身の術を会得することで、外界の危険を事前に察知し、それを避けることを可能にするのもまた武道の目的。それを達成すべく、鍛錬と精神修養を通して一種の警戒心を身につける。

 その一方で、その技術を磨くことを考えた場合、日々常人では耐えれないような鍛錬、危険の中にその身を置かねばならない。そしてその挑戦を通して芽生える危険に対する闘争心。

 この二つの精神の葛藤が格闘家の生活を明確に規律するのであった。

 生来、緒方はそのことを本能レベルで体得し、己の原則として生きてきた。

 結果、徒な危険は避けるが、一度そこに己の鍛錬としての機会を見出したならば、恐怖を押しのけ、迷わず黙って進むのである。今、目の前に昨日まで想像するだけであった畏怖の対象が立っている。流石の彼の内にも恐怖がまず沸き起こる。しかし、果たしてこの様な絶好な機会が他に有ろうか?アイアン・スペイシー。凡そ今日の総合格闘技の世界で知らぬ者はいないトップランカーである。ブラジリアン柔術とムエタイをバックボーンに持つこの男に技術的死角は認められない。緒方は映像で何度も見た。身長200㎝、体重100kgに近い体格ながら、その動きはライト級ボクサーを思わせる俊敏さ。そんな相手に自分が勝てるわけがない・・・。それは緒方自信が誰よりも理解していた。しかし、ここで、打って出ずして何のための日々の鍛練であったか?このまま、町の素人相手の殴り合いで無双を誇る日々を送ったとして、一体それに何の意味があるのか?恐怖に身を晒してでも、今ここで己の半生を試すべきではないか?

 数秒の思案の後、緒方は静かに顎を引き、脇を締め顔面のガードを固めつつ、間合いを詰め始めた。少なく見積もってもアイアン(幻覚)との身長差は20cm近くある。打撃の応酬にこの差は大きく、アウトレンジでの打ち合いは避けたい。よってセオリーではあるが、グラウンドでの上からの突き、または即効でのサブミッションでの決着を狙うことにした。まずフットワークを生かしたローと、ジャブのコンビネーションで相手の注意を上下に分散させ、隙が出来るのを待つ。アイアン(幻覚)の間合いを伺い、その強敵の制空圏と己の間合いが触れる、仮に静電気ならば容易く発生するかと思われる程の、ギリギリの数㎝の世界で、緒方はすかさず鋭いローを放つのであった。

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