風景3
朝起きる。兄達は家を出てるので、前よりかは幾分部屋が広くなり、この時間も静かになった。この町の東部それもかなり端の方にまさおの家はある。商店街の一角で親が商売を細々やっており、暮らし向きはまぁ、余り誉められたものではない。この時間、まだ近所は眠っている。まさおは比較的静寂が保たれたこの朝の時間が好きだった。
カッコつけてコーヒーでも煎れようかと思い、一階の台所に降りる。お湯を沸かして、キリマンジャロと、あと何かよく判らんが大層なお豆をしこたまブレンドしてる粉末を用意する。
「自分では判らなくても、違いの判る人がCMでジャッジしてたから間違いない。」
情報過多の大衆消費社会において、模範的市民かという程の商業広告に対する盲目的従属の振る舞いである。BGMがダバダーと鳴り響き、煎れたてをすする。至福の時間である。しかし、そんなまさおのダバダは即座に打ち破られた。
「開けて、開けてよ。まさおー。」
表のシャッターを叩く男が一人。招かれざる客である。
「で、今度は何したの。つか、服は?被ってるそれ何よ?」
「わかんねえ。何でだろね?」
「知らねえよ。」
先程海水に浸されかけたこの男によって、まさおのダバダはコーヒーの湯気とともに消えてしまった。