風景27
「見つけました。ええ無事です。お嬢さん達は帰しますんで後はまあ、頼みます。で、捕まえた相手なんすけど・・・そうですか。わかりました。失礼します。あ、後あんまりお嬢さんきつく叱らないでやって下さい。怪我はしてませんが、夜道で大分怖い思いはしたみたいなんで。ええ。それじゃあ。」
鳥山は高田との電話を切ると、事務所から車を二台持ってこさせ、まず、一台に少女二人を乗せ部下に家まで送らせた。大分怖いものを見たらしく、顔面蒼白で二人とも終始無言、目が虚ろだった。黙って車に乗ってくれたは良いが、心の傷という言葉が鳥山の頭によぎった。
「で、残ったこいつだ。」
先程数十発殴られ、目の前でくたばっているこの男。見たところ一般人というわけでもないが、かといってどこぞのヤクザという程の風格も無い。“大層安っぽいホスト”それが鳥山が田渕に対して抱いた感想であった。
「パーティー帰りの酔っ払いホストの馬鹿騒ぎにでも巻き込まれたか・・・。」
そう言って田渕が持っていたステッキを取り上げ、一瞥すると、草むらに放り投げた。鳥山の予想はほぼほぼ正解なのだが、次の瞬間出てきた物が不味かった。
「あれ、兄貴。こいつ背中に何か隠してますよ。」
それは、先刻田渕が頂戴した、隣の客のハンドバッグであった。
「貸してみろ。」
ジッパーを開けて、ひっくり返し、中のものを全部吐き出させた。すると、そこにいた鳥山と、駆けつけた部下二人に戦慄が走る。
「マカロフ・・・。サプレッサーまで・・・。」
拳銃、そして消音装置がゴロリと出てきた。
「え、え、何これ。」
酔いを鉄拳で無理やり冷まされて、そして今目の前の見覚えの無い武器に、田渕は混乱のピークであった。鳥山は財布や携帯といった身元が割れるものが、他に無いか漁ったがそれらしいものは何一つ無い。端から見れば、今これからまさに人を殺しに行く、その為だけに準備されたバッグに見えた。すると、その底で小さく金色に光る物が見え、鳥山はすかさずそれを取り出す。それは小さなバッチであって、漢字で一文字“孝”と彫られている。再度その場にいた人間に衝撃が走る。鳥山はおもむろに電話を取り出し高田にかける。
「度々すみません。さっきの捕まえた奴なんすけどね。持ってたカバンの中からマカロフと・・・孝道会の金バッチ出てきちゃいまして。え、・・・そうすか。・・・わかりました後はこちらで。失礼します。」
電話を切ると、鳥山は部下の一人にライターを催促して、煙草に火をつけた。二口吸って重い口が開いた。
「これは本家には報告しない。おやっさんの命令だ。お前ら黙っとけ。」
部下達は静かに、しかし内心忸怩たる思いで聞いている。抗争の火種にはしないということで、平和は当分保たれる。しかし、それは一方で自分達の今晩の仕事も評価されないということも意味していた。
「あと、こいつの扱いだが。それはこっちに任せるってことだ。」
それを聞いて部下二人はハッとした。鳥山は決して上の人間の意に背く様なことはしない。しかし、一度裁量を任されたならその中でどんな非道なことでもやる男であった。こと、敵対する人間、組織への狂暴さは並外れていた。
「鳥山さん。こいつ殺す気だ。」
二人の部下は咄嗟に理解した。察しが良いというより、もともとそんな鳥山の気質と馬が合うから付いてきた連中なので、必然の結論に至ったという方が正確であった。
「生憎追い出されてる身とは言え、こっちも天道組の代紋背負ってんだ。テメェなめたことしてくれて、分かってんだろうなぁ?」
鳥山のスイッチが入ったのがわかった。
「まあ聞きたいこともある、全部吐くまでつき合ってもらおうか。」
その時足元の散乱した荷物に紛れて、一枚のカードが目に留まった。
「てめえこりゃ何だ?まあ良い。好きで持ってんだろ。吊られてんだが、磔にされてんだかわかんねーがこの絵の通りにしてやる。・・・そうだな、お前ら海まで行くぞ。」
「ファッ!」
田渕ははビビって声が出ない。部下にひとしきり荷物をまとめさせた後、縛り上げた田渕をトランクに乗せた鳥山達のセダンが東の海へと向かい走り出した。




